【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
85 / 202
第二部 眼病の泉

第13話 ラーナの泉①

しおりを挟む
 
 何日もかけて、砂の海を歩いた。
 砂漠の様子が少しずつ変わり、大地に小さな石や岩が混じる。

「おお! ラヤンの村だ!!」
 遥か前方に白く輝く岩山があった。

 岩の間に木が⋯⋯、緑がある。
 水の存在がこんなに尊いと思ったことはなかった。
 フィスタの黒の森で迷った時でさえ、水は大地に行き渡っていたのだ。

 セリムが、岩山の前に立つ見張りに村長への取次ぎを頼む。
 岩を切り出した入り口は、大人なら身を屈めて入るしかない。

 不意に、不思議な感覚が沸き起こった。
 ⋯⋯泉が、呼んでいる。
 体の中から何かが少しずつ、溢れてくる。

 ぼくは、いつのまにか走り出していた。

「イルマ様!!」
「太陽の子!」

 誰に教えられなくてもわかる。
 村の一番奥まった場所。白く輝く大岩に囲まれた中に、それはある。
 鍛え上げた体を持つ男たちが、岩に囲まれた場所を守っていた。
「おい、お前! 待て!!」
 次々に男たちがぼくを止めようと掴みかかってくる。男たちの間をすり抜けて、手近な岩に駆け上がった。

「あった⋯⋯」

 覗き込めば、白く輝く岩と岩の間の深い窪みには、一滴も水はなかった。乾いた岩の間に、暗い穴が覗くだけ。ラーナの泉が涸れたと言う噂は本当だったのだ。
 淡い幻が浮かぶ。在りし日の水を湛えた泉の姿。
 ぼくは、窪みに向かって手を掲げた。


 ──おいで。ここに。

 ⋯⋯深い地の底から伸びてくる、細い細い水の流れが見える。


 呼びかければ、懐かしい女神の気配がする。
 ぼくを包む空気が変わり、目の前で光が弾ける。


 ──そう、ここに!



 白い岩の間から、白銀に輝く水が噴き上がった。



「イルマ様!!」
 サフィードが、驚愕に動けない人々の間を縫って走ってくる。
 泉を守っていた男たちは恐れ慄き、ひたすらに地に額ずいて震えている。

 ぼくは、大岩が連なった一番上に立っていた。
 噴き上がる水を身体に受けて、両手を前に差し出す。
 体の周りを水飛沫しぶきが取り巻き、まるで光の粒がきらきらと輝いているかのようだった。

 岩に登りながら、サフィードがぼくに叫ぶ。

「イルマ様! お戻りください!!」
「サフィー。⋯⋯女神がいらっしゃる」
「イルマ様、ここはフィスタではありません。砂漠の果て、ラーナの泉です」
「うん、知ってる。泉が、もう力がないって泣いてた。だから水を呼んだ」

 ぼくが手の平を上に向けると、水はまるで喜んで踊るように、高く飛沫を飛ばす。
 岩の下に集まってきた人々から、大きな歓声が上がった。

「涸れたはずの泉に水が湧くなんて!」
「おお! まさか。女神よ⋯⋯」
 人々は次々に泉に向かって体を伏せ、額ずいていく。

「どういうことなんだ! セリム!! 何が起こっている?」
「⋯⋯俺にわかるわけがないだろう」
 セリムやハートゥーンが、人々の間からぼくたちを見つめているのが見えた。

 セツだけが真っ青になって、へたへたと、その場に座り込んでいる。
「セツ殿、大丈夫か?」
 ハートゥーンに抱えられ、がたがたと震えながらセツは言った。
「イ、イルマ様、だめです! 女神のお側にはもう、行かないで」

 サフィードが、すぐ近くまで登ってくる。
 ぼくは首を振った。

「サフィー、ぼくは女神のところにいたい」
「⋯⋯もう、お戻りください。十分お力を尽くされました」
「いやだ。もう少しここにいる」
「イルマ様⋯⋯」
「女神の許にいたら、楽しいのに⋯⋯」

 辛いことも、悲しいこともない。⋯⋯会えない日々に泣くこともない。
 サフィードが、ぼくの想いを汲み取ったかのように微笑んだ。

「イルマ様がおられなかったら、私の生きる場所はありませんが」
「⋯⋯サフィー」

 思わず小さな呟きが漏れた。

 騎士は、囁くように言った。
「ええ、お側におります。いつでも」

 ぼくの周りの白銀の光が消え、噴き上がる水は止まった。
 全身の力が抜けて、駆け寄った騎士の胸の中に倒れ込む。

 サフィードは、ぼくを腕にしっかり抱えて、ゆっくりと岩を降りた。
 
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...