【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第9話 面影①

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 重厚な扉が音もなく開かれ、旅姿の一人の男がするりと中に入っていく。
 部屋の奥にある机の前で、胸に勲章をつけた壮年の騎士が深く椅子に座り、南の離宮からの報告を待ちかねていた。
  
 彫りの深い顔立ちに厚みのある鍛えられた体。太い眉の下の眼光は鋭く、気の弱い者なら逃げ出してしまいそうだった。
 男は騎士の前に跪き、報告の為に口を開いた。

「シェンバー殿下の目が治ったと!? 真実か?」

「間違いございません。次の宮中舞踏会への出席もお決めになられました」
「陛下が主催なさる夜会か! 久々だとは思っていたが、もしや、あれは⋯⋯。第二王子の快復披露の為でいらしたのか?」

「本日の陛下からの急なお呼び出しも、その為でしょうか?」
 騎士の後ろに控えていた副官が口を開いた。
「第二王子が快復されて夜会においでとなれば、参加者が膨れ上がる。その可能性は十分にあるだろう」
 部屋の中に俄かに緊張が走り、騎士は続けた。

「陛下からお話を賜り次第、騎士団長たちを呼ばねばならぬ。当日の警備は倍に、夜会が滞りなく進むよう手配が必要だ」

 シェンバー殿下が失明されたと聞いた時は耳を疑った。殿下は何ひとつ釈明されず、フィスタで何があったのかも一言も話されなかった。
 そういえば、共に離宮に行かれたフィスタの王子はどうされたのか。

 瞬時に考え込む騎士に、旅姿の男はさらなる情報を知らせた。
「フィスタの王子殿下も夜会に同行されるそうにございます」
「ご婚約者もご同行となれば、ますます話題には事欠かぬな」

 敢えて、仕事が増えるな⋯⋯とは言わなかった。慶事であるのに余計なことを言うべきではない。
 自分たちに大切なのは、己の役割を果たすことだけだ。
 王子たちを安全にお守りすることこそが全てなのだ。

 ──そして。

「シェンバー殿下の代わりを務めて、何とか今日まで来た。とうとうお戻りになる日が来る⋯⋯」

 王宮の一室で、感慨を籠めて深いため息がつかれた頃。
 南の離宮では、安堵と感謝の声が溢れていた。



「⋯⋯サウル殿、本当にお疲れ様でした。素晴らしい働きぶりでした」
 輝く碧青の瞳には心からの労りがあり、口からは優しい言葉が紡がれる。
「セツ様から、そんなお言葉が聞ける日が来ようとは」

 商人は、思わず浮かびそうになる涙を堪えた。
 御用聞きに伺いながら、美しい侍従にどこか冷たい態度を取られ続けてきた日々が懐かしい。
 この一か月、自分と兄弟たちは国中を駆けまわり、数年分の仕事をやりとげた。
 だが、まだ大事は終わっていない。
 夜会を無事に終え、殿下たちの喜びのお声を聞いた時にはじめて、此度の責務が完了したと言えるのだ。

「ありがとうございます、セツ様。僭越ながら、これは私どもからセツ様への気持ちにございます」
 商人が傍らに置いた箱の中から包みを出す。
 セツの柳眉がピクリと跳ねた。
「前にも言ったけれど、私には何も必要ありません」

「⋯⋯大事な時に身に着けると言うものがございます。殿下方には十分力のあるものをご用意させていただきました。王宮にご同行されるセツ様にもぜひ」
「護り⋯⋯」

 セツは、商人の手から包みを受け取った。
「ご無事でのお帰りをお待ちしております」
 サウルの笑顔に、セツはありがとう、と小さく呟いた。


「こんなにたくさん、持っていけるんだろうか⋯⋯」
 イルマの口から、思わず唸り声が漏れる。

 目の前には、山ほどの荷が積まれている。
 夜会のために用意されたものだけでなく、王宮滞在中に必要なものをとシェンバーが言ったために、予想以上の品が用意されていた。

「一日で帰ってくるわけにはいきませんからね。それに、陛下からは、しばらく滞在するようにとのお話なんですよね?」
「うん。半月位は王宮にいることになりそうなんだ」

 父から特に申し添えられてきている、とシェンバーは言った。

「考えてみればさ。ぼくたち、スターディアに来てすぐ、部屋に引きこもったじゃない?」
「ええ、さっさとフィスタに帰るのを決めて、帰国の準備に没頭しましたよね」

 王宮にいた数日間、イルマたちはほぼ、誰にも会わなかった。しかも、その後はサフィードも含めて3人で夜逃げだ。

「あの時はまさか、シェンと結婚するなんて思いもしなかったな」
「王宮に行ったら、まずはご挨拶からですね⋯⋯」
 セツの言葉が重い。
 国王陛下にすらろくに挨拶をしていない現実が押し寄せる。

「⋯⋯案ずるより産むが易し」
 ルチアがよく口にしていた言葉を、イルマは呟いた。
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