【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

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第三部 父と子

第39話 父子②

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「フィスタの御父君と陛下は、大層仲が良かったのですよ」
 王妃が黄金色の液体を見ながら楽しそうに笑う。
「二人でお酒を飲むことも多かったと思うけれど。そういえば、このお酒。長らく見ていなかったわ」
 王妃の口を止めるべきかと、王が悩んだ時だった。
「父がこちらに留学中に、陛下とお忍びで出かけた先で気に入ったと言っていました」
 ⋯⋯そうだ。城を抜け出して、店主に薦められたこの酒を二人で片端から空にして。

「ああ、思い出したわ! お二人が城に帰らず大騒ぎになって、近衛と騎士団が捜索に出たの」
「宿屋で目が覚めたら、団長達の蒼白な顔が並んでいてびっくりしたそうです。床に転がった酒瓶に近衛の団長がつまずいて、けがをしたのが気の毒だったと」
「そうそう! 先代の陛下が大層お怒りになって、このお酒は城下で禁止されたのです」
「ええっ!」
 懐かしいわ、と笑う王妃とイルマの和やかな様子に、王は軽い眩暈を覚えた。

 ⋯⋯フィスタの王室はどれだけ親愛に満ちた親子関係なのか。
 子どもに明け透けに語れる環境がいいのか悪いのか判断がつかなかった。このまま二人が話を続けたら何が出てくるのか恐ろしい。
 黄金色の酒から目を上げると、息子たちが自分を見ている。その瞳には驚きと好奇心がある。

 王は咳払いを一つした。
「折角イルマ王子が手に入れてくれた酒だ。⋯⋯今度、其方たちも共に飲もう。一人では飲みすぎてしまうからな」
 王子たちが一斉に頷くのが見えた。その様子に幼い日の面影が浮かんで自然に笑みが誘われる。

「フィスタの父にも購入したので、渡す日が楽しみです」
 ⋯⋯友ならばきっと、我が子の気持ちを喜んで、自ら明るく思い出を語るのだろう。
「私も御父君に手紙を書こう。この酒を飲んだら、きっと思い出話をしたくなる」
 イルマ王子の顔がぱっと輝いた。やはり親子だな、と思う。面差しに柔らかな友の笑顔が重なる。

「⋯⋯今日の日は、真に感慨深い日だ。皆の心に深く感謝する」
 王の言葉は静かに、妻子の胸に響き渡った。


 ⋯⋯イルマはすごい。

 茶話会が終わっても庭園の花を見ながら王妃と楽しそうに話す姿に、シェンバーは尊敬の念を抱いた。自分には出来ない技だ。
 父や母、兄弟とも特に語らう内容がなければ話さない。王室とは義務と責任で成り立つもので、家族としての愛情は二の次だ。
 いつの間にかそう思い込み、必要最低限の関りしか持とうとしてこなかった。花を前に自分なら母と何を話すのか、想像がつかなかった。

「シェンバー」
 王がシェンバーの傍らに立ち、イルマと王妃を見つめた。とまどう我が子を見ながら、どこか苦い笑みを口元に浮かべる。
「⋯⋯私はルーウィックのことがあって以来、二の王子を盾にすることにずっと反対してきた。国には駒となる王子たちも、血の通った人間なのに。長い年月、慣習として行われてきたことを撤廃することはなかなか難しくて、其方を辛い目に遭わせてきた。⋯⋯すまなかった」

 シェンバーは父王と重臣たちがずっと揉めていたことを知っている。代々の王はたくさんの側室を持ち、生まれた王子たちは皆、すげ替えのきく駒とされた。

『当代に王子は三人のみだ、我が子に代わりはいない』
 王は、そう明言し続けてきた。

「私に剣を教える騎士団長が、八の年に薬師と共に来て言いました。殿下、武の王子である限り御命の危険はつきまとう。お体を鍛えながら、ほんのわずかずつ毒に慣らしていきましょうと。私の身を守るためだと」
「薬師たちに相談しながら、毒の調合をさせた。私に出来たのはそこまでだ。女神の御恩寵の元に其方の命が助かったのは僥倖だった」

 実際に王の判断は正しかった。スターディアは内外に怨恨を抱えている。毒に慣れていなかったら、自分が今日在るのかもわからなかった。

 王妃と話していたイルマ王子が振り返ってこちらを見た。自分たちに気づいて手を振っている。
 シェンバーと王は、思わず顔をほころばせた。

「⋯⋯イルマ王子との縁談を進めたのは、其方が望んだからだけではない」
「父上?」

「心優しい友人の子ならば、どんな時も其方の安らぎとなるのではないかと思ったのだ。伴侶とは長い時を共に歩む者だから」

 午後の陽射しは穏やかで、静かに降り注いでいた。
 シェンバーはただ黙ったまま、父の言葉を噛み締めていた。
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