【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
95 / 202
第二部 眼病の泉

第23話 言祝(ことほぎ)①

しおりを挟む
 
 シェンは後ろからぼくを抱きこんで、ぴったりと体を寄せた。
 ぞっとするほど低い声が響く。
「ねえ、イルマ。『妻』って、どういうこと?」

 思わず口を押さえた。
 今、絶対に余計なことを言ったんだと思う。
 ちらりと目を走らせたら、恋人は冷気をまとわりつかせている。
 美人が怒ると怖いって聞いたけど、男でも女でも同じだ。

「セ、セリムの冗談だと思う!!」
「⋯⋯砂漠の男はね、軽々しい冗談は言わないんだよ」
 珍しく苛々した口調で言うシェンに、ぼくはごくりと唾を飲みこんだ。

「瞳の色を見て言われただけだよ。ほら、幸運の象徴だっけ?」
「⋯⋯他にも何か言われてない?」
「ほかに?」
 ふと、神殿でセリムがぼくの手を取って囁いた言葉が頭に浮かぶ。
「たしか⋯⋯“貴方のいるところに、我らは共にある”」
「──衷心ちゅうしんの誓いだ」

 その瞬間、冷気が吹雪になった。

「イルマ、こっちを見て」

 くるりと体の向きを変えられた。
 膝を揃えて座り込んだまま、シェンに向き合う形になる。
 シェンが眉を顰めながら、ゆっくりとぼくに話しかける。まるで子どもに言い聞かせるようだ。

「イルマは時々、無防備すぎる。本当はクァランに来てほしくなかったんだ。ここはイルマには危険な場所だから、ずっと心配だった」

 砂漠の民は、自分が心を捧げた者にのみ大事な言葉を告げる。セリムが言ったのは、彼らが敬愛する太陽の神に捧げる言葉だった。
「衷心の誓いを告げるのは、愛の告白と一緒だよ」
 シェンは不機嫌な顔で言った。

 じわじわと涙が出そうになるのを必死でこらえた。

 砂漠の民の誓いも、砂漠に来る危険も、知らないことばかりだ。シェンにはたくさん心配をかけた。だけど⋯⋯、例え危険が分かっていたとしても、離宮でじっと待つことはできなかったと思う。

 すらりと長い腕が伸びてきて、シェンは、ぼくをぎゅっと抱きしめた。
「⋯⋯ザユラの子になんか、渡さない」
 体をすっぽりと包まれながら、どきんと胸が鳴った。流れる髪がさらさらと頬を撫でる。

 シェンが一つ、大きくため息をついた。
「イルマは悪くないってわかってる。勝手に心配して我が儘を言ってるのは、私なんだ。⋯⋯結婚の言葉、嬉しかったのに」
「嬉しいって。シェンは、ぼくの言葉に怒ってないの?」
「怒る? どうして? ⋯⋯まさか、イルマは私以外を結婚相手に考えたのか?」

「なんで?」
 思わずシェンに向かって叫んだ。

「ぼくはシェンの目になるって言ったんだよ! なんで他の人と結婚するの? シェンとしか結婚しないよ!!」

 シェンの瞳が大きく見開かれたかと思うと、ぱちぱちと瞬いた。長いまつ毛が上下して、青い瞳の中で何かが揺れる。シェンは瞼を一度ぎゅっと閉じて、息を吐いた。
 そして、見たこともないほど優しい微笑を浮かべた。

「すごく熱烈な愛の告白をされたような気がする」

 ⋯⋯もしかして、ぼくは今、ものすごいことを言ったんじゃないだろうか。
 顔が、どんどん熱くなる。今度こそ膝を抱えてうずくまった。

「イルマ。ねえ、イルマ。顔を見せて」
「⋯⋯無理です」

 とてもじゃないけど、顔なんか上げられるわけがない。
 シェンの手がぼくの髪を何度も優しく撫でる。辛抱強く囁きかけてくれる。

「イルマの言葉がとても嬉しい。本当は、ずっと言いたかったんだ」
「⋯⋯何を?」
「顔を見せてくれたら、教える」

 少し悩んだけれど、そっと目だけ上げてみる。柔らかな微笑みが飛び込んできた。
 目と目が合って、額に優しい口づけが降ってくる。シェンの大きな手が、ぼくの両頬を包みこんだ。

「フィスタの至宝。イルマ殿下」
「それ言われるの、たぶん3度目だと思うんだけど。ぼくは、そんなすごいものじゃないから」
「私には、ずっと昔から二つとない宝だよ」
 シェンが笑いながら、鼻をこつんとぶつけてくる。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...