【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅲ.祝福の子

第2話 目覚め②

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「シェンバー王子。この度はイルマ殿下をお救い頂き、なんと御礼を申し上げたらよいか。近衛として至らぬ限りで申し開きもできません。どんな責めもお受け致します」

「よい。其方がいなければ、我らは全員生きてはいないだろう。あの人数で無事だったのは、其方のおかげ。獅子しし奮迅ふんじんの働きを成したものを責めるいわれはない」

 サフィードは黙って頭を下げ続ける。

「⋯⋯それに、自分の婚約者を助けただけだ。礼を言われる筋でもない」
 ぽつりと漏らす言葉に、騎士の体がぴくりと震える。
 ぼくは慌てて、サフィードに言った。

「心配かけてごめんね。サフィーは皆を助けてくれたって王子から聞いたよ。ありがとう」
 サフィードは、顔を伏せたまま声を絞り出す。
「私は⋯⋯殿下の護衛を仰せつかって今日まで参りました。殿下をお護りすることも出来ず、過分なお言葉を頂くなど⋯」
「そんな⋯⋯」

「主を困らせるのがの臣の在り方か? 過去を悔いるよりも、次で挽回することだ」
 シェンバー王子の言葉に、ぼくも続けた。

「そうだよ。サフィード以外にぼくの騎士はいない。今回のことを気にしてるならその分まで、これから先もずっと、ぼくを守ってくれたらいいよ」
「イルマ殿下⋯⋯」

 サフィードの肩をぽんぽんと叩いて、立ち上がるよう促す。
 騎士を先頭に、再び山を下る。


「王子、ありがとうございました」
 助け船を出してもらえてよかった。笑顔で話しかければ、なぜか王子は黙りこんでいる。
「どうかなさいましたか?」
「⋯⋯いや。自覚がないとは罪なことだと」
「は?」
「彼は、この先も死ぬ気で貴方をお守りするでしょう」
 それはそうだろう、と思いながら王子を見れば、小さくため息をつかれた。



 サフィードの案内で山を下りた先には、小さな村があった。
 数軒の家に小屋。拓いた土地に畑が続き、柵の中では家畜たちが草を食んでいる。

「イルマ様あああああ」
 セツが走ってくる。さぞかし泣かれるだろうと思ったが、そうでもなかった。

「それはもう、すごかったですよ⋯⋯」
 セツが青い顔をしている。シェンバー王子の侍従のレイも黙って頷く。

 山賊たちを捕らえた後、ぼくを探すのは最重要事項だった。応援を呼ぶために一番近い騎士団の駐屯地に、すぐさま近衛を走らせた。捕らえた者たちには、ぼくを連れ去った場所を吐かせねばならない。

「なかなか居場所を言わない奴らにキレたサフィード様は、悪魔のようでした」

 全く、想像がつかない。村人たちがサフィードを遠巻きにしていると思ったのは、勘違いではなかったようだった。

「途中でシェンバー王子が、捕らえた者たちと自分だけにしてほしいと仰いました。サフィード様を止めて、殿下の居ると思われる場所を、いくつか聞きだしたんです。それから、ぼくたち二人と連絡役以外は総出で山に入りました」

 王子も行くと聞いて止める声も上がったが、一晩たっても見つからなければ戻る約束だったと言う。
「殿下の居場所を聞き出してくださったのも王子だったので、皆お止めできなかったのです」

 村の人々は親切で、時ならぬ客を温かく迎えてくれた。ぼくと王子にスープや焼いたばかりのパンが運ばれる。
 これは、ここの村の大事な食糧だろうに。そう思って、少しだけもらうよ、と言えば村長が平伏する。

「ここ十数年もの間、気候も良く山も大地もたくさんの恵みを与えてくださる。蓄えは十分にあります。これも女神のお力です。どうぞ食べてくだされ」
 温かい食べ物は力がつく。パンを少しずつスープに浸して食べた。あまり顎を動かさずに食事ができたのは、ありがたかった。

「村の人たちも山に入って協力してくれたんだよね。ありがとう」
「何を仰る。これで山賊たちは、この近辺には現れないでしょう。ありがてえことです」

 村のものを盗られることはなかったが、人を襲う者たちがいる山は恐ろしい。長の顔は、ほっとしていた。
 黙って食事をしていたシェンバー王子は言った。

「⋯⋯彼らは、頻繁に人を襲っていたのか?」
「いえ、そんなこともねえです。ただ、狙われるのは決まって貴族の馬車や金持ちの商人の荷車でした」

 それを聞いた王子の瞳が揺れる。ぼくは昨夜聞いた話を思い出した。山賊たちとは、スターディアから逃げ出した下級騎士たちだ。彼らは、これからフィスタの騎士団に引き渡される。その末路がどうなるのか。ぼくにはわからなかった。

 王子はさっさと食事を終えて、近衛たちに指示を出していた。
 駐屯地から騎士団が到着したのは、それからまもなくのことだった。



 結局、村に一泊させてもらい、次の日に出発した。こんな目に遭ったのだからと帰城する案も出たが、ぼくはどうしても湖に行きたかった。騎士団からは護衛が付いた。何とも物々しい姿になったが仕方ない。

 村を出る時に、子どもが走ってきた。小さな手に摘んだばかりの花を持っている。

「あの、あの、これ」
「ぼくにくれるの?」
「女神さまのお力で、山羊がたくさん子どもをうんだの。みんなが、王子さまがいらっしゃるおかげだって」
「⋯⋯ありがとう。君とこの村に、いつまでも女神の恵みがありますように」

 ふわふわした髪を撫でながら囁くと、子どもの顔がぱっと輝いた。

「スターディアよりも、フィスタの方が格段に女神への信仰は厚いようだ」
 平伏して見送る大人たち、手を振る子どもを眺めながら王子が言う。
「女神が誕生した地ですから」

 応急処置をしただけの馬車は、揺れがひどい。扉もなんとか外れないように打ち付けてあるだけだ。シェンバー王子の足元には、変わらず剣が置かれている。

 ぼくは手にした花を一輪、王子に差し出した。

「私に?」
「女神の湖に行けるのは王子のおかげです」

「御礼なら、こちらの方が好みです」

 馬車の揺れと共に腕を引き寄せられる。
 重なりあう唇の間で、手にした花が落ちた。
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