40 / 72
40.ミツドリの息子 ②
しおりを挟む⋯⋯自分の言葉で光輝く卵。一目見た時から魅かれた。
これは自分のミツドリだ。少しずつ大きくなる卵の中に、どんな子がいるんだろう。
幼体のミツドリたちが、殻の中のラウェルの思念や様子を教えてくれる。
『今、笑ったよ』
『君が話すと喜ぶよ。くるん、って殻の中で転がってる』
どんな言葉が一番喜ぶんだろうと聞けば、彼らは顔を見合わせて笑う。
『ミツドリは、愛情で育つんだよ。人にも大事な言葉があるでしょう?』
「好き」かな? ⋯⋯大好き?
ミツドリたちはとても仲がいい。見つめ合いながら、微笑みながら耳元で囁き合っている。
大樹の根元に座って、二羽のミツドリが肩を並べる姿をじっと見る。
一羽が囁く言葉に、もう一羽がぱっと顔を輝かせた。
──愛してる。
それは、「好き」よりもずっと強い。
俺は、卵のすぐ側まで魔力で飛んで、呟いてみた。
──待っているよ。⋯⋯愛している。
「卵が仄かに光り始めた。その時初めて、ほんの少しだけど、眠っているラウェルの姿が見えたんだ」
「僕が?」
「丸くなって幸せそうに眠っていた。すぐに見えなくなったけれど、その日から毎回、同じ言葉を囁いた。囁くたびに少しずつ、俺にもラウェルの気配がわかるようになった。でも、子どもの俺はわかっていなかったんだ。それが、雛の⋯⋯、ラウェルの誕生を待っていたダートに、どれだけひどいことだったかを」
「ダートが、僕を待ってた?」
オリーは目を伏せた。瞳の中に翳がよぎる。
「ダートはずっと、ラウェルが孵化する時を待っていた。雛は、一番先に見たものを慕う性質がある。ダートは、自分と番う可能性のある一つ卵の雛の誕生を、待ち望んでいたんだ」
『ねえ、もうじき会えるね、ぼくのミツドリ。君は、ぼくとずっと一緒なんだって。早く会いたいな。待っているからね。ぼくのことを呼んでね』
ミツドリは、最初に殻を破って出会った相手と絆を繋ぐと言われる。
一に相手を認識し、二に名を呼んで記憶し、三に体を繋いで生涯の伴侶⋯⋯、無二の番と成す。これで生涯、ミツドリは相手から離れることがない。
オリーの言葉に、僕の体の中で何かがドクン、と大きく脈打った。
頬が熱くなって、少しずつ、体が熱くなる。オリーに触れている体がざわざわして、背中がぞくぞくする。あの不思議な感覚がまたやってくる。
「名⋯⋯を、呼ぶ?」
「そうだ。ラウェルが生まれた日、俺は一人だけで門をくぐった。もうすぐ生まれる雛がどうしても気になって仕方がなかった」
ドクン、ドクンと胸の中で渦を巻く。
あの日、殻を破ってすぐに出会った。生まれた僕を抱きしめた声。
「⋯⋯生まれた! ぼくのミツドリ!!」
(──だれ?)
「ぼく? オリヴィエだよ」
(──お⋯⋯りー?)
「うん! オリーだ」
(──オリー。オ、リ⋯⋯ヴィ⋯⋯エ)
「⋯⋯オリヴィエ」
「そうだ、ラウェル。⋯⋯あの日、生まれたばかりのお前は俺をオリーと呼んだ。⋯⋯嬉しかった。そして、成鳥がお前の名付けを行ったんだ。俺は、名付けられたばかりのお前の名を呼んだ。俺の希望と」
たくさんのミツドリたちに祝福をもらったあの日。
僕はオリーの名を呼び、オリーは僕の名を呼んだ。
──僕たちの間には、あの時確かに、二人だけの絆が結ばれた。
「だが、俺はダートが待っていた大事な存在を、勝手に横取りしたのも同然だ」
「⋯⋯だから、オリーはひどいことをしたって、言ったの?」
「ああ。ミツドリの元に王族の決まりも守らずに忍び込んで、名を交わしたんだ。十分大きな罪だ」
「でも、オリー」
「ラウェル?」
僕は、真っ直ぐに手を伸ばした。両手でオリーの頬を包めば、ひやりと冷たい。
「ミツドリは⋯⋯、王族の道具じゃないよ」
オリーが息を呑んで黙り込む。空色の瞳が瞬きもせずに僕を見ている。
「⋯⋯オリーの父上が言ったんでしょう? 僕は、誰かに決められた、誰かのものじゃない。僕は、自分の好きな人は自分で選ぶ」
26
あなたにおすすめの小説
向日葵畑で手を繋ごう
舞々
BL
琥珀は付き合っていた彼氏に「やっぱり男とは手が繋げない」とフラれてしまい、そこから更に人を避けて生きるようになった。笑うことさえなくなった琥珀を心配した母親は、琥珀の夏休み期間だけ自分の生まれ故郷である秩父へと送り出す。そこで久しぶりに再会した悠介は、琥珀のことを子ども扱いするものの、事あるごとに自然と手を繋いでくれる。秩父の自然に触れながら、琥珀はいつしか明るく優しい悠介に惹かれていったのだった。
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
洗濯日和!!!
松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。
Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。
ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。
ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。
巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。
12話一旦完結からの17話完結。
卒業旅行番外編。
(素敵な表紙はpome様。感謝しかありません)
※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。
※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。
※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる