【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
1 / 202
Ⅰ.スターディア

第1話 末っ子王子と乳母の教え①

しおりを挟む

「もう泣かないでよ」

 ぐすんぐすんと泣き声が止まない。

「だって王子⋯⋯」
「そんなに泣いても仕方ないって」
「な、なんでそんなにあっさりしてるんですか! 私は、私はもう悔しくて⋯⋯!」

「セツ、お前はそう言うけど、よく考えてごらんよ。ぼくだって、もはや18だ。適当な国に縁付くか、爵位をもらって国の為に働くしかない。うちの国は小さいから、王族をのうのうと養っていく余裕はないんだよ」

 その言葉を聞き終わるや、侍従のセツはうわああん!と床に泣き伏してしまった。



 一昨日、父である国王陛下に呼ばれて王の間に行った。
 驚くことに、宰相や大臣たちまでが勢揃い。皆、一様に緊張した面持ちをしている。

「第4王子。イルマ・ラスシュタ」
「はい、陛下」
「お前の結婚相手が決まったよ」

「はあ」
 ぼくの答えは間が抜けていたようで、大臣たちの顔が歪む。

「スターディア国のシェンバー王子だ。お前より4歳上で、つり合いも取れている」
 どっかで聞いた名前だな⋯⋯と、ぼくは思った。
「先方からは早めの返事が欲しいと言われているが、どうだろう?」
「父上のお望みのままに」

 そう答えると、広間には驚きとも安堵ともつかぬため息が漏れた。



「なんでシェンバ―王子なんですかあああ!」
 自分の部屋に着くなり、血相を変えたセツが飛び込んできた。

「セツ、早すぎない? なんなの、その情報網?」
「侍従仲間の繋がりを舐めないでください! それよりも、シェンバー王子ですよ! よりによって、あのヤリチン!!」
「はあ」
 すごい言葉を聞いた気がする。

「わ、私の大事な王子のお相手が有名な浮気者王子だなんて! 冗談じゃないですよ!!」

 ⋯⋯そうか、それでどこかで聞いたと思ったのか。
 美貌を鼻にかけて、とっかえひっかえ食い散らかしていると評判の王子。ぼくは合点がいって頷いた。

 ぼくは小国フィスタの末子、第4王子だ。上には跡継ぎの兄たちがいるし、姉もいる。
 賢いとか美しいとか、そんな財産も特に持ち合わせていない。
 もう決まったことだし、それで国の為になるならいいんじゃない?
 そんな気持ちの返答がいけなかったらしい。

「まあ、いい噂を聞かない王子だから仕方ないけどさ。いざとなったら、慰謝料をもらって帰ってくればいいじゃないか。スターディアは大国だから、がっぽりもらって帰国すれば国庫も潤うだろ」

「な、なにを仰るんですか? 王子の名誉はどうなります? ヤリチン王子に捨てられたと一生言われるんですよ!!!」
「うーん、名誉じゃあ、人は食べていけないからなあ⋯⋯」
「王子!! 王家の尊い血筋にお生まれなのに、どうしてそんな!!」

「セツ、お前はそう言うけど、ぼくの性格の大半はお前の母が育てたんじゃないか」
 ぼくは、まくしたてるセツに呆れて言った。

 うっ!とセツは詰まった。
「そ、それを言われますと⋯⋯」
 よろけるセツを見ながら、ぼくは引退してセツの実家にいる乳母を思い出した。

 セツの母、ルチアはぼくの乳母だ。

 ルチアは子爵家の令嬢で、その美貌は社交界でも有名だった。
 しかし、残念なことに男運が悪く、見初められて結婚した侯爵はアルコールの急性中毒で死亡。結婚して3カ月も経っていなかった。その後、伯爵家の次男と再婚したものの、病気がちだった夫は持病悪化で死亡。
 泣く泣く実家に戻れば、兄の子爵からは邪魔者扱いされる。ほとほと困り切っていたところに、妻に先立たれた幼馴染みの男爵と再会して結婚した。

 男爵家も貴族とはいえ、決して裕福だったわけではない。日々のやり繰りに励んでいたルチアだが、三男のセツが生まれた時にぼくの乳母募集の知らせが来たのだ。
 夫と子どもたちの為にとルチアは立ち上がった。
 赤子のセツを抱き、王宮の門をたたいたのである。

「ルチアより家柄の良い乳母候補はたくさんいたけれど、ルチアほど真剣な者はいなかったわ」

 王妃である母がおっとりと笑って語る。その話に、後になってぼくは考え込んだものだ。
 窮地に立たされた時、人は真価を発揮するんだなあ。


「イルマ様、人生とは何があるかわからないものです」
 乳母は、幼いぼくに言い続けた。

「今日ある幸せが明日もあるとは限らないのですよ。何があっても逞しく生きていけるよう、このわたくしがお育て申しあげます!!」
 その言葉通り、ルチアは躾と共に、ぼくに市井の様々な事を教えた。

 自分のことは自分ですること。
 身の回りをいつも整えておくこと。
 規則正しく暮らすこと。

 成長するにつれて、王族に必要な教育も加わったけれど、ぼくはすっかり変わり種の王子に育ってしまった。侍従は乳兄弟のセツだけだし、セツが出来ることは大抵ぼくも自分で出来る。

「ルチアのおかげで、ぼくは縫物だろうが食事だろうが、自分のことは自分で出来る」
 王子が厨房に入り込んで、こっそり料理を覚えていたなんて知ったら、兄たちは腰を抜かすだろう。

「王族たるもの、人々の日々の暮らしを知らねばなりません」

 ルチアはそう言って、ぼくの手に小遣いを握らせた。
 母も呑気に頷いてくれたので、ぼくとセツはしょっちゅう城下に出かけた。
 末の王子だったせいで、あまり深く気にされなかったのかもしれない。
 近衛騎士でぼく付きのサフィードだけは「死んでも王子から離れません」と言うので仕方なく一緒に行ったものだったが。



 ぼくの返事を聞いてから、婚礼の支度はあっという間に進んだ。

 上の王子の結婚もまだだと言うのに、末の王子が結婚するのはいかがなものか。一部でそんな話も出ていたらしいが、先方が嫌に乗り気なのと結納金がめっぽうすごかったらしい。
 財務大臣の目の色が変わり、ぼくはさっさと先方の国に送られることになった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...