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42.希望の歌 ②
しおりを挟む翌朝、目が覚めたら僕は一人で寝台に横になっていた。ここは、僕が使っている部屋じゃない。
昨夜の記憶を辿ってみる。月明かりの中でオリーのために歌った。歌い終わった後は、疲れて眠ってしまったんだと思う。
オリーはどこに行ったんだろう?
僕は寝台を降りた。窓からは明るい光が差し込んでいる。窓辺に駆け寄れば、眩い太陽と青空が見えた。そして、庭が。
息を呑んだ。
庭は、広かった。どこまでも続くように見える、広大な庭園。真ん中に一本の小道があって、左右に広がるように花が植えられている。青に紫、一画には真っ白な花が咲き誇っている。ああ、あれはアナンが持ってきてくれた花だ。たくさんの蜜を含んだ花が、掛け布の上に広がっていた。庭園には花だけじゃない。目が覚めるような緑が周囲に広がっている。芝生に所々配置された背の低い木々の植栽、遥か遠くには連綿と森林が続く。
外へ行きたい。
そうだ、外へ。
窓から羽ばたいていけそうな気がした。でも、まだ空を飛んだことはないし、少し怖い。それでも浮き立つ気持ちを抑えきれずに、部屋の扉を開けて廊下に出た。
空気の流れで分かる。
広い廊下を進んで、先にある幅の広い階段を駆け下りた。大きくて重い扉を開ければ、眩しい陽射しがそこにあるはずだ。
階段を降りたところで、ふっと不思議な感慨がよぎった。何故だろう。ここを知っている気がする。この屋敷に来てからずっと、部屋の中以外に自分で移動した場所はないはずなのに。
自分が下りたばかりの階段を振り返る。広い吹き抜けになっている階段の上からいつも心配げに見下ろしていた蒼空の瞳。
──だめだよ、危ないから走らないで。
「えっ?」
幼い子どもの面影が揺れて、扉が開いたのに気づくのが遅れた。後ろから甘い香りと共に風が吹いて来る。
よろけたところに、とん、と何かが背中にぶつかった。
「幾つになっても、ラウェルは変わらないな」
「オリー?」
振り返れば、両手に真っ白な花を抱えたオリーが、困ったように笑っていた。
「オリー! その花⋯⋯」
「ラウェルはぐっすり眠っていたから、まだ起きないと思ったんだ。寝ているうちにと思って取ってきた」
「僕に⋯⋯?」
「もちろん。朝一番の花をどうぞ」
オリーは微笑んで、両手いっぱいの大輪の花を差し出した。
その顔が、あんまり幸せそうで綺麗だったから⋯⋯、きれいだったから。
「⋯⋯あ、ありがと」
僕は、何だかオリーをまともに見ていることが出来なくて、うつむいてしまった。手だけ差し出すと、花はいつまでも渡されない。
「あれ? 花⋯⋯」
見上げると、額に柔らかなものが触れた。ぱちぱち、と瞳を瞬くと、今度は頬に口づけられた。じわじわと顔が熱くなる。オリーが、僕の唇を軽く指先でつつく。
「⋯⋯ラウェル、花だけでいい?」
「は、花だけで! いい!」
僕が叫ぶと、オリーは横を向いて肩を震わせている。
「⋯⋯も、もう、いいよ。自分で取ってくるから!」
オリーをほったらかして、すぐ前の扉を開けた。
眩しいほどの陽射しが広がり、心地よい風が渡っていく。真っ直ぐな小道を走って白い花の一画に近づけば、咲き終わった花やまだ蕾の花ばかりだった。
さっき、オリーが手に持っていた花は、どれも見事に咲いていたのに。
花が咲く一角をずんずん歩き回るうちに、だんだん心が落ち着いてきた。
⋯⋯オリーは、綺麗に咲いている花を選んで摘んでくれたんだ。朝一番に開いた花を、僕の為に。あんな言い方しなければよかった。
立ち止まってしょんぼりしていると、ふっと陽射しが陰った。上を向けば、オリーが微笑んでいる。
⋯⋯追いかけてきてくれたんだ。
「ごめん。もう、からかったりしないから」
「⋯⋯うん」
「抱きしめてもいい?」
オリーが心配そうに僕の目を覗き込む。
こくりと頷くと、ほっとしたように笑って、手にした花ごと僕を抱きしめてくる。抱きついたり抱きしめられたりなんて、しょっちゅうだったのに。
⋯⋯何でこんなにドキドキするんだろう?
オリーが大丈夫かと真剣に聞いてくるまで、僕は黙ってじっとしていた。
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