【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第二部 眼病の泉

第14話 ラーナの泉②

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 ☆★☆



 客用に用意された部屋は、岩を利用して作られていた。
 砂漠の熱から守られて、ひんやりと心地よい風が吹き抜ける。
 セツにサフィード、セリムにハートゥーンが、一室で顔を突き合わせていた。
 イルマ王子は力を使い果たして昏々と眠り続けていた。

「イルマ王子は何なんだ! どうしてあんなことができる?」
 ハートゥーンの言葉に、サフィードが口を開く。
「イルマ様は、フィスタの女神の祝福を受けている。女神は元々泉を守護しておられる」
「では、あの水は女神の思し召しか?」
「少し違うと思う。泉が泣いているから水を呼んだと仰った。だが、イルマ様は水を呼ぶなんて、今までされたことがない」

 サフィードは、はっとしたように目を見開いた。

「⋯⋯シェンバー王子の為かもしれない」
「シェンバー王子の?」
「以前、シェンバー王子は女神の怒りを買って視力を失くされた。イルマ様は、それ以来ずっと、王子の目になろうと努力されている」

 セリムが眉を寄せた。
「ラーナの泉が涸れているかもと言ったら、なおさら来たいと言っていたな」

「希望を失くしたくなかったのだと思います。でも、今日のお姿は、まるで以前の湖でのお姿のようでした。イルマ様⋯⋯」
 セツが、大きな瞳に涙をためたかと思うと、ぼろぼろと涙をこぼす。
「ちょ! 泣かないでくださいよ、セツ殿!! 美人に泣かれると困るって! あああ」
 あわてふためくハートゥーンは、必死でセツを慰めていた。

 表では、興奮した人々でさながら祭りのような騒ぎだった。

「⋯⋯サフィーは、ずっと一緒に居てくれる?」
 主のぽつりと呟いた言葉を思い出して、騎士はぐっと奥歯を噛む。
 力尽きて眠る王子の側に跪き、力づけるようにそっと手を握った。



 ☆★☆



 ぼくが目を覚ました時、村は大騒ぎになっていた。
 村長たちは涙を流しているし、まるでぼく自身が神かのようにひれ伏して崇めようとする。

 泉に向かうと、ぼくに気づいた村人たちに次々に跪かれた。
 戸惑っているとセリムがやってきた。

「もう大丈夫なのか、王子」
「うん、ぐっすり寝たから平気だよ。泉の様子を見たいと思って」

 岩に駆け上がると、涸れていた泉には滾々こんこんと清水が湧いていた。
 触れれば女神の息吹と加護があるのがわかる。この泉ならば人々の病を癒すことができるだろう。

「よかった。ラーナの泉は大丈夫だ。これからも人々の病を治せると思う」
「イルマ王子。貴方が女神に加護を頼んでくれたのか?」
「ぼくは水を呼んだだけだ。女神はいつだって愛情深い」
 女神を思えば幸せな気持ちが溢れて、自然に笑みが浮かぶ。セリムは眩しそうにぼくを見た。
「貴方と女神に、心からの感謝を」

 次の日から毎日、ぼくは朝と晩に泉に祈りを捧げた。
 泉の水はだんだん白銀の光を帯びて、周りの岩々も同じように輝き始める。

 村人の一人が、おずおずと幼い娘を連れてきた。
「この子に、泉の水を与えてはいただけませんか」
 誤って岩から落ちて片目を傷つけたために、もう片方の瞳も見えなくなってきているという。
 毎日、様子を見ながら、両目に少しずつ泉の水を垂らした。
 3日経った頃から様子に変化が見え、7日目には娘は父母の顔を見分けた。

「太陽の子よ。なんと御礼を申し上げたらいいか⋯⋯」
 村長と、むせび泣く両親を前に、小さな子どもがぼくに抱き付いてきた。
「ありあと!」
 輝く笑顔と頬をくすぐる温もりが、心に勇気と希望を灯す。
 ⋯⋯シェンに会えた時に、この泉の水を渡せたら。
 そう思うと心が苦しくも温かくなった。



 明日はタブラに戻るという夜だった。
 どこか寝付かれず、真夜中に目を覚ました。

 村は静まり返っている。でも、何かがおかしかった。

 そっと窓から外を見れば、黒い影が幾つか動いている。
 背中に冷たいものが走った。
 ──盗賊だろうか。どくん、どくんと胸が鳴る。

 影は泉に向かっていた。
 もしかして、泉の水が豊富にあると噂が広まったのかもしれない。

 ぼくは、ひっそりと部屋を出た。
 
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