【騎士とスイーツ】異世界で菓子作りに励んだらイケメン騎士と仲良くなりました

尾高志咲/しさ

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74.二人でお茶を

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 プリンを冷ましている間に、もう一つ菓子を作った。
 残りの卵と砂糖と粉を合わせてこねる。卵黄だけの方が濃厚な味になるけれど、今回は全卵を使った。生地がまとまったら千切って、1センチくらいの小さな丸い形にする。それを天板に等間隔に並べて焼けば出来上がりだ。あまり長い時間はかからない。

「できるかな、卵ボーロ」

 俺が子どもの頃、すごく好きだった菓子だ。料理雑誌で姉たちが見つけて「家でも作れる!」と三人できゃあきゃあ言いながら作り始めた。姉たちの楽しそうな様子が嬉しくて、少しだけこねるのを手伝った。焼きあがった菓子が冷めると、姉たちがぽいぽいと口に入れてくれる。おいしい、と言えばそうでしょ、と得意げな顔が返ってきた。
 あの日は俺の誕生日だった。菓子は、いつだって優しい思い出を連れてくる。

 魔石オーブンから、甘い香りが流れてくる。焼きあがったボーロは、口に入れるとほろっと甘く崩れた。思わず笑顔になってしまう味だった。

「……プリンは一人二個でいいかな。えっと、テオ。それからスフェン。エリクとレトにゼノ。……ラダとロドスにもあげよう」

 それから、もちろんジード。ジードは何個食べるかな。卵ボーロも食べてくれるだろうか。
 皆に配る分をせっせと分けた。それから、一人ずつに御礼の紙を用意した。こちらで覚えた言葉の中で一番多く使った「ありがとう」をたくさん書いた。

 コンコン、と扉が叩かれる。時間ぴったりにやって来たのは、ジードだ。俺は先日、ジードに頼んだのだ。休日に部屋に来てほしいと。

『あのさ、俺、こっちに来てからずっと、やってみたかったことがあるんだ』
『何だ?』
『俺の作ったスイーツを、ジードと一緒に食べたいんだ。……何だか、改まって言うと恥ずかしいな』
『そんなお願いなら、いつだって嬉しい』
『あ……りがと』

 扉を開けると、ジードが嬉しそうに立っている。差し出されたのは、小さな白い花だった。

「レトが、ユウはいつも部屋に花を飾っていると言っていたから」
「ありがとう」

 ジードは入ってくるなり俺を抱きしめた。髪をクンクンとかがれてドキドキする。

「いい匂いだな。ユウは甘い匂いがする」
「ずっと、菓子を作ってたからだよ」

 椅子に座ったジードに、俺はお茶を淹れた。
 そして早速、用意していたプリンを出した。皿に開けたプリンの上からはとろりとしたカラメルがプリンの表面にかかっている。

「これ。前に作って失敗したプリンなんだけど。今回は上手く出来たんだ」

 ジードが口元に持っていくのを俺はじっと見守っていた。

「……うまい」
「ほんと?」
「甘くて、少し苦い。なんというか優しい味がする。これが、ユウが作りたかった味なんだな」

 ジードが俺を見て、優しく微笑んだ。俺は頷いたまま、何も言えなくなってしまった。

「ユウ、もう一つ食べてもいいか?」
「……うん、もちろん!」

 ジードの分はたくさん用意してあるんだ。

「ユウ」
「ん?」

 二つ目を差し出すと、ジードは大きく口を開けた。
 これは、もしかして。恋人どうしがよくやるあれだろうか。「はい、あーん」って食べさせるやつ。ドドドッと急に鼓動が早くなった。キスなんかよりもずっと恥ずかしい。

「え、えっと。食べる?」

 ジードがこくりと頷く。手が震えそうになるのを何とか堪えて、プリンをすくう。俺の差し出したスプーンを、ジードがぱくっと口にする。

「うまい」

 満面の笑みを浮かべられて、まともに顔が見られなくなる。俺は黙ってジードの口にスプーンを運び続けた。もう一つプリンを食べたジードに、俺は卵ボーロが入った皿を見せた。

「あとね、もう一つ作ったんだ。俺の国では色が違って黄色だけど、すごく好きな菓子なんだ」

 俺は思い切って、指で摘まんだボーロをジードの口元に持っていった。ジードが体を乗り出して、俺の指ごとぱくんと食べた。

「ひゃっ!」

 指先を舌で舐められて、思わず飛び上がる。ジードはにっこり笑って、俺の手を取った。
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