【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
111 / 202
第三部 父と子

第11話 面影③

しおりを挟む
 
 離宮を発つ前夜。
 イルマはぐっすりとは眠れずに、うとうとと微睡まどろんでいた。

 夢はいつも、白い闇の中から始まる。
 ただ何もない空間から、徐々に色づいた世界が現れる。
 これは、の見ている景色なのだろう。

 花々が咲き誇る庭園を、黄金色の髪の少年は真っ直ぐに歩いていく。庭園の奥に在る四阿あずまやが見えると、ほっと息をつく。
 いつも決まった場所に座り、持参した楽器を膝の上に抱える。
 彼が座るのは、自分が来た小道とは反対側の小道がよく見える場所だ。
 待ち人の姿がすぐにわかるように。

 ⋯⋯今日は、いらっしゃるだろうか。

 彼の待ち人は忙しい。
 必ず現れるとは限らない相手の為に、彼は今日も楽器を奏でる。
 どんな曲でも自由に弾くことが出来るのに、少年はいつも温かく優しい曲を選ぶ。

 ⋯⋯貴方の心が少しでも穏やかでありますように。
 ⋯⋯貴方の眠りが心地よいものでありますように。

 少年の心は、いつだって祈りで満ちている。

「⋯⋯!」
 名が呼ばれた。

 小道の向こうから、待ち人がやってくる。
 いち早く気づいた彼は、楽器を手に立ち上がる。
 嬉しさではち切れそうな心で、大事な人の名を口にして。

 彼は、誰なんだろう?
 日々鮮明になる夢の中でいつも、相手の姿は見えない。

 イルマは、何度も見る夢の中で、少年に不思議な親しみを覚えていた。
 輝く黄金の髪に瑠璃色の瞳。白磁の肌の少年は、スターディアの王族に違いない。
 叶うならば、少年の奏でる音楽をあの四阿で聴いてみたかった。
 ⋯⋯夢なんだけど。


 南の離宮から王宮までは、馬車で三日の距離だった。

 イルマとシェンバーは馬車の中で向かい合わせに座っていた。
 何となくそわそわと落ち着かないイルマをシェンバーがじっと見つめている。
 外の風景を窓からのぞいたり、あれこれ楽しそうに話しかけてきたり。その合間もふわふわの髪がぴょんぴょんと揺れている。

 視力が戻ってから改めて見るイルマは、見知った小動物を思い出す。子どもの頃、何とか捕まえたくて木の下で眺めていたら、庭師が言った。
「捕まえるのは難しいですが、近くでご覧になることは出来ますよ。おっとりしたものから気の強いものまで、気性も色々ですから」

 餌をお持ちになるといい。
 そう言われて、毎日同じ時間に餌を持っていくと、姿を見せてくれるようになったものがいた。嬉しくて、飽きもせずに木の実を齧る姿を眺めた。
 ⋯⋯あれは、好奇心が強くて人懐こい性格だったんだろうな。そう、目の前のイルマのように。
 知らず微笑むシェンバーの目には、イルマの背後に幻の尻尾が映っている。

「ねえ、シェン?」
「ん?」
「スターディアの王族に、リュートが得意な、若い男性はいる?」
 リュートは涙の形の弦楽器だ。指で弦を弾くようにして音を奏でる。

「王族ならば、一通り音楽は習う。リュートの名手に心当たりはないが、私が知らないだけかもしれない」
「⋯⋯そう。花の見事な庭園の四阿で、いつもとても優しい調べを奏でているんだ」
「気になるなら、探してみよう。イルマはどうして⋯⋯?」

「夢で」
「夢?」
 不思議そうなシェンバーに、イルマは微笑んだ。

「最近、同じ人物の夢をよく見るんだ。夢の中に出てくる子がシェンに、とてもよく似てる。何だか不思議で、会いたくなって。もし本当に会えたら嬉しい」

 シェンバーは虚をかれて、目を丸くした。頬がじわじわと熱くなる。
 イルマの会いたがった少年が、嫉妬混じりで気になった。そんなことはもう、とても口には出せなかった。
 
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...