【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅱ.フィスタ

第2話 王子たちと宰相の息子②

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「そうそう、こちらはサフィード様からです」
 時間をかけて、スープを飲み終えた後。小さな瓶が、ぼくの手に渡された。
 蓋つきの透明な瓶に黄金色の蜜が入っている。

 高木のマウロにる大粒の実を切って、種ごと花の蜜に漬ける。2週間程たって、実から出る成分が蜜と混じりあえば薬が出来る。昔から、咳やのどの痛みに効くと言われてきた。

 幼い頃、ぼくは喉が腫れて熱を出すことが多かった。ルチアもサフィードも、マウロで出来た蜜を湯に溶いて、よく飲ませてくれた。

 ⋯⋯なつかしい。覚えていてくれたんだな。
 すっかり熱を出さなくなったから、久しく口にしていない。
「お飲みになりますか?」
 セツの声が柔らかくなる。ぼくは嬉しくなって頷いた。

 サフィードとは、フィスタに帰国してから顔を合わせていない。
 どうやら、寝込んでいるぼくの代わりに、国王陛下や宰相たちに呼ばれているらしい。今回の顛末を詳しく報告させられているそうだ。

 思わず、ため息をついた。
 サフィードにばかり、迷惑をかけてしまっている。陛下たちに書簡を送ったのはぼくなのだから、本来はぼくが説明するべきなのに。
 ぼくの様子をちらりと見たセツが言う。

「あまり、お気になさる必要はありませんよ」
「?」
「たぶん⋯⋯。イルマ様のご報告の何割か増しで、シェンバー王子への非難を込めて話していらっしゃると思いますから」
「!?」

 ⋯⋯高潔な騎士が、果たしてそんな真似をするだろうか?
「イルマ殿下のこととなると、わかりませんからねえ⋯⋯」
 まるで、人の心を読んだかのようにセツは話を続ける。
 ⋯⋯深く考えるのは、やめることにした。




 1週間後。
 声も出るようになり、すっかり食欲も戻った。
 ぼくは、国に帰って一番にしようと思っていたことを実行した。

 その屋敷に行くのは久しぶりだ。
 王宮から、あまり時間はかからない。

 馬車を止め取次を頼むと、家令がぼくを見て目をみはる。

「ユーディト様は、庭におられます。すぐにお呼び致しますので、こちらでお待ちください」
「ああ、庭にいるんだ。自分で行くからいいよ」
 そう告げると、家令はあわてふためく。
「そんな、殿下御自ら足を運ばれるなど」
「何度も遊びに来ているじゃないか。気にしなくていい。それに、来訪も告げず急に来てしまったから、いてくれて良かった」

 ぼくは、さっさと庭に向かって歩き出した。

 宰相の屋敷の庭師は、元は王宮で庭師を務めていた男だった。その腕に惚れて、引退すると言うのを宰相が言葉を尽くして自分の元へ引き留めたと言う。
 庭師が心を込めた庭は、見事という他なかった。

 ぼくは美しい花々に目を留めながら、親友を探した。庭園の奥に四阿あずまやがある。
 小道を辿り奥まで進むと、求めていた姿があった。
 四阿の椅子に座っている姿が見える。

「ユーディ⋯⋯」
 呼びかけようとして、はっと気づく。

 ユーディトは、腕に一人の少年を抱いていた。
 小柄で細身の少年を抱きしめて、柔らかそうな髪を撫でる。
 少年はユーディトの膝に座っていた。嬉しそうに首に腕を回し、身をすりよせる。

 その姿は、明らかに恋人同士のものだった。

 二人の顔が近づく。
 ⋯⋯ここにいるのはまずいだろう。
 そっと、離れようとした時だった。

「イルマ様! ユーディト様はいらしたんですか?」
 ぼくの後を追ったセツが走ってきた。
 セツに黙れと言う前に、四阿からガタンという音が聞こえる。

「⋯⋯イルマ!!!」

 久々に会った友人と目を合わせると、ユーディトは蒼白な顔色をしていた。


 屋敷の応接間で、ぼくとユーディトは向かい合って座っていた。
 家令もセツも、離れた場所で押し黙っている。
 目の前には温かいお茶があったが、室内の空気は冷えきっていた。

 ユーディトは、先ほどから一言も言葉を発さない。
 恋人との逢瀬を邪魔してしまったことに、ぼくは反省しきりだった。
 ユーディトの恋人は、ぼくの姿を見た途端に走って逃げてしまったのだ。
 宰相の仕事を補佐して学びながらの日々は、さぞや忙しいことだろう。今日は、ようやく休みをとって、二人で過ごす日だったのではないだろうか。

「ユーディト⋯⋯」
「イルマ!」

 ほぼ同時に、言葉が出た。

「あ、あの、ごめんね。こんな、急にやってきて。しかも、大変無粋な真似をしてしまって」
「違う、違うんだ。イルマ」
 ユーディトが激しく首を振り、苦悶の表情をする。

「隠さなくていいよ。本当に申し訳ないと思ってる。熱が下がったから、直接御礼を言おうと思っただけなんだ。今日は休みで屋敷にいるって、宰相が教えてくれて⋯⋯それで」
「あの、くそじじい⋯⋯!!」
「ん?」
 なんだか、聞きなれない言葉を聞いた気がする。

「折角来てくれたと言うのに、とんだ醜態を見せてしまってすまない。どうか今日のことは、忘れてくれないだろうか」
「え、ええっ?いや、それは。ユーディトがそう言うなら、ぼくは構わないけど」
 ずっと俯いていたユーディトが顔を上げる。すがるような瞳がそこにあった。

「陛下と兄上とユーディトと。3人に手紙を送ったけど、一番先に助けに動いてくれたのはユーディトだった。本当にありがとう」
「イルマから手紙をもらって嬉しかった。俺を頼りにしてくれているんだと思って、心が震えたよ。本当は自分で迎えに行きたかったんだ」
 ぼくは、思わず微笑んだ。
「相変わらずユーディトは優しいなあ。何かあっても、ユーディトが助けてくれるって信じてたよ」
「イルマ!!!」
「今度は、ぼくがユーディトを助ける番だね」

 ぼくは、声を潜めた。
「もし、宰相が二人の仲に反対しているのなら、ぼくが応援するからね」

 ユーディトは、息を呑んでぼくを見つめていた。
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