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51.ミツドリと追手 ①
しおりを挟むラザックの町を出て、王都を目指す。それは、僕に今までにない緊張をもたらした。久々に動きやすい服を着て、新しい靴を履く。髪はしっかりと銀の紐で結んだ。最後に旅用の頭巾が付いた長衣を身に着ける。
オリーは僕を見て、いいだろうと頷いた。
「目眩ましの魔法でラウェルの姿を変えられたらよかったんだが、ミツドリに魔力は使えないからな」
「オリー、心配しすぎだよ」
「俺が戻らないから、王宮からはたぶん追手が出ている。北の屋敷は祖父が魔導士たちに作らせた結界で守られていた。そこから出てきた以上、自分たちで身を守るしかない」
僕は思わず息を呑んだ。
オリーは僕を探せと、ダートに拘束具を外されたのだ。それなのに行方がわからなくなったなら、追手が出ていることは想像に難くない。大きく息をつく僕の手を、オリーが励ますようにぎゅっと握った。
「ダートは、俺の魔力ならラウェルを探せるはずだと言った。ミツドリは大樹から、王宮から離れて一人きりでは生きられない。ラウェルを守らなければと言っていた」
「ダート⋯⋯」
僕は大樹の元で生まれても、育ったのは北の屋敷だ。その後もずっとオリーと旅をして生きてきた。王宮で大事に育ったミツドリじゃないのに。
夜明けと共に宿を出て、街道を歩く。黄金の太陽が昇り、青空が広がる。吹く風も気持ちがいい。不安はあっても、やはり外の世界は美しかった。
思わず自然に歌を口ずさみそうになる。
「ねえ、オリー。幼鳥の歌と成鳥の歌は違うの?」
「もちろんだ。成鳥の歌の方が圧倒的に力を持つ」
そんなことを聞いたら、とてもじゃないけど気軽に歌うことなんて出来ない。
「いっそ、僕が歌を歌いそうになったら、オリーが魔法で止めてくれればいいのに」
「そんな簡単に止められるわけがないだろう」
「⋯⋯だって、外があんまりにも綺麗なんだもの。つい歌いたくなるんだ」
「ミツドリは喜びや悲しみを歌で表す生き物だ。二人きりなら歌っても構わない」
オリーの言葉に嬉しくなって、ますます歌いたくなる。危ない、危ない。周りをよく見なければ。
きょろきょろしていると、オリーが笑いを堪えているのが見えた。
旅をするなんて、カランカンに行く前以来なんだ。心が弾むのは仕方がないと思う。花が咲いているところを見つけたら思いっきり声を出そう。一面の花が咲いている場所を見つけたら。
「花畑を見つけたら、思う存分歌うね。真っ先にオリーの好きな歌を歌うよ」
「昔から、ラウェルはそうしてくれただろう」
⋯⋯そういえば、そうだった。
忘れていたことが恥ずかしくなって口を尖らせる僕に、オリーが顔を近づける。あっと思った時には口づけられていた。びっくりして瞳を瞬くと、僕を見るオリーの瞳はとても優しい。心臓が急に激しく動き始めて、僕は仕方なくうつむいた。オリーの綺麗な瞳を見ていると、ちっとも動悸が収まらない。オリーが僕の指に自分の指を絡めてくるから、僕は手を繋いだまま黙って歩いた。
ラザックの町を出てからというもの、オリーは慎重に歩を進めた。早朝に歩き始め、真昼は木陰を見つけて休む。夕暮れまでには農家の納屋に一晩の宿を借りて、夜を過ごせる場所を確保した。
オリーほどの魔力があれば、いくらでも王都に早く着く方法はあるはずなのに、人との関りを避けながら徒歩で進む。
「⋯⋯魔法を使えば痕跡が残り、魔力の残滓から居場所を追跡される可能性が高くなる」
オリーはそう言って、簡単に魔法を使おうとはしなかった。
王都に向かうことをオリー自身は望んではいないはずなのに、ダートに会いたいと言う僕の気持ちを叶えようとしてくれる。オリーにありがとうと言えば、額に口づけを落とす。オリーの行動の一つ一つが甘い。
街道沿いには少しずつ家が増え、村や町が現れる。僕の望むような一面の花が咲く場所には出会えそうになかったが、旅は順調に進んだ。あと一日歩けば無事に王都に入れると言うところまで来た時、僕たちの脇を隊商が通り過ぎて行った。
ふっと、耳に細い歌声が届く。遠ざかる荷馬車を見ながら立ち尽くしていると、オリーが僕の顔を覗きこんだ。
「ラウェル?」
「⋯⋯オリー。あの荷馬車の中から歌声が聞こえた」
「歌声って、どんな?」
「ミツドリの歌」
オリーの眉が顰められ、声が小さくなる。
「歌っていたのはどんな奴だったか、わかるか?」
「一瞬だったから、よくわからない。でも、ラザックの市で出会った吟遊詩人もミツドリの歌を歌っていたよ」
荷馬車にいたのは、あの詩人なんだろうか?
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