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71.恋は早いもの勝ち ①
しおりを挟む王宮を離れた後、僕とオリーはカランカンのある公娼街、ダングリムに向かった。
僕が朱門を見たがると、オリーは怪訝な顔をした。折角離れたのに何故?という顔だ。
「カランカンにいた時、どうしてオリーは逃げないんだろうと思ってた。でも、逃げるわけにはいかなかったんだね」
「ダートに捕まった以上、逃げようとすれば国の魔導士や騎士たちが出てくる。流石に二人では逃げ切れないと思って⋯⋯。それに」
「それに?」
「父の汚名を雪ぎたかったんだ。父はミツドリを愛していた。あんなに大事に思っていた一族を手にかけるはずがない」
オリーはダートの指示で動きながら、ミツドリを滅ぼした者たちを探していた。前の北の大公であるおじいちゃんは王家に忠誠を誓っていて、反旗を翻したのは、息子である現大公だとわかった。
「伯父は祖父に自分の計画を伝えなかった。事が起きてから、祖父は全てを知ったんだ。でも、祖父は王に息子の罪を告白することが出来なかった。言えば、大公家も俺たちも守れなくなる」
「おじいちゃんも、つらかったんだね⋯⋯」
息子の起こしたことは大罪だ。しかも、そのせいで娘夫婦は死んで罪人となった。おじいちゃんはどんな気持ちで僕たちを守ってくれたんだろう。
オリーの話では、北の大公家はおじいちゃんが亡くなった後も表立って謀反を起こしはしなかった。王家は悪政を敷いているわけではなく、リシュリムは豊かだ。そこに謀反など起こせば軍が動き、他の大公家や貴族たちも黙ってはいない。ミツドリだけを滅ぼし、弱体化した王家の後に自分たちが取って変わろうとしていたらしい。
ダートによって北の大公は密かに捕縛された。オリーの魔法で弾き飛ばされ瀕死だったユノエと共に。闇の魔導士たちは王国軍の気配を感じて姿を消した。ミツドリたちを亡くした王の怒りは凄まじく、断罪は免れないという。ただ、表立っては大公たちが流行り病にかかったということになるだろう。ミツドリが秘匿されていた以上、公の断罪は出来ないのだ。
「どうして、北の大公たちはダートまで殺そうとしたの?」
「⋯⋯ダートが大公家の動きを探っていたように、大公家もダートを危険だと思っていた。それに、ダートはミツドリの血を引いている。俺の力が暴走したせいにして、一緒に葬りたかったんだ」
「ミツドリも、ダートも悪くないのに⋯⋯」
⋯⋯ミツドリの存在をどうして勝手に、善悪で決めつけようとするんだろう。
オリーは、慰めるように僕の髪を撫でてくれた。
「ラウェルの言う通りだ。ユノエたちは俺の父母の婚姻も、大公家が王位に近づく布石だとしか思っていなかった」
「おじいちゃんは、そんなこと思ってたのかな⋯⋯」
おじいちゃんの周りには優しい光がたくさんあった。いつも温かい心を感じた。
「祖父は王家との結びつきを望んだだけだった。祖父と伯父の間の溝がもっと埋まっていれば⋯⋯」
オリーの言葉に悲しみが滲む。オリーは僕よりもずっと、家族や一族を思う気持ちが強い。僕には最初からオリーしかいなかったけど、オリーには大事なものがたくさんあったから。
僕はオリーの手をぎゅっと握った。
⋯⋯オリーが僕に全てをくれたように、これからは僕がオリーの家族になる。誰よりもたくさんの愛をあげる。
「僕がオリーの全部になるから」
愛しい人は、ありがとうと笑った。
あれほど出たかった朱門の外から、僕たちはそびえ立つ門を見上げる。
ダングリムは夜の街だ。陽が高いうちから朱門を出入りする者は商人や店の下働きたちだけ。街はまだ穏やかな佇まいのままだった。もう二度と来ない場所だと思うと、切ない気持ちがよぎる。
朱門をくぐろうとすると、左右に控えた門番たちが僕を止めた。
「おい、まだ見世が開く時間じゃないぞ」
オリーが僕を庇うように、すぐに前に出る。
「⋯⋯街を見たいだけだ。見世に用はない」
「何だ、こんな上玉はどんな店だって大喜びで迎えるだろうに」
門番の言葉に、怒りに満ちた魔力がオリーに湧き上がる。僕は必死で叫んだ。
「オリー、やめて! 今度は朱門が壊れる!」
驚く門番たちに、オリーがカランカンの名の入った通行手形を見せた。
僕の手を引きながら朱門をくぐり、一軒の店に入る。「この子に日除けの布を」と言えば、あっという間に奥から上物の絹が何枚も出てきた。するすると滑らかな絹は肌触りもよく美しいけれど、これからの旅には不要だろう。そう言おうと思った時には、オリーが代金を支払っていた。
「ちょっと! 何でそんな高価なもの買ってんの!」
「ラウェルは何か被っていた方が虫よけになっていい。ここの主人の目に間違いはない」
店の女主人は上機嫌で、布につける小さな金色の留め具までおまけに付けてくれた。繊細な留め具は小鳥の形をしている。布を纏って首元で金具を止めると、大変お可愛らしいですよと愛想よく言われた。
風でひらひらと揺れる布は、まるで重さを感じなかった。通りを歩く人の視線を感じる。ああ、そうか。すっかり女性らしさはなくなったけれど、オリーは変わらず綺麗だ。
「どうした?」
「あのね、皆、オリーを見てるなあって思って」
オリーは僕をじっと見つめて、ため息をつく。
「だから、わかってないって言うんだ」
⋯⋯前にも、この言葉を聞いた覚えがある。いつだっけ?
オリーがふっと立ち止まった。視線の先を見ると、見慣れた建物があった。
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