【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第2話 感謝の日②

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 ☆★☆


「おかしいな」
「おかしいですわよ」
 アレイド王太子とサリア王女がぶつぶつ呟いている。

「⋯⋯なぜ、感謝の日は親だけが対象なんだ」
「本当ですわ。いつからあったんですの、この行事」
「私が生まれる前からあったことは事実だ」
「⋯⋯そろそろ内容を変えても、よろしいんじゃないかしら?」

 熱心に話し込む長兄と姉を見ながら、弟王子は呟いた。
「⋯⋯様々な国を旅していますとね、思うことがあるんですよ。うちはちょっと、家族愛が重すぎなんじゃないかと」
「何だ、ラウド。悟ったことを言うじゃないか」

 隣にいるヨノル王子は、葡萄酒を飲みながら、すっかりいい機嫌になっていた。苦り切った顔のラウド王子の杯に、どぼどぼと酒を注ぐ。
「悟りたくもなりますよ⋯⋯。なんですか、あれは」

 玉座を見れば、贈り物を手に、泣き出さんばかりの両親の姿が目に入る。
「感謝の日だからな」
 うんうんと頷く次兄の瞳も潤んでいる。ラウドは思わず、目の前の酒をあおった。



 フィスタの王宮では、晩餐の間に王子たちと王女が集まっていた。
 手に手に国王と王妃への贈り物を掲げ、順番に感謝の言葉を捧げていく。第四子であるラウドが父母への感謝を告げて、席に着いた。その時までは、絵に描いたように和やかだったのだ。

 侍従長が恭しく頭を垂れ、一堂に告げるまでは。
「では、最後にスターディアにおいでのイルマ王子からの贈り物にございます」

 和やかだった空気が一変した。
 がたっと椅子から立ち上がろうとしたアレイド王太子を抑えたのは、第二王子のヨノルだった。

 王妃の晴れやかな声が、部屋に響く。
「まあ、わざわざスターディアから? 何かしら、ねえ、陛下?」
「⋯⋯あ、ああ、そうなのか。イルマから」
 それまで威厳に溢れていた国王の顔が、あっという間にほころんだ。

 侍従長の後ろから、次々に侍従たちが布の上に広げた贈り物を掲げる。
 一つ一つを見て頷いていた二人は、揃いの腕輪に、にっこりと微笑んだ。

「⋯⋯なんて綺麗なのでしょう。私たちの瞳の色ですわ」
「其方によく似合うことだろうな」
「⋯⋯まあ、陛下こそ」
 二人は早速、お互いの腕輪を手に取った。
 腕に着け、満足げに目を見合わせて笑ったところに、侍従長の言葉が響く。

「こちらは、イルマ王子がお手ずから刺繍なさった品々にございます」

 三人の兄姉が一斉に立ち上がったのを見て、ラウドは呻いた。
 玉座の父母は、それぞれへの贈り物を、言葉もなく見つめている。

 王妃への贈り物には、南国の花々が見事に写し取られて咲き誇っていた。細やかで丁寧な針目は美しく、ほれぼれする様な出来栄えだった。

「⋯⋯イルマは、腕をあげましたこと。ご覧になって、陛下。この中の一枚は、毎日眺められるように部屋に飾りますわ。残りは大切に使います」
「ああ、私は今宵から、この枕で眠ることにしよう」
「きっと、よくお眠りになれますわね」

 国王が手にした枕は程よく重く、大振りだった。水鳥の羽がたくさん詰め込まれているのだろう。柔らかくも弾力がある。四方には、女神を象った白銀の鳥と波が、これまた丁寧に縫い込まれていた。

 イルマからの手紙には、スターディアで元気に過ごしている様子が書かれていた。
「⋯⋯お二人に、女神の多大なご加護がありますように」

 王妃は、最後の言葉を声に出して読んだ。
 末の王子の声がここまで届くような気がして、国王夫妻は涙ぐんだ。



「⋯⋯私が国王になったら、感謝の日は、家族全てに感謝する日にしようと思うのだが」
「名案ですわ! アレイド兄さまにしては素晴らしい思いつき! 時間がかかりそうなのが難点ですけれど、悪くありませんわ!」
「ふふふ。やはりそうか。父上に言っても、あの調子では聞き入れていただけそうにないからな」

 ラウドは、盛り上がっている兄姉の会話にため息しか出ない。
 ──自分たちは、必ず感謝の対象になると思っているのだろうか。
 末弟は察しがいいので、全員に贈り物を寄こしそうな気もするが。

 侍従の一人がそっと、近くにやってきた。
「イルマ殿下から、ラウド殿下にと」

 ラウドが細い包みを開けると、美しい横笛が入っていた。細工も造りもしっかりしている。
 旅の途中では音楽が友になる。いたずらに笛を吹くようになったと、いつ自分は弟に話したのだろうか。首をひねっても、少しも思い出せなかった。
 目を上げると、兄姉はそれぞれに黙り込んで、手元の包みを見つめている。

 ──今度旅に出る時は、まずはスターディアに行こう。

 羽枕を手に、嬉しそうな父。もらったばかりの手巾で嬉し涙を拭きそうになって、慌てている母。お二人の様子を教えてやろう。自分は少し、笛の練習でもしていこうか。
 そんなことを考えれば、弟が嬉しそうに笑う姿が目に浮かぶ。
 第三王子は、思わず微笑んだ。
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