【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

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41.希望の歌 ①

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 オリーの瞳は、月明かりの中で驚いたように見開かれていた。

「ねえ、オリー。リシュリムのミツドリたちを守るうちに、王族の中では決まりが出来たのかもしれない⋯⋯。でも、僕は王族じゃない」

 僕が生まれた時に、真っ先に抱きしめてくれたのはオリーだ。それからずっと、一緒にいてくれたのも。

「ダートが僕を大事に思ってくれたとしても、僕が好きなのはダートじゃない」

 削げてしまった頬をゆっくり撫でる。傷一つない人形のように美しかった顔は、翳りが増している。
 旅の途中でお金を失くしても、僕に怒られても。いつも困ったように笑っていたのに、今のオリーにあるのは悲しみだけだ。ひたひたと満ちてくる悲しみは、人の心を蝕んで弱らせていく。

 僕は、目の前の胸に両手をぴたりとつけた。ひやりと指先が冷たくなる。体がふるりと震えたのに気づいて、オリーが僕の手を離そうとした。

「ラウェル、だめだ。俺から離れないと⋯⋯」

 ⋯⋯お前の体が弱ってしまう。

 小さな呟きに、僕は首を横に振った。痺れるように冷たくなる指先を精一杯広げた。

は今、悲しみでいっぱいになってる。ねえ、オリー。僕はミツドリのことをずっと知らなかったけど、それでもわかっていたことがある。オリーが教えてくれたことだよ」


 ──絶対に、人前で歌ってはだめだ、ラウェル。お前の一族の歌には力が宿るから、人は勝手に引き寄せられてしまう。
 ──じゃあ、他に誰もいなかったら歌ってもいい? オリーと二人だけなら、歌ってもいい?
 ──わかった。二人だけなら。

 僕とオリーは、約束だ、と互いの小指をからませた。

 輝く陽射しと蒼空の下で。
 一面に広がる花畑で。
 雨や風を避けるために潜り込んだ洞の中で。

 僕はずっと歌ってきた。ミツドリの歌は自分の為だけじゃない。


「ミツドリは、いつだって、大事なもののために歌う。僕も、オリーのために歌う」

 すう、と大きく息を吸い込んだ。
 元々、ミツドリは唯一人の相手に向かって歌うのだと、体の奥で何かが告げた。 

 ミツドリは歌で人を癒す。命の輝きを歌に変えて相手を治していく。だから、歌う相手は誰でもいいわけじゃない。本当に助けたいと思ったら、命を削って唯一無二の相手を癒すんだ。

 ⋯⋯オリーがくれた心の代わりに、僕の命を贈ろう。


 月夜の小さな家の窓辺
 眠ったはずの君が泣く
 歩くのに疲れて
 月が照らす窓辺にもたれて

 指先に仄かに淡い光が浮かぶ。僕が口にした歌がゆっくりとオリーの中に入っていく。

 物心ついた時にはオリーと一緒にいた。町々で見た親子の姿に、時折オリーは目を留めていた。
 僕と一緒にいるために、オリーはどれほどたくさんのものを捨ててきたんだろう。僕を生かすために、自分を後回しにしてきたんだろう。呆れるほどすぐに泣くオリー。でも、僕はこんなに綺麗に泣く人を他に知らない。

 優しさを捧げて
 愛しさを注いで
 痛みさえも涙に隠す

 自分の一族と一緒に多くの日々を過ごすことは出来なかったけれど、代わりにオリーがたくさんの愛情をくれた。
 町々を巡る日々は楽しかった。二人で寄り添っていれば、嵐だって怖くはなかった。

 花の代わりに月の光を
 愛の代わりに命の歌を

 君の眠る窓辺に送る
 唯一人の君に贈る

 ⋯⋯この気持ちが伝わりますように。
 指先に広がる温かい光が、オリーの悲しみを和らげてくれますように。



「⋯⋯ラウェル。⋯⋯ラウェル!」

 気がつけばオリーの胸の中で体を揺すぶられていた。頬にぽとん、と涙が落ちてくる。ぽとん、ぽとん、と次々に落ちてくる。

「オ、リー、また⋯⋯泣いてる」
「お前が⋯⋯。あんな歌を歌うからだ」

 ⋯⋯せっかく、心を籠めて歌ったのに。成鳥になってから初めての歌なんだから。自分では上手に歌えたと思ったのにな。

 僕は心の中でオリーに文句を言った。本当は口に出して言いたかったけど、少しも力が入らない。オリーは泣きながら、僕を叱る。

「成鳥になったばかりなのに、力を使いすぎなんだ。変化の後は、少しずつ魔力が体に馴染むのを待たなきゃいけないのに」

 僕は気がついた。この涙は温かい。心を凍らせるような冷たさはここにはない。
 嬉しくなって、ふふ、と笑うと、オリーが怒ったように眉を顰めた。僕の体をぎゅうっと抱きしめる。
 小さな声が、ありがとう、と言った。
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