【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
23 / 202
Ⅱ.フィスタ

第9話 王子たちと子どもたち①

しおりを挟む

「おはようございます、イルマ殿下。今日は遅かったですね。これから、どちらにお出かけですか?」

 いつもの祈りの時間に遅れたので、慌てて朝食に向かった。出かける支度に時間をとられたのだ。先に席に着いていたシェンバー王子が笑顔で話しかけてくる。

 ぼくの行動はすっかり王子に知られていて、最近は会話の自然さに戸惑うこともなくなってきている。怖い。

「ちょっと城下まで⋯⋯」
「そう言えば殿下は、七日に一度は城下にお出かけですよね。どこか気に入った店でも?」
「いえ、特にそんな店があるわけではなくて」
「そうなんですか? 熱心にお通いになっておられるなと思っていました」
「⋯⋯約束があるものですから」

 
 王子の瑠璃色の瞳がきらりと輝く。
 ああ、余計なことを言ったと思った時には、もう遅かった。


「本当に、シェンバー王子もご一緒に行かれるのですか?」
 わけがわからない、とセツが胡乱気な顔で言っている。
 仕方ない、世の中には成行きってものがあるんだ。

「ぜひに、と仰っている。元々王子は、好奇心旺盛なんだろうな」
「まあ、ご一緒されても問題はありませんよね」
「そうなんだよ。シェンバー王子は目立つだろう? 話題になって注目度が上がれば、寄付が増えるかもしれない。そう思うと、逆にいいような気もするんだ」


「お待たせしました」
 しかし、自室に現れたシェンバー王子を見て、ぼくとセツは目を剥いた。
「⋯⋯王子、派手すぎます」
 麻のシャツも華やかな刺繍のコートもよく似合っている。袖の瑠璃のカフスなど、瞳と合わせていて洒落ていると思うが、今回は必要ない。

「折角、イルマ殿下と出かけると思って用意したのですが」
 心底残念そうに王子が言う。
「大変よくお似合いです。でも、ぼくと出かけるにはもったいないので、他の方との機会にどうぞ」
「殿下は素気無すげない言葉を仰る」
 艶めいた流し目を送られたけれど、無視した。
「今日行く場所には不要ですので。王子のお持ちの服の中で、最も目立たぬものをご着用ください」

 もしかして、地味な服など持っていないのではないかと思ったが、そんなことはなかった。
 着替えてきた王子の服装は、濃い茶の上下で質も仕立ても申し分ないが、一見して派手にも見えない。そして、地味な服ほど本人の美貌を引き立てるものらしい。


 馬車で一刻ほど揺られ、ぼくたちは目当ての場所に来た。町外れに建てられた二階建ての建物は、入口に女神の姿が彫られている。

「あ、イルマさま!」
 ぼくに気づいた子どもが駆けてくる。
 一人が気がつくと、次々に子どもたちが走ってくる。

「イルマさまだー!」
「イルマさま、いらっしゃい!!」
「セツもいるー!」

 ぼくは、あっという間に子どもたちに取り囲まれていた。
 ふと視線を上げると、指をしゃぶりながら立ちすくんでいる子どもがいた。

「シア、おいで」
 ぼくが呼ぶと、とことこと歩いてくる。
 両手を差し出して、ふわりと軽い体を抱き上げた。

「⋯⋯いるまちゃま、あのひと、だあれ?」
 シアの指さす先には、呆然と立っているシェンバー王子がいた。

「⋯⋯きらきら⋯⋯めがみちゃま?」
「ふふっ。シア、シェンバー王子は男の人だよ」
「ちぇんばあ?」
「そう。隣の国の王子様だよ」
「⋯⋯」

 シアが降りたいと言うので、そっとおろしてやる。
 幼い少女は、建物の中に走っていった。

「イルマさま、今日はなにしてあそぶ?」
「イルマさま、いつまでいられるの?」

 子どもたちが次々に話しかけてくるので、ぼくはしゃがんで目を合わせる。
「今日はゴートと話をしに来たんだ。たくさん遊べないかもしれないけれど、約束したお菓子をたくさん持ってきたよ。皆で食べよう」

 わっと歓声が上がる。

 建物の中から、一人の青年が子どもに手を引かれて歩いてきた。
「みんな、手を洗って。食堂で待っておいで」
 青年に声をかけられた子どもたちは、はーい!と元気よく返事をして次々に建物の中に入っていく。

「イルマ殿下、お待ちしておりました」
「ゴート、突然ですまないけれど、今日はお客様を連れてきたよ」
 シェンバー王子が隣に立って挨拶をする。
 青年は目を見開いて、頬を染めている。こんな光景もすっかり慣れっこになってしまった。

「名高いスターディアの王子殿下にお越しいただけるとは光栄です。どうぞ、中へ」

 建物の中は、新しくはないが清潔だった。隅々まで掃除され、女神の小さな像の前には花が飾られている。
 セツは食堂で持ってきた包みを開き、子どもたちと共に皿に移し替えていた。包みを開ける度に歓声が上がった。

「はーい、みんな、たくさんあるからね。全員、手は洗った?」
「あらったよー! セツ!!」
「ほら、みてー!!」
 子どもたちが次々に小さな手をあげる。

 笑って頷くセツの隣で、まとめ役の少年が言った。
「じゃあ、お皿を持って、小さい子から順番に並んで! 一つずつ取るんだよ」

 順番に並んだ子どもたちは、幼い子から大皿に並んだ菓子をとった。
 皿の上には、木の実の焼き菓子や口の中にいれたら溶ける真っ白な砂糖菓子、卵色の蜂蜜パンなどが並んだ。
 どの子の瞳も、きらきらと輝いていた。

 テーブルの上にあるものが取れない小さな子には、年嵩としかさの子どもたちが手を貸す。
 全員が席に着いたのを確認して、女神への祈りが捧げられる。祈りが終わると、子どもたちは賑やかに食べ始めた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...