【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
37 / 72

37.オリーの贖罪 ①

しおりを挟む
 
 僕は思わず、自分の唇に指をあてた。触れられた場所がほんのりと熱を持ち、オリーの唇の後をなぞるように指が動く。

 目が合ったオリーは、何かを堪えているような顔をした。

「そんな仕草にさえ、こっちはうろたえるのに」
「⋯⋯うろたえる?」

 オリーは僕の背中に回した手に力を籠めた。ぐっと引き寄せられて、ぴたりと胸に頬を当てる。⋯⋯あたたかい。トクトクと鳴るオリーの心臓の音に安心して、すぐに体の力を抜いた。頭の上から、低い呟きが聞こえる。

「ラウェル、俺は⋯⋯、本当は、ラウェルの側にいていい人間じゃないんだ。こうしてラウェルに触れることすら⋯⋯、許されないことだ」
「どうして? 僕はオリーの腕の中がいい。ここにいるのが一番安心するもの」
「⋯⋯ダートが、大樹の元で言った言葉を覚えているか?」

 ズキンと胸が痛み、ダートの叫びがよみがえる。


 ──オリーがお前の側にいたのは、贖罪の為。
 ──ミツドリの安寧を奪ったのは⋯⋯王弟であり、ミツドリの第一の研究者だった男だ。


 真っ黒な男たちの影。
 次々に倒れて、息絶えるミツドリたち。悲鳴と共に舞う血しぶき。

 体に細かく震えが走って、ぎゅっとオリーの服を掴む。オリーから、後悔と悲しみがひたひたと漂ってきた。さざ波のように、何度も、何度も。

「ラウェルが王宮からいなくなった後、ダートは半狂乱になって俺の手首の拘束具を壊した。そして、叫んだんだ。全ての魔力を⋯⋯、お前の命を削ってでも、ラウェルの行方をたどれと」

 僕はオリーの手首に何もないのを見た。その手首は、以前見た時よりも一回り細くなっている。オリーの頬は肉が削げ、瞳は憂いを帯びていた。

「僕を探して、力を使って、そんなに痩せてしまったの? ダートは僕にあんなに優しいのに、どうしてオリーにばかりひどいことを言うの?」
「⋯⋯わけを聞いたら、お前は俺を軽蔑するだろう。俺は、お前にもダートにもひどいことをしているから」

 僕にも、ダートにも?

「俺の父はリシュリムの王の末弟で、ミツドリの研究者だった。ミツドリに魅せられて、彼らがどうしたら幸せに生きられるかと、生涯を研究に捧げた男だった」

 ミツドリをそんなに愛していた人が、どうして⋯⋯?

 僕はオリーの膝に乗ったまま、体を起こした。部屋の中には月明かりしかない。二人きりの静かな夜に、オリーの言葉がゆっくりと響いていく。

「ラウェル、父は保護されているとはいえ、一つの空間の中で閉じ込められるように暮らすミツドリたちが本当に幸せなのかと考えた。ミツドリは元々この世界のあちこちにいた種族だ。例え数が少なくなっても、自然の中で生きるのが本来の在り方ではないかと思ったんだ」
「でも、ミツドリは人に追われて、数を減らしたんでしょう? 人が増えたらもっと少なくなっちゃう」
「一つの群れの数が少なくなっても、他の群れがいれば、そちらと番うこともできるだろう。淘汰の中で、新たに強い種が生まれるかもしれない。ある時、保護と言う名の隔離をやめてはどうかと兄王たちに進言した。⋯⋯ことごとく反対されたけれど」

 王も宰相も王弟の考えを否定した。王族たちは口々にあり得ないと言った。
 ミツドリが哀れだと。弱いものを守るのは当たり前だと。

「たしかに、ミツドリは人の感情に弱い。でも、彼らには何者からも自由になる翼がある。弱いと決めつけて、私たちはミツドリの生き方を狭めてはいないのだろうか⋯⋯。父がそう話したのをよく覚えている」

 自由になる翼。

 僕はカランカンで働きながら、いつも自分が蒼空を探していたことを思い出した。どこまでも広がる蒼空と、山々の稜線。陽射しに輝き、風に揺れるたくさんの花々。
 ここを出たい、といつも思っていた。新たな空気を吸って、足元に茂る草を踏みしめたいと。
 カランカンにいれば温かい寝床も、毎日の食事もあった。時折ダングリムの街の中で買い物を楽しむことだって出来た。
 ⋯⋯それでも。
 僕はもう一度、外の世界へ行きたかった。オリーと一緒に旅をしたいと思っていた。

「オリー、僕はカランカンにいた時もずっと外に行きたかった。僕はまだ飛んだことがないけど、ミツドリなら⋯⋯外を自由に飛びたいと思うのかもしれない」

 まだ白銀の殻の中で、外に出る時を待っていた頃。うとうとと殻の中で眠っていると、いつも歌声が聞こえてきた。優しい歌の中にたくさんの景色が流れ込む。急峻な山並みや深い谷。流れる大河の姿もあった。その上を自在に羽ばたく鳥たち。あれは遠い日のミツドリたちの故郷の記憶も入っていたのだろうか。

 オリーの手が、優しく僕の髪を撫でた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

向日葵畑で手を繋ごう

舞々
BL
琥珀は付き合っていた彼氏に「やっぱり男とは手が繋げない」とフラれてしまい、そこから更に人を避けて生きるようになった。笑うことさえなくなった琥珀を心配した母親は、琥珀の夏休み期間だけ自分の生まれ故郷である秩父へと送り出す。そこで久しぶりに再会した悠介は、琥珀のことを子ども扱いするものの、事あるごとに自然と手を繋いでくれる。秩父の自然に触れながら、琥珀はいつしか明るく優しい悠介に惹かれていったのだった。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

洗濯日和!!!

松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。 Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。 ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。 ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。 巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。 12話一旦完結からの17話完結。 卒業旅行番外編。 (素敵な表紙はpome様。感謝しかありません) ※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。 ※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。 ※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

処理中です...