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第四部 婚礼
第11話 待ち人①
しおりを挟む見事に晴れ渡った青空に祝砲が上がった。腹に響くように重く、ドンと鳴り響く。城下の子どもたちがわっと喜びの声を上げて、石畳の上を走り回る。
王都に入る為の検問に並んでいた商人の口から、悲鳴が漏れた。
「なんてことだ! 俺たちは日にちを間違えていたのか!! 今日が式だということか?」
「落ち着け、ハートゥーン。いくら予定より日数がかかったとはいえ、今日ではないはずだ」
答える男の声にも焦りが滲む。十分に余裕のある旅程を組んだはずだが、運悪く嵐で宿屋に何日も留め置かれた。何よりも、持参した荷物が多すぎて移動に時間がかかったことが遅れを生んだ。もし今日が当日なら、取り返しのつかない失態となる。
「⋯⋯やはり、お前の言うことを聞いたのが間違いだった。もっと荷を軽くして身軽に来るべきだったのだ。俺としたことが、まんまと商人の口車に乗ってしまった」
「何を言う、セリム! この千載一遇の機会を逃すなど阿呆のすることだ。殿下方への献上品だけではない、この荷が王都でどれほどの財に化けることか!」
見事な赤毛の商人が、後ろに向かって手を振りかざす。後列にはたくさんの荷馬車が連なっていた。
「あれほど、献上品だけにしろと言ったのにッ!」
黒髪の美丈夫の眉が、即座に跳ね上がった。
威風堂々とした男たちが馬に乗って揉めているのを、同じように検問に並ぶ人々は好奇の目で見つめていた。
──あれは、遥か東のクァラン砂漠に住む民たちだ。白い長衣に華やかな朱の刺繍が入った上着を纏っている。此度の祝賀に駆けつけたのだろう。
馬に乗って騒ぎ立てている男たちのところに、一人の若者が走り寄った。
「⋯⋯あの、失礼致します。婚姻の儀は、明日です。今、聞こえているのは前日の祝砲です。今日から三日間は王都に上がると聞きました」
「何と、そうだったのか。すまない、教えてもらって助かった」
若者はにこりと微笑んで、すぐ前の馬車に乗り込んだ。
砂漠の民たちは、ほっと胸を撫で下ろす。赤毛の商人は、馬車を見つめて首をひねった。
「今の⋯⋯。誰かに、似ていなかったか?」
「⋯⋯誰に似ていると言うんだ? そんなことよりも、いよいよ王都に入るぞ!」
自分たちの番は目前だった。ふわりと商人の意識に上った面影は、あえなく消えていった。
「ユーディト! シヴィル!」
イルマは中央神殿の階段の上から、下方で佇む人々に手を振った。遥か下から、こちらを見上げて手を振り返してくれる人々の姿が目に入る。
隣に立つミケリアス王子が微笑んだ。
「嬉しそうですね、イルマ殿下。あちらは、フィスタからいらした方々ですか?」
「うん。宰相補佐官と、同じく宰相府の文官。どちらも大事な友人なんだけど、補佐官は、王立学校時代からの親友なんだ」
「それはそれは。大事な方の為に駆けつけてくださったのですね」
イルマの顔が、ぱっと輝いた。自分でも満面の笑みを浮かべているのがわかる。
婚儀に出席してもらえる嬉しさだけではない。まるで、故国にいた頃のように、思い立ったらすぐに会えるのが嬉しい。
あちこち自分が案内して回りたいところだが、そんな時間はなかった。食事を共にするのがせいぜいだ。それでも、喜んでくれる姿に胸がいっぱいになる。
「一緒に昼食をとる予定なんだけど、なかなか終わらないなあ。ずっと待たせてしまって。シェン、遅いね」
「そういえば」
式典の為の予行演習は、予想より時間がかかった。何度も打ち合わせを重ねた後の最後の仕上げだ。すぐに終わるかと思ったのに、念入りに確認が行われている。
シェンバーが途中で呼び出された為に中断され、時間ばかりが過ぎていく。
イルマの気持ちとは裏腹に、ユーデイトやシヴィルは興味深い時間を過ごしていた。イルマを待つ間に、彼らは式の準備をつぶさに眺めていた。
「スターディアの挙式は、さすが豪華なものですねぇ。これでは、準備に時間と金がかかるはずだ」
「これは王家同士の婚姻だというだけじゃない。国々への喧伝だ。強者としての自国の姿を、式を通して明確に表明しようとしている」
「なるほど。間違いなく注目を集めていますからね。我がフィスタとは違う」
「見習うべきところは多々ある。機会を逃さず自国の存在を他国に示せなければ、いずれ小国は滅ぼされるか属国になってしまう」
シヴィルがユーディトの言葉に目を丸くした時、賑やかな声が聞こえた。赤と白を纏った華やかな服装の男たちと、シェンバー王子が一緒に歩いてくるのが見える。
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