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第二部 眼病の泉
第22話 決着②
しおりを挟む『殿下、もう刻限です。お早く!』
⋯⋯ああ。だから急いでいたのか。
「あの時一緒にいたのは、レイだったの?」
部屋の端に控えていたレイが頷く。
「話し合いに何日もかかってしまって焦りました。終わってすぐに神殿に向かったんですよ。でも、もう殿下たちはいらっしゃらなくて」
全く思いもしなかった事ばかりだ。
「ラーナの泉に来るのが一番大変だった。ザユラの村にもう一度行って案内人をつけてもらうまでに、さらに日数がかかった」
⋯⋯会いたい気持ちは同じなのに、なんてすれ違ってしまったのだろう。
誰からともなく広間には大きなため息が漏れた。
シェンは、もう一度セリムに向かい合った。
「ザユラの子よ。父君だけでなく貴方のご厚情にも、あらためて深く感謝する。今後も末永く親交を結びたい」
「もちろんだ。太陽の子さえよければ、我が部族にいつでも迎えたいと思っていた」
セリムがさらりと告げた一言に、場の空気が凍りつく。
シェンが氷のような瞳でセリムを見た。
「この上ない親愛と受け取っておこう。だが、彼は私の大切な人だ。砂漠の風にいつまでも当ててはおけない」
「⋯⋯以前、イルマ王子が結婚していると言っていたが、相手はやはり貴方だったんだな」
セリムの言葉に、ぼくは息が止まりそうになった。
──確かに、言った。言ったよ!でも、まさか今になって!!
シェンの視線を痛いほど感じる。
目の端に映ったレイと近衛たちが、目を丸くして固まっているのも見えた。
ああ⋯⋯。もう、どうしよう。
頭がぐるぐるしていると、シェンに力強く引き寄せられた。ぴたりと体が触れ合う。
「離宮で養生中だったので、公にはしていなかった。私の瞳が治り次第、式を挙げようと思っている。ぜひ、参列してもらいたい」
「⋯⋯承った。父と相談させていただこう」
⋯⋯しき?式って???
呆然としている間に、二人は笑顔で握手を交わしていた。
「ああ! やっぱり、そうだったんですね。あんなに必死で探してらっしゃるから、もしかしてとは思っていたんですよ。大事な伴侶なら探しに来たくもなるでしょう。お立場もあることですし、セツ殿も口止めされていたのですね?」
「えっと。まあ、んー。そうですね」
セツの歯切れの悪い声が聞こえて、なんとも申し訳ない気持ちになる。
⋯⋯ごめん、セツ。何とかしておいて。
ぼくは一人で頭を冷やしたくなって、外に向かった。
シェンと、どう顔を合わせていいかわからない。あんなこと、言ったのも忘れてたよ。
ラーナの泉の岩がきらきらと陽光に輝いているのを見て、自然に足が向かった。
泉を守るラヤンの民たちも、ぼくを見れば笑顔で通してくれる。
岩を上れば澄んだ水が滾々と湧いていた。銀色の光を宿す水がぴちゃんと跳ねる。泉に精霊がいるのなら、きっと挨拶してくれているのだろう。
ぼくは、水の中に女神の気配や加護がある事しかわからない。ただ、この泉には誰かが慰めてくれるような、そんな優しさを感じた。
「ありがとう⋯⋯。慰めてくれてるんだね」
泉の奥で何かが静かに煌めく。澄んだ輝きを見ていたら、少しずつ心が落ち着いてきた。
しゃがみこんでいると、頭の上に影が差す。陽射しが遮られた先を見上げれば、黄金の光が波打っていた。
思わずうつむいてしまう。
「シェン⋯⋯。あの、あのね、さっきの話だけど。勝手なことを言ってごめん。あの時は、売り言葉に買い言葉って言うか。セリムが妻にならないか、なんて言うからつい言い返しちゃったんだ」
「⋯⋯妻?」
地を這うような声が返ってきた。
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