【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第30話 宴のあと①

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 舞踏会での顛末は、瞬く間にスターディアを駆け抜けた。
 宮中から貴族の屋敷に、使用人たちから市井の人々の口へと。


 華やかな噂話とは裏腹に、イルマ王子は侍従のベッドの脇で涙ぐんでいた。
「⋯⋯セツ。セツ、ごめんね」

 嵐のような宮中舞踏会が終わった途端、セツは寝込んだ。イルマの侍従になって以来、床に伏したことは数えるほどしかなかったが、今度ばかりは高熱まで出した。

 ずっとセツの側にいようとするイルマを、レイが懇切丁寧に退ける。
「イルマ殿下、どうぞご心配なく。セツ様のお世話は私が引き受けます。シェンバー殿下にも許可はいただいておりますので」

 イルマは、いささかむっとして言った。
「⋯⋯セツは、ぼくの侍従で乳兄弟だ。許可ならシェンよりぼくの許可が先じゃないか! ぼくも、ここにいる!!」

「イルマ殿下がお側でそんな心配そうなお顔をなさっていたら、治る者も治りませんよ!」
 レイは、王子相手でも一歩も引く素振りを見せなかった。

 ぐっと詰まったイルマは、見る間にへにょんと萎れていく。とぼとぼと歩いて部屋を出る姿は、大層頼りなかった。
 ⋯⋯あんなお姿は初めて見た。大丈夫なんだろうか。後は、シェンバー殿下頼みだ。
 レイは、心の中で主に向かって祈った。

 イルマが泣く泣く部屋に戻れば、美貌の王子が待っていた。
 シェンバーは項垂れているイルマに気づいて微笑んだ。

「イルマ、おいで」
「⋯⋯シェン」

 広い胸にこつんと頭をつけて、イルマはぐすぐすと泣いた。
 シェンバーはイルマを抱きしめて髪を撫でた。話を聞きながら額やこめかみに落とされる口づけは、どこまでも優しく甘い。

「セツは打ち身と疲労からの発熱だ。ミケリアスが神殿の薬師を付けてくれたから、すぐによくなる」
 中央神殿の裏手には広大な薬草園があり、神官や薬師たちが日々世話をしている。そこで採れる薬草の効き目は確かだった。

 あの時、床に叩きつけられたセツを助け上げ、シェンバーはミケリアスに託した。ミケリアスは影と共にセツを別室に運び、ただちに侍医を呼んでくれたのだ。

「セツは舞踏会に備えてずっと準備をしてくれてた。前日はほとんど寝てなかったはずなのに」
「レイも言っていた。作法やしきたりについて散々聞かれたと。いつだってイルマのことが一番なんだと」
 ⋯⋯レイはなんだか他に言いたいことがありそうだ。
 イルマは考えないことにした。ほんの少し、レイの態度に拗ねていたからだ。

 シェンバーに話すうちに、段々イルマの気持ちは落ち着いてきた。
 大きな怪我はないのだからゆっくり養生すればセツは元気になる。

「そういえば、王宮に来てからずっとシェンが忙しそうだったのは、シュタイン侯爵たちのことがあったから?」
「⋯⋯それもある。騎士団の統轄本部に脅迫文がいくつも送られていた。シュタインやグローデル以外の可能性もあったから、昨今の宮中の状況を把握しなければならなかった」

 ⋯⋯脅迫文の内容は、シェンに武の長やぼくとの婚姻を諦めさせるものだったと聞いた。自分がのんきに庭を探索しているうちに、シェンバーは力を尽くしていたのだ。
 イルマは申し訳ない気持ちになった。

「彼等は私が要件を飲まないので、強硬手段に出た。舞踏会の目的は私の快癒と伴侶の披露目だ。国王主催の会で偽物を連れて周囲を混乱に陥れたとなれば、ただではすまない。国王と諸侯を冒涜する痴れ者と思わせたかったんだろう」

 シェンの顔つきは厳しく、疲労と後悔が滲んでいる。

「私も、聞きたいことがある。イルマは、叔父上⋯⋯、王弟殿下の御霊みたまに体を貸していただろう? 薬で眠らされていたのに、急に起き上がって王宮の大広間に向かおうとしたと騎士たちが驚いていた」
「あれは⋯⋯。眠っているぼくの体から、シュタイン侯爵が指輪を奪ったからだ」
 イルマは自分の左手を見つめた。瑠璃色の輝きが静かに自分を見つめている。シェンバーが侯爵から奪い返して、もう一度嵌めてくれたのだ。

「ぼくは、宝石いしの惹きあう力でルーウィック殿下に会うことができた。それが急に断たれたから、無理やり現世に戻ることになったんだ。その時に、王弟殿下に頼まれたんだよ」


 ◇◆


 いきなり、二人でたたずんでいた庭が歪んだ。

「イルマ王子。其方の宝石が奪われた」
 嵌めていたはずの指から指輪が消えていた。
「現世で何者かが、体から指輪を奪ったのだろう。引き合う力が消えれば其方はここにはいられない」
「じゃあ、どこへ?」
「元の世界にもどるだけだ」

 ⋯⋯今ならば、共に現世に行くことができる。少しだけ、其方の体を貸してくれ。

 切実な瑠璃色の瞳があった。


 ◇◆

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