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第二部 眼病の泉
第1話 クァラン砂漠①
しおりを挟む風が吹く。
乾いた大地には岩が転がり、その向こうに一面の砂がある。
空の色は、どこまでも抜けるように青い。
「セツ、なんだか久々な気がするんだけど?」
「そうですね、イルマ様。まさかこんな日が来るとは」
「お二人とも、もうじきタブラに着きます。しっかり顔を覆ってください」
サフィードに言われて、ぼくたちは頷きあった。
目以外の全て。特に砂塵を吸わないように、しっかり鼻と口を布で覆う。
3人とも体に黒の外套を纏っている。外套と言っても真冬のもののように分厚くはない。
スターディアの南部は暖かい。今は冬から春に移ろうとする時期だ。
冬は雪と氷に覆われるフィスタの気候とは全然違う。
目の前にはフィスタとも南部とも違う広大な大地が広がっている。太陽が、ひときわ大きく輝く。
ぶるる、と馬が体を揺らした。
ぼくは、スターディアの王都スアンの宿屋で買った白馬に乗っていた。
セツとサフィードもそれぞれ同じ宿屋で購入した栗毛に乗っている。
まさかこの3人だけで、もう一度旅をする日が来るとは思わなかった。
スターディアからフィスタへと3人で逃げた日々が懐かしい。
「スターディアの広さは祖国で学んだけれど、実際に見てみると驚くばかりだ」
以前、シェンに話しかけながら南の離宮で地図を広げたことがある。流石、離宮とはいえ王族の愛用する書庫だ。蔵書だけでなく、机一杯に広がる大陸の地図は作るまでにかなりの年月がかかったそうで、立派なものだった。
シェンは、スターディアの地図を全て覚えていた。記憶を辿りながら、ぼくの質問に一つ一つ丁寧に答えてくれた。そんなことすら、今は遠く感じる。
目の前には、スターディア最大の砂漠クァランが広がっている。
大きな太陽は、もうじき砂漠に沈もうとしている。
ぼくは、呟いた。
「⋯⋯このどこかにシェンがいるのか」
「ええ、レイも」
サフィードは、ぼくたち二人を見た。
「ここまで来たのです。必ずや探し出しましょう」
砂漠の中の白い岩が、夕方の太陽の光を浴びて金色に輝く。それは、シェンの髪の色だった。
ぼくは、我知らず唇を噛む。
セツの顔が、きりりと引き締まった。
「きっと皆、ご無事なはずです」
ぼくたちは、ただ黙って頷き合う。
1カ月前は、確かにあの金色の髪に触れていたのに。
自分が温かな胸の中にいたのも、もうずいぶん遠いことのような気がする。
乳母は言った。
イルマ様。よろしいですか。
勝負に勝つ一番の方法は、勝つまで諦めないことです。
ああ、ルチア。この勝負、決して諦めも負けもしない。
大事な人を必ず、見つけ出すから。
砂漠の端の町で、宿を取った。
その晩、夢を見た。
1カ月前のあたたかな日々を。
◆◇◆
「シェン。これは、どうかと思うんだけど」
「ん? 何が?」
呟いた言葉は、絶対に聞こえているはずだ。
なのに、シェンはまるで聞こえないかのように微笑んでいる。
ぼくは今、シェンの膝の上にいる。
まるで小さな子どものように、髪を撫でられ本を広げている。
⋯⋯恥ずかしい。
最近、いつもそうだ。
部屋に入ると、ぼくの気配に気づいたシェンから、おいでおいでと手招きをされる。
シェンは窓辺に置いた長椅子が気に入っていて、大抵そこに座って寛いでいる。
ぼくが長椅子に近寄ると、ひょいと膝に乗せられてしまう。
座るのは隣でいいから!といくら言っても、気にする様子もない。
シェンは身長も高いし着痩せするので細く見える。鍛錬を欠かさない体は、見かけよりも筋肉質でがっちりしているんだ。
小柄なぼくの体は、あつらえたようにすっぽりと、腕の中におさまってしまう。
さらさらと癖のない金髪がぼくの肩口にかかる。厚い胸板を後ろに感じると、ほっとする。
でも、最近はそれだけじゃない。他の気持ちも生まれてきて⋯⋯困る。
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