【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅲ.祝福の子

第3話 告白①

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 ⋯⋯近づかない。

 ぼくは、決心した。もう、迂闊うかつには近づかないぞ、と。
 馬車の中で固まるぼくに、王子は体を離して、一瞬目を丸くした。そして、にっこりと微笑んだ。これは好意なのか、からかっているのか。いや、それ以前に。
 考えてもみろ、そもそもぼくは目の前の男から逃げてきたはずじゃないのか⋯⋯。

 乳母は言った。
 喉元過ぎれば熱さ忘れる。
 よろしいですか、イルマ様。
 熱さを忘れる者は、また同じ過ちを繰り返します。

 同時に、サフィードが黒の森で言った言葉も思い出す。
 ⋯⋯いつも、冷めるまでお待ちになれなかったではありませんか。必ず指を火傷やけどしてしまわれて。

 ⋯⋯ああ、しっかりしなくては。もう子どもじゃないんだ。
 ぐるぐると思考にまるぼくを見ながら、美貌の王子は艶然と微笑んでいた。



 ☆★☆



「イルマが山賊に!?」
 騎士団が飛ばした早馬の知らせは衝撃だった。家令からの報告に、ユーディトは言葉を無くす。
 湖畔屋敷でイルマ王子用の部屋を手ずから整えていた男は、思わず花瓶を落とした。

「ちょっ!!」
 俊足なシヴィルが床に叩きつけられる寸前で滑り込む。
「ユーディト様、気をつけてくださいよ。これ、殿下が喜びそうなものをって仰るから、走り回ってようやく見つけた逸品なんですよ!」

「イルマ⋯⋯イルマ。無事だっただろうか?」
 ユーディトは体の震えを抑えられなかった。イルマ王子に何かあったらと思うと、気が気ではない。

「無事だって、さっき言ってたじゃないですか。予定より遅れるけれど、こちらに向かってくださったのなら、お体に問題はないのでしょう」
「ああ、そうだな。確かそう言っていた」
「⋯⋯問題なのは、そこじゃないですよ」
 シヴィルは花瓶を無事に棚に置き、ユーディトに向き直った。
「イルマ殿下を山中からお助けしたのが、シェンバー王子だったってことです」

 ユーディトは、ほっとしたように息をつく。
「王子のおかげで、イルマは山賊の元から助け出されたのだろう。本当に良かった。王子に礼を言いたいぐらいだ」

 ──そうじゃない!そうじゃないだろう!!
 シヴィルは叫びだしたいのを必死にこらえた。
 ──どうしたら、こんなに人のいい坊ちゃまに育つのか。あの宰相殿の息子なのに!

「ユーディト様、おわかりですか? お二人は山中で一夜を明かしたんですよ?」
「なっ! シヴィル、そんな言い方は⋯⋯!! シェンバー王子は山賊を倒した上に無理を押して救出に行かれたはずだ。大変な思いをされたと」
「そうです! 大変な思いをしてまで自分を助けに来てくれたのです。イルマ殿下は、どんなお気持ちになられると思います?」

 ユーディトの顔がさっと青くなる。
「⋯⋯まさか」
「その『まさか』が起きるのが恋愛です!」

 ここが大事なところだとばかりに、シヴィルは指をびしっとユーディトに突き付けた。

「殿下の御心は揺れていらっしゃるかもしれません。ぐずぐずしてはいられませんよ。屋敷にいらしたら、押して押して押しまくるのです!!」
「押して⋯⋯」
 ユーディトは、シヴィルに気圧けおされつつも立ち上がった。
「さあ、殿下が来られるまでに時間がありません。準備に漏れがないか、ご確認を」
 二人は頷き合った。

 何のために泊りがけで何日もかけて準備をしてきたのか。
 相手が山賊だろうが王子だろうが、ここで負けるわけにはいかないのだ。



 ★☆★



「イルマ!!!」
「ユーディト!」

 馬車が止まるのを待ちかねたように、ユーディトが屋敷から走ってくる。
 まるで姫君のように手を取られて馬車を降りた。

「山賊に襲われたと聞いた。顔を見るまでは安心できなくて⋯⋯無事でよかった」
「うん、遅くなってごめん」
「いや。そんな、来てくれて本当に嬉しいよ」

 友人の顔を見てほっとした。
 ぼくの口許を見た後、ユーディトは手首を見た。まるで自分が縛られたかのように痛々しい顔をする。

「⋯⋯辛かっただろう。まずはゆっくり休んでほしい」
「ありがとう、ユーディト。温かい気持ちが嬉しいよ」
「シェンバー王子、イルマ王子を助けていただいてありがとうございます。どうぞゆっくりとお疲れを癒していただきたいと思います」

 シェンバー王子が一瞬、不思議そうな顔をする。
「ユーディト殿、お心遣い痛み入る。それにつけても皆、同じようなことを言う。殿下は相当愛されておいでのようだ」

 ⋯⋯そうなんだろうか。
 ぼくは、嬉しいような照れくさいような気持ちで笑った。


 屋敷の応接間には、一人の人物がいた。
 ぼくは、はっとした。あれは⋯⋯。

「御紹介させていただきます。私の従兄弟のシヴィルです。両殿下のご滞在の間、二人でお相手を務めさせていただければと思います」
「お初にお目にかかります。シヴィル・ランブロートと申します。宰相の妹が私の母に当たります。どうぞ何でもお申しつけを」
「ランブロート⋯⋯ああ、南の伯爵家の」
「はい、殿下」

 ランブロート伯爵家は、南方の穀倉地帯に大きな領地を持つ。
 ふわりと笑うユーディトの従兄弟は、男性にしては細身で華奢だった。柔らかな栗色の髪、少しつり気味の大きな瞳に、愛らしい唇。口を開けば男性だとわかるが、可憐という言葉がふさわしい。
 何よりも、どこかで彼に会ったことがある。強くそう思うのに思い出せない。

「噂に高い両殿下にお目にかかれて光栄です」
 挨拶を受けながら、どこで会ったのだろうかとそればかりを頭の中で繰り返していた。

 二人に案内されて、ぼくたちは部屋に入った。
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