【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
15 / 202
Ⅱ.フィスタ

第1話 王子たちと宰相の息子①

しおりを挟む
 
 ⋯⋯理不尽だ。

「イルマ様、さ、口を開けてください。お食事の時間です」
 ⋯⋯自分で、できる。
「え、何ですか? 文句は言わせませんよ。人間、あきらめが肝心です!!」
 ⋯⋯文句なんか、一言も言ってない。

 目の前には、鼻息も荒く、やる気満々のセツが立っている。
 そのセツの手には、野菜と豆が煮こまれたスープが湯気を立てていた。
 しぶしぶ口を開けると、黄金色のスープが銀の匙で少しずつ口に運ばれる。

 ⋯⋯美味しい。
 厨房の料理人が腕を振るってくれたのがよくわかる。
 ⋯⋯でも、子どもじゃないんだ。自分で食べられるよ。
 目でそう訴えてみたが、無視された。
 これが乳兄弟の態度だろうか。いや、そもそも、ぼくが主のはずなんだが。



 ここは、フィスタの王宮。

 スターディアから夜逃げして、さらに黒の森に逃げ込んだ後。
 ぼくは近衛騎士のサフィードに助けられ、フィスタからの迎えの騎士たちと合流することが出来た。
 無事に城に帰ったものの、熱は下がらなかった。王宮に着くなり寝込む始末だ。

 のどが腫れて高熱が続き、うとうとと眠り続けて3日目。
 ようやく熱は下がったけれど、うまく声が出ない。

 少しでも栄養と消化のいいものをと、連日、丹精込めたスープが出されている。
 侍従のセツはここぞとばかりに、ぼくの世話を焼きまくっていた。どうも、スターディアとの国境で離れたことに後悔しきりらしい。
 何かにつけて「一生の不覚!」と叫んでいる。

「この皿一杯分、スープを召し上がっていただくまで、私はここを動きません!」
 ベッド脇の椅子にどん!と座るセツを見て、ぼくは覚悟した。
 食欲がない、なんて言っている場合ではない。ひたすらスープを飲み干すことに専念した。



 バン!

 勢いよく扉が開かれた。

「イルマ!! 早速、出戻りだって?」

 赤毛の短髪に青い瞳。剣を腰に下げた美丈夫が、つかつかと入ってくる。
 鍛えられた体は、服の上からでも見事な筋肉がついているのがわかる。
 ぼくの枕もとにやって来て、大きな手で、ぐりぐりと頭を撫でた。

「⋯⋯まだご結婚されたわけでもないのに、何が出戻りですか! 人聞きの悪いことをおっしゃらないでください、ヨノル殿下!!」

 セツの怒りの声が響く。

「ああ? だって、スターディアの王子のところに嫁に行ったはずだろ。まー、あっという間に帰ってきちまって、部隊の騎士どもと賭けるまでもなかったなあ! あっはっは!!」

 部屋に入ってきたのは、ヨノル王子だった。
 強気で陽気で、筋肉を鍛えるのが大好きな兄。次兄はフィスタの騎士団の長だ。日課の手合わせを終えてきたのだろう。一汗かいた後の清々しい顔をしている。

「相変わらずの口の悪さですね! イルマ殿下のご苦労もご存知ないのに!!」
 文句を言うセツの言葉も、どこ吹く風だ。

「その辺にしておけ、ヨノル。イルマは熱がようやく下がったばかりなんだから」
 開いた扉から、また一人入ってきた。

「おや、兄上。そう聞いたから、時間を割いて可愛い弟の見舞いに来たのですよ。兄上こそ『王太子は忙しい』が口癖のくせに、なぜここに?」
 ヨノル兄上が人の悪い笑みを浮かべている。

 絹のシャツに金糸が入った真紅の上着を纏って現れたのは、長兄だった。
 アレイド王太子は、弟の言葉に詰まって黙り込む。ぼくに向かって歩いてくると、セツと次兄はさっと場所を空けた。

「イルマ、具合はよくなったかい?」
 優しく話す長兄が、ぼくは好きだ。次兄に比べて穏やかでおっとりしていて、いつもぼくの話に耳を傾けてくれる。
 次兄と同じ青い瞳が、心配そうにぼくの顔を覗き込む。こくりと頷けば、微笑んで次代の王は言った。

「話はサフィードから聞いた。何も心配せずに、ゆっくり休んでおいで」
 長兄はぼくの手を取って、しっかりと握りしめる。
「スターディアからはたっぷりと慰謝料をもらっておく。お前をこんな目に遭わせた男には、こちらから話をつけておくからね。二度と顔を見ることもないだろう」
 ⋯⋯話す内容と笑顔が、どうにも見合っていないような気がするんだけど。

「普段おとなしい奴ほど、怒らせたら怖いって言うからな」
 次兄がぽつりと呟いた。そして、手を伸ばしてぼくの頬をふに、とつまんだ。
 ⋯⋯伸びちゃうからやめて。
「あー可愛い! ぐにぐに伸びて、低い鼻ごとぺちゃんこになっても、イルマは可愛いなあ」
 頬を摘ままれたり、手を握られたりと、好き放題だ。

 ⋯⋯もう、何でもいいから二人とも出て行ってくれないかな。ぼくはすっかり疲れていた。

「王子様方! イルマ殿下はお食事中です。この後は、医師殿の回診もございます。席を外していただきたいのですが」
「セツ―! お前、ちょっと厳しすぎじゃない?俺たち、これでもこの国の王子なのよ? 俺たちの愛があればイルマは早くなお⋯⋯」
「愛だけでは、病は治りません!」
 次兄の言葉を遮って、セツはぴしゃりと言った。

「御典医のズォン様も仰いました。睡眠と栄養! まずは休養だと!! イルマ殿下には休養が必要です。さ、お見舞いはまた今度になさってください!!」
 セツに言われ、兄たちは追い出されるようにして、渋々部屋を出た。
 ぼくは、今だけはセツの手腕に感謝した。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...