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番外編 秋 雛(ひな)の王子
12.錦秋 ③
しおりを挟む晴れ渡る空の元、私たちは朝早くから滝に向かって出発した。
スヴェラの馬車の方が広くて性能がいいと叔父が言うので、4人で一台の馬車に乗り込んだ。フェリクス王子が私の隣がいいと言えば、叔父は私の正面に座る。ヴァンテルがどんどん無表情になるのが気になったが、馬車は快調に山道を進んだ。
山並みを染める木々の葉は見事な色合いを成している。赤や黄色に色づき、青空との対比が美しい。木々の合間から、銀色に流れ落ちる滝が見えた時、フェリクス王子が興奮して叫んだ。
「あっ! アルベルト様! 滝!!」
銀色の水が天からこぼれ落ちるように堂々と流れ落ちる。飛沫が陽射しを浴びてきらきらと輝く様は見事だった。馬車は滝が流れ落ちて川になっている場所で歩みを止めた。
馬車から降りると、ごうごうと轟く水音が聞こえる。フェリクス王子は真っ先に滝に向かって走っていく。
「フェリ!」
叔父が叫ぶのと同時にレビンが後を追い、川の前で王子を止めた。目の前には瀑布と滝壺がある。滝壺から水は溢れるように、下流に向かっていた。
「フェリ、あまり近くまで寄ってはいけない」
夢中になって眺める王子を叔父が強い口調で諫めた。
「はい、父上。……少しだけ水に触れてもいいですか?」
フェリクス王子はそう言いながら、すがるように私を見る。私は思わず叔父を見上げた。
「叔父上、私もフェリについています。少しだけなら、よろしいでしょう?」
叔父はため息をつきながら言った。
「……仕方ない。少しだけですよ。アルベルト殿下も、くれぐれもお気をつけて」
私はフェリクス王子と違って疾うにニ十歳を越えているが、叔父の目には幼い我が子と大差ないのかもしれない。
滝壺に近づくほど流れ落ちる水が白く泡立ち、飛沫を上げて舞い上がる。濡れた岩に滑らないように注意しながら、比較的緩やかに水が流れている場所に向かった。
平らな岩に乗り手を伸ばして水に触れる。あまりの冷たさに驚きさっと手を引き上げると、隣にいた王子は恐る恐る水に手を浸した。
「つ……めたっ!」
ぱぱっと手を振るので、お互いの顔に飛沫がかかる。私たちは思わず笑った。フェリクス王子の濡れた顔を手巾で拭ってやると、ぽつりと言葉が漏れる。
「……父上は、アルベルト様が言えば許してくださる」
「フェリ?」
「スヴェラでは叱られてばかりなのに、ここはとても楽しいです」
一瞬、驚くほど大人びた顔が見えた気がしたのに、目の前にあるのはいつもの笑顔だった。
マルクが腕によりをかけて作ってくれた昼食を皆で食べた後、私たちは滝の周りを散策した。
木々の側を歩いていくと、美しい葉や団栗を拾うことが出来る。フェリクス王子が団栗を次々に渡してくれるので私の両手はすぐに塞がり、今度はレビンがせっせと受け取っている。仕舞いにはレビンを引き連れて、王子は木々の中に入っていった。
「アルベルト様」
ヴァンテルが後ろから声をかけてきた。
手の中の団栗の上に、見事な紅の葉がひらりと降ってきた。まるで幼い子の手の平のような形の葉だった。
「今日の贈り物です」
「……ありがとう」
私は団栗を手近にあった平たい岩の上にそっと置いた。ヴァンテルがくれた紅の葉だけを摘まんで手に取る。
陽射しに透かせば明るくなり、手の平に置けば色がより深くなる。美しい紅の変化に微笑むと、隣に立つヴァンテルの唇が私の唇に重なる。どきどきと胸が一気に高鳴った。
すると、その時。
森の中を切り裂くように、細く高い悲鳴が聞こえた。
「あれは……」
「フェリ?」
私とヴァンテルは、同時に声のした方を見た。私にここにいるように告げて、ヴァンテルは森に向かって走り出す。だが、一人で待っていることなどできるわけがない。私はすぐにその後を追った。
分け入った木々の間に見えたのは、抱き合うフェリクスとレビン。そして、その先にいたのは──……。
森の王者の姿だった。
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