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38.オリーの贖罪 ②
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「リシュリムのミツドリは秘匿された存在だ。王族たちは確かにミツドリを愛して大事にしていた。そして、王族たちにはどんな宝よりもミツドリを愛する理由がある。病も怪我も、彼らが歌えば癒されるのだから⋯⋯。父の考えは、喉から手が出るほど人が欲しがる宝を野に捨てるようなものだ。受け入れられるはずがなかった。父自身も、半ば仕方ないと思っていただろう」
「じゃあ、じゃあ、どうして⋯⋯」
「⋯⋯ある時、一羽の若いミツドリが出産で死んだ。それが父の心に衝撃を与えた」
蒼空の瞳に憂いが宿る。僕の髪を撫でる手が止まって、オリーは長い睫毛を瞬いた。
「ミツドリが人との間に授かった子は、母体への負担が大きすぎた。子どもは何とか助かって、王が二番目の王子として名をつけた」
僕は息を呑んだ。
⋯⋯王の、二番目の王子?
「えっ。じゃあ、ダートは⋯⋯。ダートは」
自分の声が震えるのがわかる。オリーは頷いた。
「そうだ、リシュリムの第二王子、ヴァンダートの母はミツドリだ」
王が愛した美しいミツドリとの子。名付けられた王子はすぐに王宮へ、王妃の元に連れていかれた。
ミツドリの一族は嘆いた。自分たちの一族の子は群れで自分たちが育てるものだ。返してくれ、と初めて王に嘆願した。
母がいなくても、代わりに自分たちが育てる。母が注ぐはずだった千の愛情と万の慈しみを、あの子に与えよう。
王は頷かなかった。王の子なのだから王族だ。自分には王子がまだ一人しかいない。リシュリムの王子として、この子は国の為に育てなければならない。万が一、成長と共にミツドリの様相を見せたなら、その時は群れに戻そう。
そんな馬鹿な話があるか、と反対したのは王弟だけだった。
人と変わらず育てばいいが、突然ミツドリに近い変容を遂げたらどうする。人と外界を知った者が、閉じ込められた空間で生きられるのか。いきなり見知らぬ鳥人の群れの中にそう簡単に戻れるはずもない。愛情深いミツドリたちは、それでも一族の子を受け入れるだろう。だが、それは彼らの優しさに付け入るだけではないのか。
王は弟の言葉を聞き入れなかった。ミツドリの子は人型で生まれる。見た目には人の子と何ら変わりないのだ。
王と宰相は、あらゆる手を使って誕生した子を王妃の子だと周知させた。ミツドリの存在を知っているのは僅かな王族と魔導士のごく一部と宰相だけだ。本当の母親の存在は隠され、本人にも知らされることはない。
第二王子誕生の祝賀に国中が沸き立った時に、ミツドリの群れは同族を喪った悲嘆に暮れていた。王弟の胸には、怒りと忘れようとしていた思いが再燃した。ミツドリは、王族に都合のいい道具じゃないと。
⋯⋯オリーの話を聞いて、僕は混乱していた。
ミツドリは王宮に保護されてずっと幸せに暮らしていたはずだ。命を脅かされることもなければ、人の悪意に触れることもない。王族の中には、ミツドリと愛し合い、伴侶とした者もいた。それはおとぎ話のように美しい話だったはずだ。
「ダートは、ミツドリには見えないよ。ぼ、僕だって自分のこと、何も知らなかったけど」
「幸いと言うべきか、ダートの外観にはミツドリの変容がなかった。人の子と変わらず成長し、ダートも俺も出生のことなど知らないまま、従兄弟同士として育ったんだ」
オリーは、静かに言葉を続けた。
「ミツドリの住む空間に王族は自由に出入りすることが出来る。それでも、いくつかの決まりがあった」
十に満たない齢の者をミツドリに会わせてはいけない。
決してミツドリに負の感情を与えてはいけない。
一つだけの卵の巣に近づいてはいけない。
「早く十になりたい。そう思っていたある日、王宮の庭でダートを見かけたんだ。追いかけた先に、蔓薔薇の門があった」
「じゃあ、じゃあ、どうして⋯⋯」
「⋯⋯ある時、一羽の若いミツドリが出産で死んだ。それが父の心に衝撃を与えた」
蒼空の瞳に憂いが宿る。僕の髪を撫でる手が止まって、オリーは長い睫毛を瞬いた。
「ミツドリが人との間に授かった子は、母体への負担が大きすぎた。子どもは何とか助かって、王が二番目の王子として名をつけた」
僕は息を呑んだ。
⋯⋯王の、二番目の王子?
「えっ。じゃあ、ダートは⋯⋯。ダートは」
自分の声が震えるのがわかる。オリーは頷いた。
「そうだ、リシュリムの第二王子、ヴァンダートの母はミツドリだ」
王が愛した美しいミツドリとの子。名付けられた王子はすぐに王宮へ、王妃の元に連れていかれた。
ミツドリの一族は嘆いた。自分たちの一族の子は群れで自分たちが育てるものだ。返してくれ、と初めて王に嘆願した。
母がいなくても、代わりに自分たちが育てる。母が注ぐはずだった千の愛情と万の慈しみを、あの子に与えよう。
王は頷かなかった。王の子なのだから王族だ。自分には王子がまだ一人しかいない。リシュリムの王子として、この子は国の為に育てなければならない。万が一、成長と共にミツドリの様相を見せたなら、その時は群れに戻そう。
そんな馬鹿な話があるか、と反対したのは王弟だけだった。
人と変わらず育てばいいが、突然ミツドリに近い変容を遂げたらどうする。人と外界を知った者が、閉じ込められた空間で生きられるのか。いきなり見知らぬ鳥人の群れの中にそう簡単に戻れるはずもない。愛情深いミツドリたちは、それでも一族の子を受け入れるだろう。だが、それは彼らの優しさに付け入るだけではないのか。
王は弟の言葉を聞き入れなかった。ミツドリの子は人型で生まれる。見た目には人の子と何ら変わりないのだ。
王と宰相は、あらゆる手を使って誕生した子を王妃の子だと周知させた。ミツドリの存在を知っているのは僅かな王族と魔導士のごく一部と宰相だけだ。本当の母親の存在は隠され、本人にも知らされることはない。
第二王子誕生の祝賀に国中が沸き立った時に、ミツドリの群れは同族を喪った悲嘆に暮れていた。王弟の胸には、怒りと忘れようとしていた思いが再燃した。ミツドリは、王族に都合のいい道具じゃないと。
⋯⋯オリーの話を聞いて、僕は混乱していた。
ミツドリは王宮に保護されてずっと幸せに暮らしていたはずだ。命を脅かされることもなければ、人の悪意に触れることもない。王族の中には、ミツドリと愛し合い、伴侶とした者もいた。それはおとぎ話のように美しい話だったはずだ。
「ダートは、ミツドリには見えないよ。ぼ、僕だって自分のこと、何も知らなかったけど」
「幸いと言うべきか、ダートの外観にはミツドリの変容がなかった。人の子と変わらず成長し、ダートも俺も出生のことなど知らないまま、従兄弟同士として育ったんだ」
オリーは、静かに言葉を続けた。
「ミツドリの住む空間に王族は自由に出入りすることが出来る。それでも、いくつかの決まりがあった」
十に満たない齢の者をミツドリに会わせてはいけない。
決してミツドリに負の感情を与えてはいけない。
一つだけの卵の巣に近づいてはいけない。
「早く十になりたい。そう思っていたある日、王宮の庭でダートを見かけたんだ。追いかけた先に、蔓薔薇の門があった」
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