【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
76 / 202
第二部 眼病の泉

第4話 三の王子②

しおりを挟む
 
 ◆◇◆



「ようこそおいでくださいました」

 肩までの淡い白金の髪に透き通るように白い肌。清廉な雰囲気は変わらないが、幼さは消えていた。煙るようなまつ毛の下には懐かしい瞳の色がある。
 スターディア王家の瑠璃色の宝石。シェンが失くした瞳の色だ。

「イル、とお呼びすればよろしいでしょうか?」
 美しい顔がにこやかに微笑む。
 少年特有の高めだった声は、低く落ち着いた響きになっていた。
 スターディアの第三王子ミケリアス殿下は、ただ一度の出会いを覚えていた。

「⋯⋯覚えておいででしたか」
「初めてお会いした時と同じ黄金の瞳。あれ以来、同じ色の瞳に出会ったことがありません。あの時は貴方がどなたかもわかりませんでした」
「申し訳ありません。ご挨拶もせずに失礼な真似を。しかもすぐに祖国へ帰国してしまって、名乗る機会を失いました」
 過去を思い出して恥じ入っていると、ふふ、と柔らかく微笑まれた。
「こちらこそ、あの時は侍従と間違えて大変な失礼を致しました」

 三の王子は、神殿で栽培しているという薬草を使った茶を勧めてくれた。清涼感のある香りは、爽やかな甘みがあって美味しい。
「とても美味しいです!」
 ミケリアス王子は、にっこり笑った。

「兄は、貴方が気に入るだろうと土産にその薬草茶を求めていきました。貴方を大切にされているのがよくわかりましたよ。そういえば、早速ご覧になりましたか?」
「え? このお茶のことですか?」

 ミケリアス王子は、兄とよく似た柳眉を顰めた。

「お茶? いいえ。⋯⋯ご覧になってはいないのですか? 私は勝手に、それで御挨拶にお見えになったのだと思っていました」
「⋯⋯シェンは、殿下の兄君は南の離宮に戻っておりません」
「───!!」

 三の王子が、ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
 顔色が変わっている。

「兄は私に求めた書状と茶を受け取ってすぐに、ここを発とうとしました。流石に供の者たちが気の毒だからと引き止めましたが。それでも貴方に早く会いたいからと、翌朝早々に神殿を発ちました。あの様子なら夜更けには離宮に着いたはずです」

 離宮を出た翌日に神殿に着き、一晩泊まって早朝に発った。
 シェンが言った通り、離宮を出てから遅くとも3日目には帰ってこられるはずだったのだ。

「じゃあ、シェンはどこに?」
 ぼくが衝撃を受けていると、三の王子が叫ぶ。

「ジオ!」
 王子の後ろに控えていた男が、音もなく近くに寄った。
を出せ。兄の行方を探すのだ。必要なら神兵を使うがいい」
「かしこまりました」

 男が部屋を出ると、三の王子が言った。
「兄の行方はすぐにわかるでしょう。どうか神殿にお留まりになってお待ちください」
「⋯⋯影とは?」
「神と王族に仕える者です。ご心配はいりません」

 ミケリアス王子が窓辺に歩み寄って外を見た。ぼくも王子の隣まで歩く。
  
 見つめる先には、屈強な体の男たちがいた。
 黒い服を纏った彼らは、神殿に繋がる階段の下に次々に現れる。先ほどのジオと呼ばれた男の前に跪き、あっという間に散ってゆく。

 ミケリアス王子が男たちを見る目は、冷たく昏い冬の湖を思い出させた。
 王子は瞬き一つで元の柔らかな微笑みを浮かべる。

「祝福の子である貴方に、不安な思いをさせて申し訳ありません。神殿の長として、必ずお守りします」
「守る?」
「ええ、貴方をお守りします。女神の名にかけて」

 まるでフィスタの守護騎士の誓いのような言葉に驚く。傍らのサフィードを見れば、眉一つ動かさなかった。



 翌々日。

 ぼくは、ミケリアス王子に呼ばれた。
 神殿には来客用の応接室も用意されているが、通されたのは王子の為の私室だった。
 ミケリアス王子は人払いをした。ぼくとサフィード、そしてジオのみが部屋に残る。

 穏やかな顔が一転して厳しい表情になる。

「イルマ殿下、兄たちの向かった先がわかりました」
「どこに?」
「東の果て。タブラです」

「タブラ?」
「クァランの端の町です」
 クァランは確か、スターディアの東にある砂漠だ。岩が転がった先に茶色の砂の大地が続くと聞いた。

「なぜ、砂漠に?」

 その時、バサバサと羽音がした。
 一羽の鳥が窓辺に姿を現した。素早くジオが近寄れば腕に乗る。あれは、通信の為に使う鳥だ。脚に文を入れた筒を縛り付けて空に放つ。ジオは文を見た後、主に一礼して耳元で囁いた。

 ミケリアス王子が呻くように言った。
「⋯⋯連れ去られたようです」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...