【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
150 / 202
第三部 父と子

第50話 君と③

しおりを挟む
「ねえ、イルマ。イルマは、神殿で愛を誓わなくてもいいの?」
「もう、ラーナの泉の前で女神に誓ったよ」

「神官に互いの名を告げて証をたてなくても?」
「ミケリアス殿下が証人になってくださっている」

「じゃあ⋯⋯、イルマの晴れ姿を父君や母君に見ていただこうとは思わない?」
「えっ! そ、それは⋯⋯」

 ぐっと詰まって眉を寄せる伴侶を、シェンバーは心から愛しいと思う。

 目の前のイルマを腕の中にぎゅっと抱きしめて、シェンバーは顔中に口づける。嫌がられても気にしなかった。腕の中でもがいていたイルマはいつの間にかおとなしくなり、耳まで赤くなっている。耳朶をめば、ぴくりと震える体がいじらしい。
 シェンバーは、イルマの手を取って指輪に唇を寄せた。シェンバーの色を身に着けた彼は、二つとない宝だ。

 イルマが口ごもっている間、シェンバーの脳裏にめまぐるしく一つの計画が立ち上がる。

 ⋯⋯王宮での暮らしが落ち着いた頃、あらためて内外に触れを出そう。

 シェンバーは考える。

 ⋯⋯スターディアの諸侯に周知されただけで、対外的には二人の婚姻は知られていない。あまり大々的にしたらイルマに嫌がられるだろうか。でも、生涯ただ一度の機会だ。多少派手にしてもいいだろう。フィスタの王族は全員来ると言って揉めるかもしれない。クァランの部族にも呼ばねば怒る者たちがいる。それに、イルマはフィスタから大事な親友を呼びたいと言うだろうか?


「シェン」
 甘い蜂蜜色の瞳がシェンバーを呼ぶ。珍しく眉を上げて真剣な瞳をしている。

「ぼくは、その⋯⋯。既に伴侶になっているんだし、もう十分だと思う」
「うん」
「指輪だってもらったんだから!」
「うん」
「お披露目はもう、終わったんだよ!」
「内への披露目と外への式では違うだろう。それに、私はイルマの晴れ姿が見たい」

 真っ赤になったイルマが何か言いたげに呻いている。
 シェンバーは涼しい顔をしてイルマに口づけた。

「⋯⋯じゃあ、じゃあね! シェンが陛下たちに自分の気持ちを言えたらね!」
 イルマの拗ねた声に、今度はシェンバーが目を剥いた。
「それでは、時間がかかりすぎる!」
「なんで!?」

 イルマとシェンバーは顔を見合わせて、同時に噴き出した。
 ひとしきり笑った後に、シェンバーは真っ直ぐにイルマを見つめた。

「イルマがいてくれたら私は、きっと、もっと強くなれる」

 シェンバーは、腕の中の温もりを、もう一度強く抱きしめる。

「あの暗闇の中で手を握った日から、ずっと。君と歩んでいきたかった」
「⋯⋯あの時、ぼくの手を引いてくれたのはシェンだ」

 遠い日の記憶が二人の間で揺れる。

 シェンバーは、イルマがあまり先の話をしないのを知っている。
 イルマにはいつも、しかなかった。シェンバーにも、明日はいつでも見えないものだった。

「どんな相手にも負けない、イルマがいれば。その気持ちを皆の前で見せたいんだ」
「⋯⋯そんなことを言われたら」
「一緒に並んで歩いてくれる?」

 返事の代わりに、イルマはシェンバーの頬を両手で包んだ。美しい瞳と同じ色が指に煌めいている。
 二人はゆっくりと口づけを交わした。


 ──この先を、生きよう。君と。
 伴侶とは、長い時を共に歩む者だから。

 ⋯⋯女神の御許までも。


 穏やかな陽射しが、重なる二つの影を見守っている。
 女神の心からの祝福が、誰も知らず静かにあたたかく降り注ぐ。


「⋯⋯王宮にもう少し、慣れたらね」

 目の前でぴょんと跳ねた髪に、美貌の王子は心からの笑みを見せた。





 【第三部 父と子 了】

しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】100回生まれ変わっても心のないオレの心を奪ったのは黒い竜

MINORI
BL
100回生まれ変わり、98回黒い竜に殺され、99回の人生の記憶を持つ、心と感情を持たない主人公が、唯一の記憶がない初回人生をすごした6体の竜が統べる異世界に、自分の魂を確実に消し去る方法を探す旅に出るお話。 竜が主人公を取り合い、BLになる・・・はず・・・ですが、大分遠いかもしれません・・・。 ※このお話は、ムーンライトノベルズ様の方で先行投稿しております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

処理中です...