【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第4話 贈り物探し②

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 翌朝。

 小柄な青年が二人、長身の騎士が二人、ガゥイの町にいた。
 青年たちは丈の短いズボンにシャツを身に着け、小さな鞄を肩からかけている。
 すぐそばに立つのは帯剣してはいるものの、軽装の騎士たちだ。

 ガゥイの町の朝は早い。
 町の中央の店が開店の準備を始める頃、市場では既にたくさんの品が手際よく並べられ、朝一番の仕入れ客を迎えていた。
 品物が次々に卸され、活気にあふれた声が響き渡っている。

 市場の隣には、屋台がずらりと連なっていた。
 食べ物の香ばしい香りが辺りに漂っている。朝食を求める人々が、早くも目当ての店の前に列を成す。

 香辛料をたっぷり振った肉の串焼き、粥に棒状の揚げパン、薄パンに野菜や肉を挟んだもの、ふかしたての卵色の蒸しパン。香味野菜の入ったスープに細い麺をいれたもの。大きな葉に包んで蒸しあげた木の実入りの穀物。

 次々に大きな鍋や蒸籠から出された食べ物が切り分けられ、店先に出されていく。

「わー! 美味しそうなものがたくさん並んでる!!」
「朝早くから働く人々の胃袋を賄っているんだ」
「どれが美味しいのかな。たくさんあって⋯⋯」
「おいで、イルマ。一緒に見よう」

 シェンバーは、イルマに手を差し出した。
 イルマは一瞬目を大きく見開いて、すぐに手を握り返す。

「どうした?」
「⋯⋯え、うん。あの、来て、よかったなって」
 イルマの小さな呟きに、シェンバーはくすりと笑った。

 屋台の連なる場所は、人も多く掛け声が飛び交っている。

 シェンバーに手を引かれて、イルマは次々に店をのぞいた。少し離れて後ろから、セツとサフィードが付いてくる。

「らっしゃい! とれたばかりだよ。今年のは特別上物じょうものだ。さあさあ、買った買った!」
 店先に色鮮やかな果物を積んだ店は、次々に目の前で切り分けて、通路を歩く客に差し出す。

 興味津々のイルマの手に、味見用の一切れが渡される。かぷりと食べれば、瑞々しい甘さが口内に広がった。
 同じように口にするシェンバーが、やたらと絵になるのはなぜだろう。
 果物をかじる口元が色っぽく見える。ついつい目がいってしまう自分に、イルマはぶんぶんと首を振った。

「シェン、これ、すごく甘い!」
「チャルは、暑い地方の特産品だ。今年は豊作だな」
 小ぶりな球形の薄緑の果物が店先に山と積まれていた。これと指させば目の前で切って、大きな葉を皿のように曲げたものに入れて渡してくれる。

「ありがとう! すごく美味しい!!」
「嬉しいねえ、これも食べとくれ」
 店主はチャル以外の果物をいくつも添えてくれた。

「さあ、ガゥイに来たらこれを食べないと! ガゥイ名物はこちら!!」
 威勢のいい掛け声と共に、一際大きな鉄板の上でじゅうじゅうと焼きあがったのは平たいパンのような食べ物だ。
 多めの油の上に溶かれた粉が落とされ、挽肉と香味野菜が刻まれた餡、小さな卵が割り落とされる。次々に裏返しにして焼き上げれば、最後は辛いたれをかける。

「それを4つ」
「へい! まいど!!」
 湯気が立つ焼きたてを、やはり植物の葉に入れて渡される。
「あれ、数が多い」
「おまけしときましたよ!」
 渡してくれた屋台の男がにっこり笑って言った。

「ガゥイの屋台って、みんな気前がいいんだねぇ」
「⋯⋯イルマ、それはちょっと違う」
「ん?」
 シェンバーが口を開いた時だ。
 

「ありがとう! もう、これで十分!!」
 セツの大声が聞こえた。
 二人が振り返ると、セツはサフィードと共に両手いっぱいに食べ物を抱えている。

「お嬢さん、そんな細腕じゃあ重いだろう? よかったら俺が運ぶよ」
「うちの屋台のものも食べてみないか? あんたなら特別に安くしとく」

 セツは男たちに声をかけられて進めなくなり、サフィードは反対側から娘たちに話しかけられていた。

「イルマ様!」
 セツがイルマ王子を見つけて叫んだ途端、人々の目がこちらに向く。
 男たちはぎょっとしたように目を見開き、娘たちは口元に手を当てた。そして、セツとサフィードの周りからはさっと人がよけ、道が出来た。
   
 危うい足取りで二人がイルマたちの元にたどり着いた時。
 既に朝だけでは食べきれない量の食べ物があった。


「⋯⋯すごい! どれも美味しそうだけど、こんなにたくさん食べられないよ。まるで食料を手に入れに来たみたいだ」
「旅をしていた時の方がずっと、貧相な食事でしたね⋯⋯」

 数種類の果物に、揚げ焼きパン。鳥の串焼きに卵色の蒸しパン。木の実と豆が入った餅、砂糖をまぶした菓子などが目の前に並んでいる。

 市場の端には、木々の間に陽射し除けの布が張り巡らされている。人々がその下に薄地の織物を敷いて座り、休憩する場所だ。
 4人は食べ物を前に、輪になって座っていた。

「最初はセツが買ったものを持っていただけだったのですが⋯⋯」
「次々におまけがついてくるんですよ! びっくりするぐらい!」
 サフィードが困惑し、セツの柳眉が跳ね上がる。

「南の民は、開放的で豪快だ。気に入った者には気前がいい」
 シェンバーが頷き、イルマは心の中で首を傾げた。
 ──あれ? じゃあ何でシェンはさっき、少し違うって言ったんだろう。
 その時、元気よくお腹が鳴った。

「ああ、まずは食事が先! 折角だから食べよう」
 イルマの言葉に、一斉に食事が始まった。
「美味しい! たくさんあるからレイや離宮の皆へのお土産になるね」

 恨めしそうなレイの顔が一瞬、セツの頭をよぎる。
 出入りの商人たちがやって来る日だった為に、離宮に残る者が必要だったのだ。

「セツ? セツがお土産を持って帰れば、何でもレイは喜ぶと思うよ」
「そ、そんなことはどうでも⋯⋯ぐッ」
 いきなりパンを詰まらせたセツの背中を、イルマが慌ててさすった。
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