【恋は早いもの勝ち】溺愛攻めが買った惚れ薬

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
50 / 72

50.詩人と王都への道 ②

しおりを挟む
 
 泊まっている宿屋の一階は食堂になっている。騒めく階下に降りていくと、食堂にいた人たちが、はっとしたように僕たちを見た。口笛を鳴らす者もいる。オリーが突き刺すような視線を向ければ、ぴたりと話し声が止んだ。何となく居心地の悪さを感じながら、野菜のスープに硬いパンのついた朝食を口に運んだ。

 買い物に出ようとすると、食堂の女将おかみに呼び止められた。女将は僕をしげしげと見る。奥に引っ込んだかと思うと、一枚の布を手に戻ってきた。

「これを巻いておいき。そのまま外に出るのは、どうにも危なっかしい気がするねえ」
「あ、ありがとう」
「⋯⋯ラザックの市には色々なのが集まるから、気をつけるんだよ。あんたのお連れも綺麗だけど、そっちは強そうだからね」

 僕はこくこくと頷いた。確かに、最近のオリーは中性的な感じがすっかり消えて男性にしか見えない。
 女将の手を借りて、布で髪と口元を覆い、目だけ見えているような格好になる。大きめの上着にすっぽりとくるまれて宿屋を出た。

 ラザックの街は活気にあふれている。人々が行き交い、何台も荷車が通る。今日は月に一度の市が立つ日だと言うから、それもあるのかもしれない。考えてみれば北の屋敷で過ごす前は王宮にいて、その前はカランカンで暮らした。閉ざされていない外の空気を吸ったのは、久しぶりだ。

 オリーは、きょろきょろしている僕の手を握った。ちらりと僕を見て、迷子になりそうだから、なんて呟いている。
 僕たちは服に靴、日持ちのする食べ物を買い込んだ。北の屋敷の衣裳部屋から見繕った服は、どうにも旅には向いていない。

 最後にオリーは市の端で地に座り込む露天商に声をかけた。黒い布の上に数点の装飾品が置いてある。

「その銀の髪紐を」
「銀貨一枚」

 僕はぎょっとした。オリーが求めたのは、魔導士たちがよく髪を結んでいる細く編み込んだだけの紐だ。とてもそんな高価な値がつくようには思えない。それなのに、黙って革袋から銀貨を渡す。

 そして、一休みしようと座った木陰で、オリーは僕に髪紐を手渡した。

「ラウェル、これで髪を結んでほしい」
「これ、さっきオリーが銀貨を払っていた紐でしょう? そんな高価なもの、もらえないよ」

 僕が首を振ると、オリーが真剣な表情で僕を見た。

「これは、ラウェルに必要なものだ」 
「僕に?」
「その銀の糸の中には精度の高い魔法が編み込まれている。魔力の増幅が出来るんだ。魔導士たちがよく身に着けているのを見たことがないか?」
「ある。でも、僕には歌以外に魔力がないよ」
「⋯⋯俺の魔力を籠める。ラウェルを守れるように」

 オリーの瞳は真剣だった。胸がドクンと鳴る。きっと、すごく心配してくれているんだ。

「わかった。髪につけるね。ありがとう」

 オリーは髪紐を僕の手の平に置き、指先で触れた。温かな力がゆっくり流れ込んで、髪紐だけでなく体中に力が満ちていくような気がした。まるで月の光のように紐が輝いている。
 布を外して紐で髪を一つに結ぶと、オリーがほっとしたように息をつく。

 買い物も済んだし、もう宿に戻ろうと歩き始めた時だ。どこからか竪琴の音が聞こえた。市が立っている広場の中心には大きな木がある。そこに、大人や子どもたち、たくさんの人々が集まっているのが見えた。

 ちょうど通り道だと近づけば、木の前に立つ人の姿が見える。竪琴に合わせて歌う声は澄んでいた。綺麗な声だと思っていると、一つの歌で足が止まった。
 高く低く、流れるように歌う声は、不思議なほど懐かしく胸に響く。
 オリーの眉がぐっと顰められた。 

「この歌⋯⋯。まさか」

 ⋯⋯そうだ、人に歌えるわけがない。美しい歌声だけれど、これはではない。

 歌が終わり、たくさんの拍手が辺りに溢れた。吟遊詩人が華麗に挨拶をして手元の帽子を差し出すと、たくさんの金が投げ込まれる。

 詩人が周りの人々と話しながら、こちらを見た。距離があるのに、一瞬、目が合った気がする。オリーがまるで視線を遮るかのように僕と詩人の間に立つ。

「ラウェル、宿に戻ろう」
「うん」

 足早に歩きながら、ずっと視線に追われている気がした。そして、なぜ彼が知っているのかと思う。彼が歌っていたのは、白銀の殻の中で繰り返し聞いた歌。⋯⋯ミツドリの歌に、とてもよく似ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

向日葵畑で手を繋ごう

舞々
BL
琥珀は付き合っていた彼氏に「やっぱり男とは手が繋げない」とフラれてしまい、そこから更に人を避けて生きるようになった。笑うことさえなくなった琥珀を心配した母親は、琥珀の夏休み期間だけ自分の生まれ故郷である秩父へと送り出す。そこで久しぶりに再会した悠介は、琥珀のことを子ども扱いするものの、事あるごとに自然と手を繋いでくれる。秩父の自然に触れながら、琥珀はいつしか明るく優しい悠介に惹かれていったのだった。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

洗濯日和!!!

松本カナエ
BL
洗濯するオメガバース。BL。 Ωの鈴木高大は、就職に有利になるためにαと番うことにする。大学食堂で出逢ったαの横峯大輔と付き合うことになるが、今までお付き合いなどしたことないから、普通のお付き合い普通の距離感がわからない。 ニコニコ笑って距離を詰めてくる横峯。 ヒート中に俺の部屋においでと誘われ、緊張しながら行くと、寝室に山ができていた。 巣作りしてもらうために洗濯物を溜め込むαと洗濯するΩ。 12話一旦完結からの17話完結。 卒業旅行番外編。 (素敵な表紙はpome様。感謝しかありません) ※大島Q太様のTwitter企画「#溺愛アルファの巣作り」に参加したのを加筆して出します。 ※オメガバースの設定には、独自解釈もあるかと思います。何かありましたらご指摘下さい。 ※タイトルの後ろに☆ついてるのはRシーンあります。▲ついてるのはオメガハラスメントシーンがあります。

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

処理中です...