【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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23.大事なことを

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 エリクについて歩いていくと、建物が途切れ広大な演習場が見えてくる。
 演習場の真ん中には騎士が二人向かい合って立ち、互いに身動きもしない。その向こうには整列した騎士たちが並んでいた。

「あれは……、ジード?」

 胸がドクンと鳴る。騎士の片方はジードだ。

「どうやら、第二騎士団との壮行試合が終わったばかりのようですね」
「壮行試合?」

「ええ、今日は、第二の担当日です。出発前は皆、心が不安になったり、高揚しすぎたりします。実戦前は体力を高め、精神力は平常に近い状態に持っていかねばならない。多少の高揚感は構いませんが、冷静さを欠く者が増えれば、団全体に危険が及ぶことになります。送り出す側の団が相手となり、試合で力を放出するのは魔力のコントロールに有効なのです」

「団全体に危険が……」
「そうです。一人の気の乱れが全体を危機に陥れることがある。同時にそんな一人を私たちは見過ごしてはいけない。それぞれの騎士の働きで団は成り立っているのだから」

 俺は、前方を見ながら静かに語るエリクの横顔を見ていた。エリクを初めて見た時、好きだった先輩に似ていると思った。優しい雰囲気が先輩の笑顔を思い出させる。でも、やっぱりエリクはエリクだ。

「エリクは、すごいな」
「ユウ様?」
「他の団のことや、全体をいつも気にかけているんだな。俺みたいに何もわかっていない奴にも優しく説明してくれるし、すごく誠実だと思う。さっき、騎士たちがエリクのことを慕ってるのがすごくよくわかった」

 エリクが、びっくりしたように瞳を瞬く。がっしりと筋肉が付いた大柄な騎士たちが、一回りも小さく見えるエリクに従っているところは正直、驚きだった。

「ありがと、エリク。実は受付で、ジードへのピールを預けるところだったんだ。一生懸命作ったけど、なんだか魔獣と戦う騎士たちの前では、すごくちっぽけな気がしてた。でも、それはさ。自分だけじゃなくて、協力してくれた皆の気持ちも、ちっぽけだって思うことだよな。やっぱり、自分でジードに渡さなきゃだめだよな」

 何か言いたげな瞳で、エリクがじっと俺を見た。ふう、と小さなため息をつく。

「……センブルクには一つ、貸しですね」
「へ?」
「ユウ様の尊いお志を無にするわけには参りません。センブルクには、魔獣相手に十二分に働いてもらいましょう!」
「……うん!」

 整列した騎士たちの後方にいた貫禄のある騎士が、エリクに向かって手を挙げる。エリクは先に立って話をつけてくれた。

「ユウ様、今、センブルクが参ります。そろそろ、私は部隊に戻ります」
「エリク、本当にありがとう!」
「……ユウ様、お願いがあるのですが」
「お願い?」

 エリクはかがみこんで、俺の耳元で囁いた。

「私にも、今度、ユウ様のお手製のスイーツを頂きたいのですが。その、センブルクのように」
「えっ? うん! 俺の作ったもので良ければ」

 もちろんユウ様がお作りになったものを、とエリクは微笑んだ。腕によりをかけるね、と言えば、楽しみにしていますと返ってくる。お互いに顔を見合わせて笑った。

「ユウ……」

 名を呼ばれて振り返れば、求めていた姿が、そこにあった。


 何を言っていいのかわからない。
 俺とジードは、二人きりで革張りのソファーに座って向き合っている。どちらが口火を切ったらいいのか、二人とも黙りこくったままだ。

 異世界からの客人まろうどが、魔獣討伐前に壮行の挨拶に来た。エリクの言葉に感激した騎士団長によって、わざわざ第三騎士団の応接室に案内され、お茶まで出されていた。

 お構いなく、と言ったのに、団長直々に「客人自らの御出ましとは、本人の励みになりましょう。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」と言われては断ることも出来ない。

 応接室に華美なものはなかったが、質のいい大きなソファーにテーブルが置かれている。窓からは演習場が見え、騎士たちがそれぞれに自主鍛錬を行っていた。

 ジードは、俺の正面でソファーに座り、膝の上で指を組んでいる。整った顔は俯き加減で、眉は少し上がったままだ。

 ……怒っているのかもしれない。

 俺は、へその下の丹田たんでんに力をこめた。じいちゃんが昔、大事なことを伝える時はそこに力をこめろと言っていたからだ。

「突然来てごめん。出発前の忙しい時に時間を取らせるつもりはなかったんだ。この間も来たんだけど、ジードが家に帰ってるって聞いて会えなかったから」
「……何度も来てくれたのか? すまなかった。どうしても実家に戻らなくてはならない用があったんだ。ユウは俺に、何か用があったのか?」

 ──用がなかったら、会う必要もない。

 言外にそう言われたような気がして、胸がズキンと痛む。
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