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第二部 眼病の泉
第2話 クァラン砂漠② ※
しおりを挟む今日はシェンに本を読もうと思って、離宮の書庫から数冊選んできた。
「イルマ、今日は何を読んでくれる?」
「うん、ちょっと待ってね」
頁を開いて読み始めてすぐに、うなじに柔らかな感触があった。シェンの唇が触れる。ぺろりと舐められて、体がびくんと跳ねた。
「えっと」
ちゅ、ちゅと首筋に口づけが降ってくる。その度に、びくびくと反応してしまう。
初めて肌を重ねてから、ぼくたちは夜を一緒に過ごす日が増えた。
最近はシェンに触れられると、胸の動悸が激しくなる。お腹の上に置かれた手が熱い。
ゆるく重ねられているだけなのに、この腕の中から抜け出せない。
「シェ⋯⋯やめて」
「どうして?」
「⋯⋯本が、読めないよ」
持っている本を落とさないように必死だった。本は貴重な物だから、大切にするようにといつも言われていた。
「可愛いな」
笑いを含んだ甘い声が囁く。
耳たぶを齧られて、思わず小さく声を上げた。
「⋯⋯っ! ふ」
耳孔にシェンの舌が入ってくる。柔らかくて熱い。
お腹に置かれた右手は、いつの間にかぼくのズボンの前を優しく撫でている。
「あ⋯⋯」
シェンの指の感触に、ぼく自身があっという間に勃ち上がっていく。硬く張り詰めたことに気づいたシェンの指が止まる。くすりと笑った気配がした。
体の中から熱いものが湧きあがってくるのがわかる。
「⋯⋯イルマの声が聞きたいな」
耳元でそう囁いて、シェンはゆっくりと、ぼく自身を握り込んだ。
「んっ!」
本が絨毯の上に、どさりと落ちる。
はっとして、膝の上から体を動かそうとした。その途端、うなじを強く吸い上げられた。
ツキンと小さな痛みが走り、つま先まで力が入ってしまう。
勃ち上がったぼく自身は、もう先から雫を零している。
必死で声を抑えていると、艶めいた声が囁いた。
「ああ、たまらないな。イルマ、欲しい」
恥ずかしい。
まだ、昼なのに。
昨夜もしたのに。
いろんな言葉が次々に頭に浮かぶ。でも。
どれ一つ、口に出すことができなかった。
だって、もう、体が熱い。
「おいで」
頭の芯まで溶かすその言葉を、断れるはずもなかった。
体の向きを変えられて、シェンに向き合う。
唇と唇が軽く触れる。
きれい、と言うのはこの人のことだ。
白磁に人の体温をうつした肌は作り物のようだ。
普段は穏やかな銀色の瞳が、淫靡な色を宿す。
熱い体が寄せられて、背中に手を回す。肌と肌が重なり合う。
唇の間から忍び込んだ舌が、あっという間に快感を引き出す。
人の肌がこんなに気持ちいいなんて抱き合うまで知らなかった。
指で蕩かされて、舌で舐められて。
ぐずぐずに溶けた場所に、熱が押し当てられる。後蕾に口づけるように、シェンの潤んだ先端が触れる。
次の瞬間、ずちゅりと熱く押し入ってきた。
「あ! あああああ!!」
息を吐くことしかできない。
骨が折れるかと思うほど強く抱きしめられる。
腰が激しい律動を繰り返し、中に打ち付けられる度に嬌声が漏れた。
この声は、ぼくの声なのか。甘く喘ぎ、愛しい男に縋るこの声が。
シェンの背中に爪を立てる。
「声を⋯⋯聞かせて」
そう言われた瞬間に、奥まで貫かれた。
自分が声を上げたのかすら、わからなかった。
シェンに教わったことが、次々にぼくの体の中を作り替えていく。
「愛している」
何度も繰り返し囁く声に、うわ言のように同じ言葉を返す。
果たしてあれは、言葉になっていたのだろうか。
ちゃんと彼に、伝わっていたのだろうか。
シェンの腕の中で眠った日々。
あれは、ほんの少し前のことなのに。
まるで遥か遠い日々のようだ。
一通の手紙が、ぼくたちの日々を変えた。
シェンが受け取った手紙。
「レイが内容を伝えた後、一瞬、シェンバー王子は眉を顰めたそうです」
後になってセツが言った。
「⋯⋯どんな話なのか、聞いておけばよかった」
聞いても、レイは答えなかっただろう。
それでも。
セツの苦い気持ちがわかる。
シェンと、レイと、2名の近衛騎士たち。
南の離宮に一緒に来た者たちが揃って出かけることになった。
「イルマ、大事な用なんだ。すぐに帰るから」
シェンはそう言った。
どんな用なのかと聞いても、曖昧に微笑むだけで、教えてはもらえなかった。
2、3日留守にするだけだよ。
そう言って、額に口づけたのに。
シェンは、2週間経っても離宮に戻らなかった。
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