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第三部 父と子
第40話 約束① ※
しおりを挟むシェンバーが部屋に入ると、仄かな明かりがついていた。
薄明かりの中に、寝台に座るイルマの姿が浮かび上がる。イルマの細い体を包むのは細部まで見事な刺繍を施したヴェールだ。それは宮中舞踏会の日に、イルマが身に着けるはずのものだった。
「イルマ」
シェンバーが声をかけると、ヴェールの下から細く白い手がのぞく。手招かれて寝台に乗りあげれば、シェンバーは言葉を失くした。
柔らかな明かりを受けて、ヴェールの下の白い輪郭だけが浮かび上がる。イルマは下に何も身に着けていなかった。透ける薄布がゆったりと体を覆う姿は、ひどく扇情的で頼りない。
動揺する自分の手を、イルマがヴェールの下からそっと握る。指先に口づけられたかと思うと、中指を温かい口の中に含まれた。
「ッ!!」
ちゅうちゅうと吸われ、根元まで舐められているうちに、自分の前が硬く張りつめていくのを感じる。
⋯⋯これは一体、どんな拷問なんだ。
シェンバーは自分の中に残る理性を総動員した。
口から指が離され、イルマの甘い声が自分を呼ぶ。
「⋯⋯シェン」
顔を近づけると、イルマから口づけられた。ずらしたヴェールから覗く柔らかな唇の感触に、思わず目の前の体を強く抱きしめる。舌を絡めて吸い上げれば、腕の中の体が小さく震えた。
歯の裏の一つ一つ、舌の根元までをゆっくりと舐る。そっと唇を離せば、銀糸のように互いの間に唾液がこぼれた。イルマがはあ、と小さなため息を漏らす。切なげに輝く黄金の瞳がヴェールから現れた。赤く染まった目元がたまらなく色っぽい。
「イルマ、⋯⋯どうして」
「約束したから」
「約束?」
イルマの両手がシェンバーの首に回される。
耳に熱い息がかかり、小さな声が聞こえた。
「全部終わったら⋯⋯、しよう、って。シェンは忘れてた?」
「いや、覚えてる」
⋯⋯忘れるはずなどなかった。
シェンバーは、イルマの細い背をゆっくりと撫でた。逸る自分の心を宥めながら。
「いいの?」
こくんと頷く体を一度だけ強く抱きしめ、そっと寝台に横たえた。
広がったヴェールの上で、イルマは微笑んだ。仄かな明かりの中で、シェンバーはイルマの頬に触れる。そっと撫でながら小さなため息をこぼした。
「シェン⋯⋯?」
イルマの不安げな声に、シェンバーの中ですぐに慰めたい気持ちと腹立たしい気持ちが入り混じる。
⋯⋯王宮に来てからずっと忙しかった。満足に触れ合う時間もなかなかとれず、募る欲求を必死で押さえてきたのに。
「時々、イルマのことを本気で憎いと思う」
「えっ?」
瞳を瞬いて体を起こしかけたイルマの動きを塞ぎ、シェンバーは自分の体を倒した。
「ンッ!」
イルマの両の手首を掴んで、寝台の上に強く押し付けて縫い留める。首元から鎖骨を強く吸い上げれば、次々に紅い花が咲いた。痕がついた場所は舌を這わせて、ゆっくり愛撫を重ねていく。細かく体を震わせるイルマに、愛しさと同時に仄暗い欲が広がる。
⋯⋯この体の全てに、自分の痕を刻みつけよう。
シェンバーは、ツンと尖った小さな膨らみを口に含んだ。
「あっ! あ!」
何度も体を重ねて快感を植えつけた部分だった。跳ねる体を押さえたまま、舌先でつつき、柔らかく歯を立てる。
「や⋯⋯」
片方だけを貪った後に、今度はもう片方の乳首を口に含んだ。いつもなら、片方を口で愛する間に、もう片方は手で慰める。快感だけを、長い時間をかけてイルマの体に与え続けてきた。
わずかに体をよじるイルマの動きで、シェンバーは愛しい者が何を求めているかを知った。
「⋯⋯ごめん、イルマ」
小さく呟いたまま、シェンバーは両手に力を込める。膨らみを舌で転がし、ゆっくりと吸い上げた。
イルマは泣きそうな気持ちを必死で抑えていた。力を込められた手が痛い。それよりも痛いのは、張りつめている自分自身だった。
いつもと違うシェンバーにも、うろたえていた。
自分は何か間違ったのだろうか。
不安な気持ちが胸をよぎっても快感は体を支配する。腕に込められた力は強いのに、シェンバーの舌の動きは優しく熱い。代わる代わる膨らみを口に含まれて、切ない気持ちばかりが募っていく。
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