【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
83 / 202
第二部 眼病の泉

第11話 砂漠の民①

しおりを挟む
 
 目覚めた時には、神殿のベッドの上だった。

「イルマ様!!」
「⋯⋯セツ」
「よかった! 大丈夫ですか?」

 飛び起きようとして、くらりと眩暈がした。
 腹部の痛みは、ほとんどない。どちらかといえば頭が重くて体が怠かった。

「なんで⋯⋯神殿に帰ってるんだ?」
「市場を出たところでお倒れになったんですよ。イルマ様が急に走って行かれたので、サフィード様とお探ししたんです。家の影で倒れていらしてビックリしました」

「シェンは?」
「セリム殿からは、まだ何の連絡もありません」
「そうじゃなくて。ぼくの隣にシェンがいただろう?」
 セツが、ベッドの脇にしゃがみこんで、ぼくの手を取る。泣きそうな目をしていた。
「イルマ様は、お一人で倒れておられました。どうぞお気を確かに」

 白昼夢、と言う言葉が浮かぶ。

 全身黒づくめで口許しか見えなかったけれど、彼は確かにぼくの名を呼んだ。
 あの時、何と言ったんだっけ。
 押し殺したような声で『⋯⋯もう神殿に帰るんだ』と。

「イルマ様!?」
 ⋯⋯シェンは、一体どこに行こうとしていたんだろう。




 1週間経って、セリムが戻ってきた。
 シェンたちの動向が分かったと聞いて、ぼくたちは神殿の応接室に集まる。
 セリムは旅装束のままで1枚の地図を広げた。

「王子たちは確かにクァランにいた」
 セリムの指が、次々に印の付いた場所を指す。
「タブラからさらに東の村に行き、続けて他の村も訪問している」

 一呼吸おいて、セリムはまっすぐにぼくを見た。
「そして、今はタブラに戻ってきているはずだ」

「なんだって!?」
 ハートゥーンが叫ぶ。
「タブラにいるなら、砂漠よりもよほど話が早い。さらに人を増やして探し出そう!」

 ぼくは座っていた椅子から立ち上がった。その場にいた全員の視線が、ぼくに集中する。
「この間、市場でシェンを見たんだ⋯⋯」
「イルマ様!?」
「ハートゥーンが市場を案内してくれた日だ。シェンに似た人影を見かけて、すぐに追いかけた。でも、おかしいんだ。人込みの中でも目が見えるかのような動きだった。まるで、視力を失う前のような⋯⋯」

 はっとした。

「セリム!! 教えてくれ。シェンが砂漠で訪れた場所は?」

「私の故郷のザユラの村と、近くにあるアルファンの村だ」
「その二つだけ? 眼病に効くという、ラーナの泉を訪れてはいない?」
 セリムが怪訝な顔をしたが、首を振る。
「ラーナの泉は、そう簡単に行ける場所ではない」

 泉の水で、もしかしたらと思った。
 黒づくめの姿と、面影の中の銀色の瞳が揺れる。

「市場で見たのが本当にシェンかどうかわからない。一緒に行こうと言っても答えなかった。でも、確かにぼくの名を呼んだんだ。一体、何がどうなっているんだ」

 ぼくの言葉に、誰も答えなかった。



 夕方になると、ぼくは毎日、神殿の外階段に座っていた。
 暮れてゆく砂漠の太陽を見るには、ここが一番の場所だった。
 一日の熱が去り、急速に温度が下がっていく。乾いた風が砂を巻き上げながら吹き抜ける。
 黄金の太陽の色が徐々に変わっていく。

 人の気配がして振り返れば、セリムが立っていた。
 セリムは、ぼくを見て目を細める。

「そうしていると、貴方は全てが黄金の色を帯びているようだ」
 ぼくたちは夕日の輝きに照らされて、同じ色を纏っていた。
 もうすぐ太陽は、空の全てを紅に染め変えて、砂漠の果てに沈む。

 セリムは、ぼくと同じように階段に腰かけた。

「セリム、ありがとう。シェンバー王子たちの行方を辿たどってくれて」
「礼には及ばない。⋯⋯実を言えば、さして難しくもなかった。まさか、自分の村にいたとはな。久しく帰っていなかったが、おかげで母の喜ぶ顔を見られた」
 時には厳しくも見える精悍な顔立ちが、優しく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...