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Ⅵ.番外編 レイとセツ
第2話 あなたに焦がれて②
しおりを挟む少し上を向いてレイの目を見れば、目を合わせたのに、すぐに逸らされた。
何だか傷つく。
「⋯⋯すごく褒められてると思うんですけど、子ども扱いは全然変わらないんですね」
「⋯⋯へ?」
「お会いした時から、これでも、ずいぶん成長したつもりなんですが!!」
「うん? 知ってるよ。一年半近く、一緒に居るんだし」
レイが眉を寄せて、目を細めた。
なんで、今度は拗ねてるんだろう。
見たことがない姿にびっくりして、うまく言葉が出ない。
レイは、きっぱりと言った。
「残念ながら、私に香油を使うような相手はいません!」
「⋯⋯じゃあ、自分で使ってみるしかないかな」
そう呟いた途端に、今度は目を見開いて腕を掴まれた。
「何を仰るんです? 一体誰と使うって言うんです!」
「レイ! 痛い! 痛いって!!」
レイに掴まれた手が痛くて、大きな声が怖い。
⋯⋯いつもと違うレイが怖い。
思わず、ぽろりと涙がこぼれた。
レイは、はっとしたように僕の腕を離す。
「セツ様! な、泣かないで⋯⋯」
「だって⋯⋯」
レイを怖がることも、こんなことで泣き出すことも情けなかった。
ぼろぼろ涙がこぼれて、床を濡らす。
僕はその場にいるのが辛くなって、部屋を飛び出した。
レイの声が聞こえたけれど、それどころじゃなかった。
離宮の広い庭には、大木が何本かある。
一番大きな木の脇に、小さな長椅子が置いてあった。
枝が重なり合っていて、子どもが二人も座れば、ちょうど体が覆われて見えなくなる。
かくれんぼをするのに最適な場所だ。
子ども好きだったと言う先代の王妃殿下が、小さな王子や姫君の為に作られた場所。
隠れるのには最適な場所だった。
⋯⋯少しだけ、お貸しください。
僕は体を丸めて、そこに腰を下ろした。
イルマ様が戻られてからは、ほとんど泣くことはなかったのに。
『好きなだけ、泣いたらいいですよ』
イルマ王子がいない間、レイはいつも、そう言って励ましてくれた。
ちょっとだけ⋯⋯。
久々の涙は、思ったよりもずっとたくさん溢れてきた。
僕は、いつのまにか泣き疲れて眠っていた。
ふと目覚めた時には、辺りはもう日が落ちている。
「しまった! 仕事!!」
イルマ殿下はどうしていらっしゃるだろう。
何も言わずにお側を離れていた。
慌てて立ち上がろうとすれば、目の前の木が動いた。
「ひっ!」
「セツ様!!」
目の前にレイがいた。レイは青い顔をして、汗びっしょりだ。
「こ、こんなところに⋯⋯!」
「⋯⋯え? ごめん。眠ってて」
レイが、僕の頬に手を伸ばしてきた。
涙の痕を指がたどる。
泣いていたのは僕なのに、レイは自分が苦しそうな顔をする。
「すみません。私のせいで⋯⋯」
「⋯⋯レイ」
恥ずかしい。泣いたことも、レイを怖がったことも。
「!?」
後ずさろうとすれば、体が、いきなり温かいもので包まれていた。
少し硬い髪の感触、汗のにおい。いつのまにか、僕よりずっと大きくなった体。
「レイ、え⋯⋯」
「あんなこと仰るから」
レイの体が、僕をぎゅっと強く抱きしめる。
厚い胸に抱き込まれて、息が苦しくなる。
「誰とそんなことするのかって、かっとして⋯⋯。セツ様は、いつだって綺麗で、優しくて。大人だけど、私よりずっと⋯⋯」
僕は、レイの胸をドンドン、と強く叩いた。
「レイ、くるし⋯⋯」
レイが、はっとしたように体を離す。
ごほっと咳をしながら、レイを見る。
「今だって、レイより大人だよ?」
「⋯⋯たった三つだけでしょう!」
レイが、恨めし気に僕に視線を投げる。
僕の頬をそっと撫でて、一瞬目を閉じた。
目を開けると、僕に向かってはっきりと言った。
「セツ様、貴方が好きです」
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