【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅱ.フィスタ

第7話 二人の王子と温室の泉①

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 シェンバー王子の評判がいい。

 物腰が柔らかく、常に礼を欠かさない。
 笑顔を絶やさず、下々の者にも寛容だと言う。

「大変優秀でいらっしゃいます。流石は大国スターディアの王子、一通りの学問は既に身に着けておいでですし、語学も堪能でいらっしゃる」

「お体の鍛錬も日々欠かさず行っておられます。先日は騎士団の見学がしたいと仰せでしたのでご案内しましたが、手合わせで第1騎士団の副団長が破れました」

「城内での評判も上々です。下々の者たちにもご情愛深く、一昨日は池に落ちそうになった侍女を見事に助け上げたと」

 報告する者たちの顔は皆、一様に高揚している。

「⋯⋯びっくりするぐらい、いい噂しか聞かないわ」

 姉のサリアが、大きくため息をつく。
 ぼくは久々に登城した姉と共に午後のお茶を飲んでいた。
 そして、姉が呼びつけた者たちから、シェンバー王子についての報告を受けている。

 ⋯⋯ぼくにしてみたら、姉上の方がびっくりだよ。いつの間に、城内でシェンバー王子の動向を探らせていたんだ?
 そんなぼくの動揺を見て取ったのか、姉は眉をきりりと引き締めて言った。

「イルマ、噂など当てにならぬもの。自分と共に歩む者のことは、率先して知らなければなりません。シェンバー王子のことは、今まで聞いた噂と両極端なのが気になるけれど」

 姉は、セツの淹れたお茶を一口飲んで微笑んだ。
「案外、悪いかたではないのかもしれないわ」

 ほほほほ、と笑う姉の機嫌がいいのはセツのお茶の美味しさだけではないと思う。姉は面食いなのだ。絶対、シェンバー王子の外観も気に入っている。報告結果は、さらに姉の満足のいくものとなったのだろう。

「あのサリア様から高評価を勝ち取るとは、シェンバー王子もなかなかのものですねえ」
 姉が部屋を去った後に、セツがしみじみと言う。

 サリアは、昔から優し気な外見のわりに辛口だった。セツは姉の容赦ない発言にさんざん泣かされている。最も、味にも厳しかった姉のおかげで、セツのお茶を淹れる腕は格段に上がった。その点だけは感謝している。

 ぼくと会った後、王妃である母の元に行くと言っていたから、さぞかし話が弾むことだろう。

「シェンバー王子、スターディアでの印象と違いすぎてよくわからないな⋯⋯」
「どうやら、フィスタでは身持ちも固いようですしねえ」
「セツ⋯⋯」

 そこなのだ。
 諸外国に知れわたった軽薄さは、すっかり影を潜めている。品行方正なところも、人気を博す一因になっていた。

「何を考えているんだろう⋯⋯」



 そんなことを思っているから、ばったり会うのだ。きっとそうだ。
 翌日。王宮の庭の小道を歩いている時だった。

 前に人だかりがしている。華やかな笑い声と色とりどりのドレス。年若い貴族たちが集まっていた。その間に見えるのは、頭一つ出た長身と流れる黄金の髪。

 ぼくはすぐさま、向きを変えた。

「イルマ殿下!」
 よく通る、低く甘い声。
 仕方なく振り向けば、輝くような笑顔があった。

 シェンバー王子は、囲んでいた人々を振り切ってぼくの元に駆け付ける。
 ぼくは笑顔を作って言った。

「どうぞ、ぼくのことはお構いなく。皆さんとお話をお続けください」
「殿下はいつも、つれないことを仰る。毎日お忙しそうですが、今日はお一人でお散歩ですか?」
「えっ。ちょっと、温室を見に」
「殿下が温室を? 私も一緒に見に行ってもよろしいですか?」

 笑顔の王子の向こう側に、興味津々でこちらを眺めている人々が見える。
 貴族の令嬢や令息たちの後ろには当然侍女や侍従も控えている。ここで下手なことを言えば、城の中でどんな噂が立つかわかったものではない。

「⋯⋯わかりました。ぜひ、ご一緒に」
「光栄です! 殿下」

「頑張ってくださいね、シェンバー王子!」
「後でぜひ、お話を!!」

 シェンバー王子は、人々に向かって手を振り、応援の言葉を受けている。
 ⋯⋯いつの間に、こんな歓迎ムードになっていたのか。ぼくが王子を避けて逃げ回っている間に、たくさんの人々を味方につけていたようだ。

 ぼくは、王子と共に、王宮の片隅にある温室に向かった。

「温室では何をご覧に? 花ですか?」
「いえ。穀物の発芽状況を見に行きます」
「穀物?」

 王子が驚いた顔でぼくを見た。

「⋯⋯スターディアは、領土も広く平野部も多い。フィスタと行き来する間に見ただけでも、その違いに驚きました。王子はフィスタにいらして驚かれませんでしたか?」

 シェンバー王子が逡巡する表情を見せた。伏せられた瞳を長いまつ毛が縁取る。

「フィスタの領土の大半は山と森。そして湖だと聞いてはいました。しかし、思った以上に耕作できる面積が少ない。水と気候に恵まれているので作物は採れるでしょうが、何か災害が起こればひとたまりもないのでは」
 
「仰る通りです。こんな小国が他の国に飲み込まれもせず今日あるのは、奇跡のようなもの」
「⋯⋯女神のいます国」

 王子の呟きに、ぼくは思わず微笑んだ。近隣の国々からはそう言われている。
 高い山々と広大な森に囲まれ、女神が誕生したと言われる湖を抱く国。まるで聖地のようなこの国は、戦もなくひっそりと国々の間に存在している。

「それも、スターディアのような大国が和平協定を結んでくださっているおかげです。戦に巻き込まれていないのはありがたいですが、嵐一つ来れば人は飢える。女神の恩寵に頼ってばかりはいられません」
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