【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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Ⅴ.後日談

第1話 秘め事①

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 イルマ王子の様子がおかしいと、最初に気づいたのはセツだった。

 王子の生活は規則正しい。
 元々素直で、乳母ルチアの教えがしっかり身についている。
 早寝早起き、朝の祈りを欠かすことはない。
 その王子がここ二日ほど、寝過ごしている。

 昼間も時々ぼうっとしたり、眉を顰めたりしている。

「どうしよう⋯⋯」
 呟くこともある。
 その後は大抵、暗く沈んでいるのだ。

「イルマ様、どうなさったんです? 何かお悩みでも?」
「いや、何でもない」

 そう言いながら、イルマ王子はふらふらと庭に出ていく。
 昨日は、よろけて泉に落ちかけていた。

 ⋯⋯どこが、何でもないんだ。
「あんなに落ち込んでいらっしゃるなんて、何があったんだろう」

「どうして落ち込んでいらっしゃるとわかるんです?」
 首をひねるレイに、よく見てごらん、とセツが言う。
「イルマ様はわかりやすい。落ち込むと、元気のない小動物みたいになる」
 ふわふわの柔らかい髪はへにょんとしおれるし、背中も丸まってしまう。何よりも。

「イルマ様は、つらくなると寝てしまう」
「眠る?」
 セツは頷いた。
「昔からそうなんだ。手間がかからないといえばその通りなんだけど、悲しいことや悩み事があると、すぐに眠ってしまう」

 睡眠で体力を回復することで、心に受けた痛手も治そうとするのだろうか。
 レイが庭を見れば、イルマ王子は、茂みに足を取られて転ぶ寸前だった。




 翌日。

「⋯⋯一体、どうして?」
 シェンバー王子は呟いた。

 逃げられた。
 挨拶をしただけだったのに。

「おはよう、イルマ」
 ──たしか、そう言っただけだったと思う。
 返事はなく、ガタンと大きな音がしてパタパタと遠のく足音が聞こえた。

「私は、何かしたんだろうか?」
「何かなさったのですか?」
「いや、まだ⋯⋯何もしていないと思う」
「⋯⋯」
 主従のわけのわからぬ会話が続く。
 レイは黙って、主を朝食の席に導いた。

 果たして、イルマ王子はセツに言った。

「ごめん。なんだかちょっと眠くて。少し横になるね。おやすみなさい」

 萎れた王子は、まだ日が高いうちから寝室に籠もってしまった。


 シェンバー王子の部屋には、セツが呼びつけられていた。

「風邪じゃありませんよ。もう熱はないし、元々が健康そのものの御方なんですから」
「しかし、昼間から眠ることなんて今までなかったはずだ。医師を呼んだ方がいいんじゃないだろうか。朝だって、挨拶しただけで走って行ってしまった」

 ──案外、心配性なんだな。いや、相手がイルマ様だからなのか⋯⋯。

 離宮に来て少ししてから、シェンバー王子とイルマ王子の仲は急速に深まっていった。
 おや、と思った時にはお互いを名で呼び合っていた。
 しかし、一定の距離は保ったままだ。

「どうして、イルマ様は走っていかれたんでしょう? シェンバー殿下、一体何をなさったんですか?」
「⋯⋯何もしていない」
「本当に?」
「いいかげんにしてくれ、セツ。今の私に、何ができると言うんだ」

 王子なら盲目の状態でも色々できそうな気がします、と言うのは止めた。
 侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。

「イルマ様の様子がおかしくなったのはちょうど3日前からだと思います。あの日は確か⋯⋯書庫に行かれたはず」
「そういえば、何冊か本を選んで持ってきてくれたが、気もそぞろな感じだった」

 イルマ王子は時折、シェンバー王子に本を読み聞かせている。南の離宮には大きな書庫があった。夏や冬場の避暑地も兼ねているため、何代にも渡って書籍が所蔵されているのだ。

「シェンバー殿下、差し支えなければお聞きしてもよろしいですか? 本はどのようなものを?」

「穀物史と風土病、大陸における女神の信仰分布図、愛馬の飼い方」

「⋯⋯特に、何事もなさそうですね」
 それは読み聞かせられて楽しいのか?と聞きそうになったが、セツは堪えた。
 侍従は出過ぎた真似をしてはいけない。


 イルマ王子は、夕食時にようやく顔を出した。
 小鳥がついばむ程度にしか、食事が進まない。
 いつもは自分からよく話す王子が黙り込んでいると、食卓は静まり返っている。
 シェンバー王子が話しかけても、相槌を打つばかりで話は弾まなかった。

 夕食後にシェンバー王子は、イルマ王子を部屋に呼んだ。

「⋯⋯ここに来て、イルマ」
 部屋の入り口に立ったままのイルマに、シェンバーは優しく声をかけた。

 おずおずとやってくる気配がする。
 しょんぼりと前に立つ小柄な体に手を伸ばす。

「どうした? 何が気になっている?」
 髪に触れれば、ぴくりと体が震えた。
 黙り込む恋人を、そっと胸の中に抱き込んだ。
 柔かい髪、腕の中にすっぽり入るしなやかな体が心地よかった。

 イルマはシェンバーの胸に頭を預けながら、ぽつりと言った。
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