【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

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36.ラウェルの想い ②

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 オリーに会いたい⋯⋯。
 隣の部屋にいるって聞いたけど、どちらの部屋だろう?

 僕は音をたてないように、そっと寝台から抜け出した。
 見えるようになってから部屋の中を歩くと、距離感がおかしいのに気がつく。目を閉じて確かめた方が楽なこともあるんだなと思いながら、慎重に進んだ。

 広い廊下に出た時、小さな歌声が聞こえた。切れ切れに、囁くような声だ。でも、ミツドリなら音を捉えることが出来る。ぼくは歌声のする右側の部屋の扉の前に立った。


 月夜の森で小さな一羽の鳥が鳴く。
 自分はここだと鳥が鳴く。
 さ迷い眠るその上に月は光を投げかける。
 今宵も君を見ていると。
 静かな光を投げかける。


 優しい歌声が、遠い日の記憶を呼び覚ます。

『もういっかい? わかった』
 昔のことだ。小さな手が僕の手を握りながら歌ってくれた。細く高い声にいつのまにか安心して眠った。
『だいじょうぶ、こわくないよ。⋯⋯なかないで。うん、いっしょにいる。ずっと』
 


 扉をそっと開ければ、オリーが窓辺で椅子に座っている。月明かりが入ってきて、金の髪に淡い輝きを乗せていた。外を見ながら歌う優しい声が、静かに部屋の中に流れていく。歌い終わった時に声をかけた。

「オリー、その歌。昔、よく歌ってくれたね」
「⋯⋯ラウェル」

  オリーが振り返って、驚いたように僕を見た。嬉しさで小走りに近寄り、ひょいと膝の上に乗る。以前だったらオリーを見上げていたのに、今は視線がぐっと近くなった。
 ⋯⋯大きくなるってすごいことだ。
 鼻が触れそうなほど顔を近づけると、オリーは僅かに眉を顰める。弾んだ心が一気にしぼんだ。

 ⋯⋯オリーは嫌だったのかな。
 きゅっと胸が痛くなる。僕は何となく気まずくなって項垂れた。

「ご、ごめんね。降りるね」
「⋯⋯いいんだ。驚いただけだから。ラウェルが急に成長したから、気持ちが追いついていかないんだ」

 僕が膝の上から降りようとすると、止めるようにオリーの手が背に回った。オリーは困ったように笑う。目の前の蒼い瞳には、小さな戸惑いと迷いが見える。

 ⋯⋯もしかして、オリーは僕が幼体のままの方がよかったんだろうか。

 鏡を見ていない僕には、自分の手足や髪が伸びたことしかわからない。物置部屋ではあったらしい翼は、目覚めた時には消えていた。アナンもシオンも何も言わなかったけれど、ものすごく変な顔や⋯⋯姿になっているのかな。思わず自分で両頬を触ってみても、つるりとしているだけだ。そんなに変わった感じはしなかった。

「オリー⋯⋯。オリーは今までの僕の方がよかった?」
「えっ?」
「急に大人になったのは⋯⋯嫌だった? 僕、何か⋯⋯変かな? 自分で触っても、よくわからないんだけど」

 僕は手を膝に下ろして、オリーを見た。オリーに悲しい顔をされるのは嫌だ。嫌われるのはもっと嫌だった。体を元に戻すことなんて出来るのかわからないけど、嫌われる位なら子どものままでいい。

「ぼ、僕はオリーに嫌われたくない」
「ラウェル⋯⋯。嫌ったりしない。⋯⋯俺がお前を嫌うわけがない」
「じゃあ、何でそんなに困った顔をするの?」

 オリーは、今度こそ顔を歪めて、小さくため息をついた。

「ラウェル。お前はまだ幼いままなんだ」
「幼い⋯⋯?」
「体が成長しても心は今までと変わらない。体だけが一気に変化してしまった。ミツドリは本来、ゆっくり育つものなのに」

 確かに、中身は変わっていないと思う。

「なのに、そんなに綺麗になられたら⋯⋯困るんだ」
「⋯⋯綺麗? きれいでも⋯⋯だめなの?」

 僕はすっかり途方に暮れてしまった。
 とんでもない姿になっていたらどうしようかと思ったけれど、きれいでもだめだなんて。一体どうしたらいいんだろう。

 泣きそうになっていたら、オリーの唇が、優しく僕の唇に触れた。まるで、羽毛のように。
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