【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
20 / 202
Ⅱ.フィスタ

第6話 浮気者王子と歓迎の宴②

しおりを挟む

「フィスタの至宝、イルマ殿下」

 いつか見た、流れるように美しい礼。
 人々の目と耳は、全て彼に集中していた。

「数々の御無礼をどうぞお許しください」
 そう言って、ヴェールの裾を持って恭しく口づける。

殿、此度のフィスタ留学が許されたと聞き及んでおります。幾久しく我が身にそのお心をいただけますことを」

 広間の空気が、動く。動揺と、興味と、好奇。

 ⋯⋯そう来たか。

 ぼくは笑顔で言った。

「スターディアより、ようこそお越しくださいました。、王子のご滞在を歓迎申し上げます」

 シェンバー王子は、差し出したぼくの手を取った。
 広間には歓声の声が上がり、ぼくたちは共に玉座の前まで歩く。

「スターディア王が第二子、シェンバー・ラウ・スティオンにございます」
「よくぞ参られた。シェンバー王子が滞在なされる間、ここは王子の国である。良く学び、良き時間を過ごされるように。フィスタは王子を歓迎する」

 国王の挨拶と共に、歓迎の宴が始まった。
 シェンバー王子に挨拶したい者たちは山ほどいるのだろう。
 王子が立ち上がったのを見て、人々が騒めいた。この後は夜中まで宴会だ。
 ぼくはこっそり抜け出せそうかどうか、真剣に考えていた。

「イルマ殿下」
「へ?」
 輝く美貌が目の前にあった。

「踊ってはいただけませんか?」
「なにを?」
「もちろん、ダンスを」

 にっこり笑うシェンバー王子に、あちこちからため息が漏れる。
「⋯⋯残念ながら、あまり上手くはないですよ」
「大丈夫です。どうぞ、貴方の手を取ることをお許しください」

 ぼくは王子に手を取られて、前に進んだ。音楽が変わる。

 王子はダンスが上手かった。
 ⋯⋯ものすごく、上手かった。

 手首の動きの細部までが優雅だった。
 鍛えられて少しもぶれない体には、安心して身を預けることが出来る。
 洗練された動きに、ただただ感心するしかなかった。

 ぼくとダンスを2曲終えた後。
 大広間には万雷の拍手が鳴り響いた。

 王子と踊りたいとたくさんの令嬢たちが詰めかけた。しかし、王子は言った。

「イルマ殿下としか踊るつもりはありませんので」

 シェンバー王子は人々と談笑しながらも、ぼくの隣から離れようとしない。
 周囲の目が温かくなっている気がする。
 ぼくは、ろくに飲めない酒をちびちびと口にした。


「イルマ殿下」
「ユーディト」

 ユーディトがさり気無く水を手渡してくれる。
 穏やかな瞳には緊張があった。

「よろしければ、私と一曲踊っていただけませんか」

「ぼくでいいの? 王立学校でも、ダンスはぎりぎり及第点だったのに」
「その王立学校で、殿下のお相手をずっと務めていたのは誰ですか?」

 ぼくたちは、顔を見合わせて笑ってしまった。
 ダンスの試験で、ユーディトはいつもぼくを相手に選んでくれた。
 誰よりも美しく正確に踊る彼は、相手を選び放題だったのに。


 ぼくとユーディトが広間の中央に進むと、曲が変わった。

「ああこれ、懐かしい」
「殿下と特訓しましたね」

 進級試験の課題曲がどうしてもうまく踊れなくて、舞踏室を借りて必死で練習した。ユーディトに申し訳なくて、一人で練習するからいいと言ったのに。ダンスは二人でやるものだからとずっと付き合ってくれたのだ。

「ユーディトはいつも優しかった」
「殿下は、いつも一生懸命でいらっしゃいました」
「今日もぼくを導いてもらえますか?」
「殿下の御心のままに」

 散々練習したから、このダンスだけはちゃんと踊れる。ぼくは踊っている最中、ずっと笑顔のままだった。ユーディトのダンスは間違いなく、フィスタで最高と呼ばれるものだった。

 鳴り響く拍手の中、席に着こうとした時だ。
 立ち上がったシェンバー王子が、ユーディトに向かって言った。



「見事だった、名は?」
「ユーディト・フェリオスと申します。フィスタ宰相アディ―ロが一子にございます」

 シェンバー王子が次に言った言葉は、とんでもないものだった。

「宰相殿の⋯⋯。ところで、婚約者がいる者をダンスに誘うのは決闘と同じこと。其方は、イルマ殿下に懸想しているのか?」

 冷ややかな瞳を向けられたユーディトは、目をみはった。
 瑠璃色の瞳と翡翠色の瞳が真直ぐにぶつかる。

「ちょ、ちょっと待って。この国では、ダンスにそんな意味はないよ⋯⋯」
 何を言い出すんだ、この王子は!

「では、イルマ殿下。彼は、私と貴方の仲を阻むわけではないと?」
 ぼくの腰を抱くようにして、王子が体を近づけてくる。
 ⋯⋯仲って何だ。そもそも、王子との間に阻まれるようなことは何もないわ!!

 ぼくは、思いきり頷いた。なぜかその様子を見て、ユーディトは泣きそうな顔になっている。

「これは失礼した。フィスタとスターディアではいささか作法が違うようだ。非礼を許してほしい、ユーディト殿」
「⋯⋯こちらこそ、シェンバー殿下の御心を騒がせましたこと、至らぬ限りにございます」
 ユーディトが深々と頭を下げた。

「私としたことが、浅ましい真似を致しました。貴方と美しいダンスを踊る者が私以外にいると思った途端に⋯⋯。至らぬのは私の方だったようです。イルマ殿下、どうぞお許しを」

 ぼくの手を取って、姫君にするように謝罪の口づけをする。
 その様子に、ほうっと、あちこちからため息が漏れた。

  ──いったい、どんな茶番なんだ。
  ぼくは、手元にあった酒を一気にあおった。




 ☆★☆




「見事としか言いようがなかったですね! シェンバー王子!!」
 宰相の屋敷では、恋愛師匠が興奮して手を叩いていた。
「いやあ、今日の歓迎会に参加できて本当に良かった!」

 宴が終わり、ユーディトとシヴィルは屋敷に戻ってきた。
 領地が遠いシヴィルは、一泊してから自領に戻る予定になっている。
 ──美しいイルマの姿を見て、ダンスを共に踊った。今日は間違いなく佳き日だった⋯⋯。
 黄金の髪の美しい男が浮かぶ。しかし、ユーディトの心を重くしたのは彼ではなかった。
 可憐な容姿の従兄弟が、眉を吊り上げて叫ぶ。

「ちょっと! 大丈夫ですか?ユーディト様。まだ勝負はこれからですよ! 全く殿下に脈がなくたって、あきらめちゃだめ!!」
「全く脈が⋯⋯」
「そうですよ、これから!」
 シヴィルの慰めが、疲れきったユーディトの耳に遠く響いていた⋯⋯。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...