【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
103 / 202
第三部 父と子

第3話 贈り物探し①

しおりを挟む

「⋯⋯父に、贈り物?」

 イルマを抱きしめながら、シェンバーは考えこんでいた。
 腕の中から一生懸命抜け出そうと動いている生き物を、さらに強く引き寄せる。

 ちっとも離してくれないので、仕方なくイルマは向きを変えた。広い胸に自分の背中をつける。おさまりのいいところを見つけて、シェンバーの言葉を待った。

「毎年、父の日に贈り物はしていたはずだが、侍従任せだった。何を贈っていたのかも知らない。たぶん、侍従は報告に来ていたはずだが、関心がなかった⋯⋯」

 シェンバーは、ゆっくりと思い返していた。

 ──スターディアにあるのは、フィスタのように揃って両親に感謝する日ではなく、父と母とそれぞれに分かれて感謝を告げる日だ。
 肝心の父が関心を示さず、母もそれに倣ったために、王宮では特に何も行われなかった。父母や兄弟と顔を合わせて宴を催した覚えもなく、慣例的に贈り物をする。ただそれだけの日でしかない。

 イルマのように、自分で何か作ったものを贈るだなんて考えたこともない。いや、子どもの時には⋯⋯あったのだろうか。

 いくら考えても何も思い浮かばないことに、シェンバーは改めて驚いた。

「シェン。ねえ⋯⋯、シェン?」
「ん?」
 腕の中のイルマの頬を、ふにふにと触る。あごにふわふわと触れる髪も心地が良かった。

「んんん⋯⋯! しゃべり⋯⋯づら」
 イルマが、ぼそぼそと文句を言うところも可愛いなと思う。
 ふふ、と思わず微笑みが口の端に浮かぶ。
 頬をいじっていた手を取って、イルマが言う。

「じゃあ、今年はシェンが選んで何か贈ってみたらいいよ。国王陛下のお好きなものは何?」
「父の⋯⋯好きなもの?」
 思わず目を見開いた。

「そう! 食べ物とか⋯⋯趣味とか。陛下は何がお好きなの?」

 ──父の好み?
 怪訝な顔をするイルマに、戸惑いながらシェンバーは言った。

「私は⋯⋯父のことがよくわからない。父は政務に忙しくて、幼い頃から共に過ごすことは、ほとんどなかった」

 ──物心ついた時から見てきたのは、父の背中ばかりだった。

 子どもと一緒に過ごすどころか、王妃や側室と過ごす姿もろくに見たことがない。父はいつも重臣に囲まれ、政務や会議に明け暮れていた。

 大国の王なのだからと当たり前のように思っていたけれど、本当にそうだったのだろうか。
 ⋯⋯父はいつも、何かから逃げるようではなかったか。

「そうなんだ⋯⋯」

 腕の中で黙りこむイルマに、シェンバーは不安になった。
 親子の仲がいいフィスタの王族から見たら、自分はさぞ薄情に見えることだろう。
 誰に何を思われても良かったが、イルマにもそう思われるのは⋯⋯寂しい。
 そんな感情を、自分が持つようになったことも不思議だった。

「イルマ、私は⋯⋯」
 過去は変えられないのに、自分は今更、何を言おうとしているのだろう。

「よし! シェン!! 町に行こう」
「えっ?」 

「陛下の好みがわからないなら、シェンが贈りたいものを贈ればいいよ!」 
 イルマは、にっこり笑った。

「シェンは前に、ぼくに花のお茶を贈ってくれた。あれは、ぼくが好きそうだと思ったから。そして、シェンも好きだったんでしょう?」
「⋯⋯ああ、そうだ。確かミケリアスに勧められたんだ。神殿には茶がよく寄進されるからと分けてくれた。香り高くて美味しいからイルマもきっと、気に入ると思って」 

 イルマは、頷きながらシェンバーの手を取った。
「探しに行こうよ。二人で!」

 イルマの黄金色の瞳が、楽し気にきらきらと輝く。
 シェンバーは、吸いこまれるようにその輝きを見つめた。


「買い物に行くならガゥイがよろしいかと。店も多いですし、市場がありますよ。異国からの品も多くて面白いものを置いているそうです」
「市場? じゃあ、ガゥイにしよう!」

 茶を運んできてくれたセツの助言で、行く先は決まった。

「朝早くから始まるんだって! ねえ、シェン、早起きして出かけない?」
「イルマがそうしたいなら」 

「ありがとう!」
 イルマの顔がぱっと明るくなる。
「市場ってわくわくする。どんなものがあるのかな」
 イルマはまるで、自分のことのように嬉しそうだった。

 南の離宮から馬車で一刻。ガゥイは大きな町だ。町の中にはたくさんの店があり、外れには市場と屋台が立ち並ぶ。

 シェンバーは思う。
 町や人々の様子を見るために、内密に訪れたことはあっても、特に買い物をしたいと思ったことはなかった。必要なら出入りの商人たちを呼びつければいいし、元々、自分から何か特に欲しいと思ったこともない。
 ⋯⋯たった一つを除いて。

「明日が、楽しみだな」
「うん!」
  シェンバーがふわふわした髪に手を伸ばせば、黄金の瞳が楽し気に瞬いた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...