【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
108 / 202
第三部 父と子

第8話 夜会②

しおりを挟む
 
 翌日。

 朝早くから、褐色の肌に金色の巻き毛の商人が南の離宮を訪れた。
 レイから一刻も早くと来訪を乞われたサウルは、続けてセツからも連絡を受けた。

「王宮での披露目あり。相談を」
 伝言を聞いて、サウルは興奮で体が震えた。
 この機会をものにできれば、先々商売がどれだけ広がるかわからない。
 怖いもの知らずと言われた父の血が、自分の中にも着実に受け継がれているのを感じる。

 シェンバーとイルマを前にしたサウルは、床に額づいて祝いの口上を述べた。
「まことにおめでとうございます。此度の慶事に我が商会をお使いいただけるとは無上の喜びにございます」


「ありがとう。夜会まであまり時間がないけど、色々揃えてほしいんだ」
 イルマの言葉に、商人は満面の笑みで応える。
「セツ様から伺っております。何なりとお申し付けください。王都には父の店がございますし、国中に伝手つてもございます」

 シェンバーが声を潜めてサウルに告げた。
「⋯⋯個人的に頼みたいものもある。それは後で話をしたい」
 察しよく商人が頷く。
「支度にはいくらかかっても構わない。十分な働きをしたならば、其方の望むままの報酬を与えよう」
 サウルの瞳が、ぎらりと光った。
「承知しました! 必ずやご満足いただける品々をご用意致します!!」


 半日あまりかかって打ち合わせを終えた後、イルマは大きく伸びをした。シェンバーとサウルは別室で更に話を続けている。

「なんだか、大変なことになってきちゃったなぁ」
 イルマが呟けば、傍らのセツが拳を握りしめた。
「これからですよ、イルマ様⋯⋯」

「セツ?」
「何としても、お披露目の席でイルマ様の雄姿を見せつけなくては!」
 イルマは仰天してセツを見た。
「雄姿!? そ、そんなに頑張らなくても」

「⋯⋯イルマ様、人の口に戸は立てられないのですよ」
「それはそうだけど」
「夜会の話はすぐにフィスタまで伝わります。万が一、何か失態がサリア様や殿下たちのお耳にでも入ろうものなら⋯⋯」
「ひッ!」

 イルマの脳裏に帰国を叫ぶ兄姉の幻が浮かぶ。⋯⋯怖すぎる。
 二人は同時に体を震わせて、頑張ろうねと手を握り合った。
 
 ようやく心穏やかに暮らせる日々がやってきたのだ。
 なんとかここを乗り切らなくては。主従の心は一つだった。

 それからというもの、南の離宮はにわかに慌ただしくなった。
 サウルは離宮に日参し、イルマやシェンバーの希望を聞いては、飛ぶように帰っていく。次の日には見本だと言って絹や宝石を持参し、さらに細かい注文を引き受ける。
 サウルの兄弟だという商人たちも次々に現れて、その結束の強さと機転の利くことには目を見張るものがあった。

「サウルの一族って働き者だよね」
「あの商人には色々思うところはありますが、使える男なのはよくわかりました」
「セツからそんな言葉をもらえたと知ったら、サウル喜ぶよ⋯⋯」

 イルマの口から何度目かの欠伸あくびが漏れた。眠気が収まらないので、セツにお茶を淹れてくれと頼む。

「イルマ様、大丈夫ですか? 最近、よくお眠りになれていないのでは?」
「ん⋯⋯。緊張してるのかなあ。眠りが浅くて、最近よく夢を見るんだよね」
「夢?」

 イルマは、セツからお茶を受け取りながら、今朝見た夢を思い出した。

 しんと静まった白い闇の中に、一人の少年が立っている。
 少年は、花々が咲き乱れる広い庭で、誰かを待っていた。とてもとても大切な人を。

 黄金色の髪のほっそりした姿。今は背中を向けているが、こちらに顔を向ければ瑠璃色の瞳が輝く。
 最初は幼い頃に会ったシェンだと思った。優し気な美しい顔は、シェンにとても良く似ている。でも、何回か見ているうちに違うとわかった。シェンの瞳は切れ長だけれど、彼は少し垂れた大きな瞳を持っている。
 何よりも、夢の中の彼の心は、いつもたった一人を追いかけていた。

「ねえ、セツ。セツは夢の中に入ってしまって疲れるなんてこと、ある?」
 セツは、瞳をぱちぱちと瞬いた後に言った。

「夢に入って疲れる、ですか? ああ、昔、母が言っていました。夢魔が人の想いを運ぶことがあると」
「夢魔?」
「伝えたいけれど言えない想いを、夢の中に送るのです。想いが強いほど、夢魔は送られた相手の力を奪うそうです」
「言えない想い⋯⋯」

 ──ならば、誰が、何を伝えたいのだろう?
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...