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番外編 冬  真冬の使者 ※

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 守り木の村で過ごした後に、公爵家の居城に泊まった。

 翌日、朝食の席でヴァンテルが楽しそうに笑う。

「珍しいものをお見せしますよ、アルベルト様。早速、参りましょう。」

 馬車で山道を揺られながら、ヴァンテルは隣に座る私にぴたりと張りついていた。こんなに機嫌のいいヴァンテルを見るのは久しぶりで驚く。
 目が合えばすぐに口づけてきて、手はずっと握られたままだ。

「……クリス」
「何です?」
「……いや、何でもない」

 飽きないのか? と聞こうと思ったが、うんと言われたら困るのはこちらだ。頭の上で、小さな笑い声が聞こえた。

「……飽きるわけがないでしょう」
「えっ?」
「何度でも、惚れ直します」

 ……どうして、口にしなかった言葉がわかったのだろう。

 胸がぎゅっと痛くなって、頬が熱くなる。
 嬉しいと言おうと思ったのに、優しい口づけの中に言葉は消えてしまった。


 しばらく走ったところで馬車が止まり、白い息を吐きながら外に出た。

「珍しいものって……これ?」

 私は驚きを隠すことが出来なかった。目の前に広がっているものを見て、息を呑んだ。

「病の体を癒し、万人に力を……って言うから、てっきり」
「食べ物だとでもお思いでしたか?」
「うん。蜜のようなものかと思っていた」

 ヴァンテルが満足そうな微笑を浮かべる。

「上流に源泉があります。下流になるにつれ温度が下がりますが、ここは人肌に心地よく感じる温度です」

 私とヴァンテルの前に流れているのは、川にしか見えない。しかし、水からは湯気が出ているし、触れれば温かいのだ。
 見上げれば岩山の表面から幾筋も湯が伝い落ちて、あちこちの窪みに溜まっている。そこから溢れた水が、さらに下って川になる。

「神の恵み、と呼ばれています。この湯に浸かれば万病が治るとも」
「知らなかった……」
「公爵家の直轄地ですので、近寄る者はいません。子どもの時に知りましたが特に興味もなかったので、長らく忘れていました」

 ヴァンテルの興味は引かなかったかもしれないが、私には面白かった。湯が流れていく川があるなんて思ったこともない。近づいて触れれば、温かくて気持ちがいい。何度も手を浸している私を見て、ヴァンテルが言った。

「……入ってみますか?」
「えっ」
「殿下の御体もきっと、癒してくれるはずです」

 見惚れるほどに美しい笑顔がそこにあった。
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