【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
115 / 202
第三部 父と子

第15話 庭園②

しおりを挟む
 
 王族のことだからだろうか?
 上の者について下の者が口にすることは良しとされていない。

 庭師はイルマに背を向けて、再び作業に取り掛かろうとする。ここで簡単に引き下がるわけにはいかない。
「じゃあ、一つだけ!」
 イルマは慌てて、庭師の背に向かって叫んだ。
「あの庭園は、本当にあるんですね?」

 庭師の背中がびくりと揺れた。
「だが、誰も入ることは出来ん。もう長い間、閉ざされたままだ」
 それきり庭師は黙って、作業を始めた。

 ──閉ざされた庭。一体、どこにあるんだろう。


 庭師にこれ以上尋ねるのは無理だった。
 イルマは気持ちを切り替えるために、少し庭を歩くことにした。庭を散策している者は、見渡す限り自分一人。
 さらに奥へと進むうちに、茂みからひらりと美しいドレスの端が見えた。柔らかい口調の小さな話し声が聞こえる。声音から若い男女のようだ。
 ああ、無粋な真似をしてはならないと、そっと踵を返そうとした時だった。

「⋯⋯第二王子は目の上のこぶ。これ以上表に立つ前に、との仰せです」
「承知した。必ずや、御心に沿うように」
 潜めた二人の声はまるで、愛を囁くような甘さだった。

 心臓が早鐘を打つ。
 ──今、何を聞いた?
 イルマがもう少し、と思って近づいた時だった。

「誰だ!?」
 茂みの向こうにいた男が鋭く叫ぶ。
 イルマの後ろから伸びてきた大きな手が口を塞ぐのと同時だった。背後から抱きかかえられ、茂みと大樹の間に押し倒される。

 立ち上がった男が周囲を確認するように歩き回る。
「気のせいではなくて?」
 女の声に男は納得できなかったようだが、話はそこで終わった。

 小道を行く二人の足音が聞こえなくなるまで、イルマは少しも動けずにじっとしていた。
 ようやく口許から手が離され、ほっと息を吐く。

「助かった。ありがとう、サフィード⋯⋯」
 振り返った先には、心配気に自分を見つめる黒い瞳があった。

 そっと体を起こされ、服に付いた草や土を掃われる。

「大丈夫ですか? どこも痛みませんか?」
 サフィードが自分を傷つけるはずはないのに。イルマは思わず微笑んだ。咄嗟に地に伏した時も腕の中で庇ってくれる騎士。口を覆う仕草すら他の者とは違う。
 人は簡単に人をモノとして扱えるのだ。昔、山賊に襲われた時に強く感じたことだった。

「何ともないよ。サフィーがいてくれなかったら、見つかっていた」
「宮殿を出られて、どちらに向かわれるのかと思いました。特にお声を掛けられなかったので、お一人がよろしいのかと後を追ってきましたが」
 サフィードは、男女が向かった小道に目を向けた。眉が上がり、固い表情になる。

「あれは、スターディアの上位貴族かと思われます。この庭には誰でも入り込めるわけではない」
 イルマは頷いた。
 王族たちの宮殿近くの庭まで来られる貴族。男女でいるのは、いざという時に逃れる理由がつけやすいからだ。

「シェンが、目の上の瘤だと言った。彼らは、何をするつもりなんだろう」
「スターディアの内情はわかりかねますが⋯⋯」
「シェンは武の長であり、王位の継承順位も高い。シェンが王宮に戻るのを良しとしない者たちがいるんだ」

 イルマは、サフィードがその時、何を思ったかに気づかなかった。シェンバーを快く思わない者たちがいるということは、そのまま彼らがイルマに同じ感情を抱く恐れがある。
 守護騎士は、知らず己の剣に手を掛けた。
 自分の役割はただ一つ。この方の盾になり、お護りすることだけだ。

 ──こんな時、誰に相談したらいいんだろう。本人に直接言ってもいいものだろうか?
 考え込むイルマの脳裏に一人の人物が浮かんだ。
 彼ならば、スターディアのことも教えてくれるのではないだろうか?

「サフィー、今から一緒に行ってほしい場所があるんだ!」
「どちらに?」
「神殿!!」
 王子と守護騎士は立ち上がった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...