88 / 202
第二部 眼病の泉
第16話 逢瀬② ※
しおりを挟む
「落ち着いた?」
ぼくたちは、木の根元に座り込んでいた。
シェンは、自分の背中を木の幹に預け、ぼくを抱きしめていた。ぐすぐすと泣くたびに、背中を優しく撫でられる。
膝の上に抱きかかえられたまま、ぼくは瞼が開けられない。泣きすぎて目が腫れているせいだ。体からは、すっかり力が抜けていた。それなのに、右手だけはずっとシェンの服を握っている。
この手を離したら、またいなくなってしまう。そんな気がして、とても離すことなどできなかった。
首筋にすり寄ると、シェンが黙り込む。
何かとまどっているようだったけど、構わずにぴたりと体を寄せた。
「イルマ。久しぶりすぎて、ちょっと⋯⋯」
呟きながら、ぼくの頭に口づけがひとつ落ちてくる。
「もう、夜も更けた。眠った方がいい」
「シェンと寝る」
「⋯⋯イルマ?」
「今夜はシェンと寝る。⋯⋯話は、明日聞く」
ぼくは、腫れあがった瞼を擦りながら立ち上がった。
水泥棒の騒ぎで、村の男たちは長の家に行ったようだった。
長の家の周りだけ灯火がついて、ざわざわと空気が揺れている。
ぼくたちに用意された客室は、村長の家からは遠い。
シェンに腕を掴んでもらい、黙って自分に与えられた部屋に連れていく。
勝手に決めたぼくに、シェンは何も言わずについてきてくれた。
誰にも見咎められないのをいいことに、自分の寝室にシェンを誘う。
寝台として床に動物の皮が何枚も積まれ、その上に厚みのある織物がかけられている。
「ねえ、イルマ」
寝台に一緒に寝転んで、必死で抱きついた。
見上げると、目を閉じてシェンは一つため息をついた。呆れているのかもしれない。
長く揃ったまつ毛がきれいだ。でも、会わない間に中性的な美しさは影を潜め、ぐっと男らしくなった気がする。
「寝た方がいい」
「うん」
「でも、困ってる⋯⋯」
「⋯⋯?」
「嬉しくて、⋯⋯死にそうなんだ」
そう言った途端に、息が出来なくなるほど強く抱きしめられた。
名前を呼ぼうとすれば、唇を塞がれて熱い舌が口腔に入ってくる。
舌が絡められる感覚があまりに久しぶりすぎて、カッと頭の中が熱くなった。
「⋯⋯! ん! ⋯⋯っ!!」
口中をくまなく舐められ、背中に甘く痺れるような感覚が突き抜けていく。
同じように舌を絡めようとしても、シェンの激しい動きに為すすべもなかった。
乾いた唇が、頬から顎、首へと少しずつ口づけを降らせていく。鎖骨を這う舌が時折、肌を吸い上げた。小さな痛みが走る。
「⋯⋯っ! シェ⋯⋯!」
体がずり上がりそうになるのを許さないと言うように、絡めた指ごと強く寝台に押しつけられた。鎖骨から肩へ。舐められては吸われ、小さな痛みが続く。
肌の上には、幾つもの赤い花が散っているだろう。
ぼくが震えているのに気が付いたのか、シェンは力を緩めた。
そっと触れるだけの優しい口づけの後に、起き上がって、自ら服を脱いでいく。
小さな窓から入る月のわずかな光に、鍛えられた上半身が露になった。
浮き上がる輪郭と流れる髪。均整の取れた身体は、しなやかな獣を思い出す。
触れられた場所が甘く痺れているのに、目の前の姿を頭のどこかできれいだと思う。
「イルマ、何を考えてる⋯⋯?」
シェンが、額にかかった髪をそっとつまんで横に流してくれる。
「⋯⋯シェンのこと。⋯⋯シェンのことばっかり」
「いい子」
妖艶な微笑みが浮かび、シェンの手が、ぼくの服にかかった。はだけたシャツの釦を、確かめるようにまさぐる。釦が外され、するりと上半身が曝された。
「⋯⋯え? シェン?」
記憶にあるよりずっと滑らかな動作に目を瞠る。
シェンの節くれだった指が胸を弄った。親指と人差し指でくり、と突起を摘まんで弄られれば、ピクリと体が揺れた。
「⋯⋯ン! あ、だめ」
「ここ、忘れてなかったんだね」
もう片方も舌先で舐められ、軽く歯を立てられた。小さな乳首を執拗に弄られて腰が揺れる。
「やっ、あ、あ!」
胸で感じるようになったのは、シェンが何度も弄ったからだ。少しずつ少しずつ、体を開かれるたびに触れられた場所。ちゅ、と吸われて思わず自分の指を噛んで快感を耐えた。シェンがそれに気づいて、手首を掴む。
「噛んじゃだめ。声、出して」
「⋯⋯や、だ。聞こ⋯⋯える、から」
砂漠の家の窓は、開いたままだ。嬌声を上げたら聞こえてしまう。
そう思ったら、恥ずかしさで体が震えた。
ぼくたちは、木の根元に座り込んでいた。
シェンは、自分の背中を木の幹に預け、ぼくを抱きしめていた。ぐすぐすと泣くたびに、背中を優しく撫でられる。
膝の上に抱きかかえられたまま、ぼくは瞼が開けられない。泣きすぎて目が腫れているせいだ。体からは、すっかり力が抜けていた。それなのに、右手だけはずっとシェンの服を握っている。
この手を離したら、またいなくなってしまう。そんな気がして、とても離すことなどできなかった。
首筋にすり寄ると、シェンが黙り込む。
何かとまどっているようだったけど、構わずにぴたりと体を寄せた。
「イルマ。久しぶりすぎて、ちょっと⋯⋯」
呟きながら、ぼくの頭に口づけがひとつ落ちてくる。
「もう、夜も更けた。眠った方がいい」
「シェンと寝る」
「⋯⋯イルマ?」
「今夜はシェンと寝る。⋯⋯話は、明日聞く」
ぼくは、腫れあがった瞼を擦りながら立ち上がった。
水泥棒の騒ぎで、村の男たちは長の家に行ったようだった。
長の家の周りだけ灯火がついて、ざわざわと空気が揺れている。
ぼくたちに用意された客室は、村長の家からは遠い。
シェンに腕を掴んでもらい、黙って自分に与えられた部屋に連れていく。
勝手に決めたぼくに、シェンは何も言わずについてきてくれた。
誰にも見咎められないのをいいことに、自分の寝室にシェンを誘う。
寝台として床に動物の皮が何枚も積まれ、その上に厚みのある織物がかけられている。
「ねえ、イルマ」
寝台に一緒に寝転んで、必死で抱きついた。
見上げると、目を閉じてシェンは一つため息をついた。呆れているのかもしれない。
長く揃ったまつ毛がきれいだ。でも、会わない間に中性的な美しさは影を潜め、ぐっと男らしくなった気がする。
「寝た方がいい」
「うん」
「でも、困ってる⋯⋯」
「⋯⋯?」
「嬉しくて、⋯⋯死にそうなんだ」
そう言った途端に、息が出来なくなるほど強く抱きしめられた。
名前を呼ぼうとすれば、唇を塞がれて熱い舌が口腔に入ってくる。
舌が絡められる感覚があまりに久しぶりすぎて、カッと頭の中が熱くなった。
「⋯⋯! ん! ⋯⋯っ!!」
口中をくまなく舐められ、背中に甘く痺れるような感覚が突き抜けていく。
同じように舌を絡めようとしても、シェンの激しい動きに為すすべもなかった。
乾いた唇が、頬から顎、首へと少しずつ口づけを降らせていく。鎖骨を這う舌が時折、肌を吸い上げた。小さな痛みが走る。
「⋯⋯っ! シェ⋯⋯!」
体がずり上がりそうになるのを許さないと言うように、絡めた指ごと強く寝台に押しつけられた。鎖骨から肩へ。舐められては吸われ、小さな痛みが続く。
肌の上には、幾つもの赤い花が散っているだろう。
ぼくが震えているのに気が付いたのか、シェンは力を緩めた。
そっと触れるだけの優しい口づけの後に、起き上がって、自ら服を脱いでいく。
小さな窓から入る月のわずかな光に、鍛えられた上半身が露になった。
浮き上がる輪郭と流れる髪。均整の取れた身体は、しなやかな獣を思い出す。
触れられた場所が甘く痺れているのに、目の前の姿を頭のどこかできれいだと思う。
「イルマ、何を考えてる⋯⋯?」
シェンが、額にかかった髪をそっとつまんで横に流してくれる。
「⋯⋯シェンのこと。⋯⋯シェンのことばっかり」
「いい子」
妖艶な微笑みが浮かび、シェンの手が、ぼくの服にかかった。はだけたシャツの釦を、確かめるようにまさぐる。釦が外され、するりと上半身が曝された。
「⋯⋯え? シェン?」
記憶にあるよりずっと滑らかな動作に目を瞠る。
シェンの節くれだった指が胸を弄った。親指と人差し指でくり、と突起を摘まんで弄られれば、ピクリと体が揺れた。
「⋯⋯ン! あ、だめ」
「ここ、忘れてなかったんだね」
もう片方も舌先で舐められ、軽く歯を立てられた。小さな乳首を執拗に弄られて腰が揺れる。
「やっ、あ、あ!」
胸で感じるようになったのは、シェンが何度も弄ったからだ。少しずつ少しずつ、体を開かれるたびに触れられた場所。ちゅ、と吸われて思わず自分の指を噛んで快感を耐えた。シェンがそれに気づいて、手首を掴む。
「噛んじゃだめ。声、出して」
「⋯⋯や、だ。聞こ⋯⋯える、から」
砂漠の家の窓は、開いたままだ。嬌声を上げたら聞こえてしまう。
そう思ったら、恥ずかしさで体が震えた。
72
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」
星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。
ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。
番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。
あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、
平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。
そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。
――何でいまさら。オメガだった、なんて。
オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。
2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。
どうして、いまさら。
すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。
ハピエン確定です。(全10話)
2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです!
名前が * ゆるゆ になりました。
これからもどうぞよろしくお願い致します!
表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜
MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。
竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。
※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる