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番外編 晴れた空に
2.
しおりを挟む「うん、ヌシには一番に言わなきゃと思って。びっくりさせてごめん」
「千晴様……」
木を見上げると、白蛇の姿はもうなかった。立ち上がって、主のいた枝に向かって必死で言葉を絞り出した。
「とも……ながです。千晴様の……従者に、なり……ました」
ぼそぼそとしか声は出ないし、そこまで言うのが精一杯だった。よろしくお願いします、まで言った方がいいとは思っても、蛇が再び現れたらと思うと気が気じゃない。
ふう、と息をつくと、千晴様が隣に立って大きな声で叫んだ。
「ぼくたち、これからずっと一緒にいるから! 見てて!」
──いいか、友永。その方が仰った言葉が自分の行く先を照らす。どんな時も。
長兄の言葉が、耳の奥に蘇る。
そうか、これから、ずっと一緒にいるんだ。
千晴様の言葉は、自分の心の奥にすとんと収まった。隣に立つ方はきらきらした瞳で上を向き、思わず同じものを見る。
青い空と鮮やかな紅葉が目に焼きついた。
◇◇◇
あれから、十年が経った。
「ねえ、友永。来月から、一星が生徒会長になるんだけど」
「ええ。ますますお忙しくなりそうですね」
「うん。だから当分は昼休みのお弁当を一緒に食べるのをやめようかって言ったんだ。この学校、行事がたくさんあるし、休み時間もよく打合せしてるから」
「なるほど。だからそんなに元気がないんですか?」
「……違う。そう言ったら、一星が怒ったんだ」
千晴様は、がっくりと肩を落としている。
志堂様が千晴様を怒る、というのは初めてのことだ。千晴様は、たぶん純粋な好意だけで言ったのだろう。だが、志堂様には逆効果だとしか思えない。会えなくなる時間が増えそうなら、昼食の時間をもっと大事にしたい、昼食がだめなら夕食を一緒に、と思われるのではないか。
そうお伝えすると、千晴様は眉を寄せて頬を膨らませた。
「なんで、友永は一星の気持ちがわかるの?」
「……いや。わかるってほどでもないですが」
千晴様は裏表がなく真っ直ぐなご気性だ。そんな千晴様に、志堂様はベタ惚れである。何しろ、初めて会った時から十年以上も一途に想い続けてきたと言うのだ。
「千晴様、志堂様は十歳の時から毎年、芙蓉の屋敷にお一人でいらしていたそうです」
「知ってる。母さんから聞いた」
「なかなかできることではありません。お好きな方と会わない約束を守ることも、長い間、唯一人を想うことも」
「……うん」
「そんな志堂様なら、わずかな時間でも千晴様とご一緒にいたいと思われるでしょう」
千晴様の眉が寄る。千晴様は優しい方だ。ご自分が志堂様のことを忘れ去っていた年月を、仕方ないと思いながら気にされている。
「一星はさ、会えなかった間も、どうしてぼくを好きでいられたのかな。毎年、どんな気持ちで家に来たんだろう」
「待つことで、より強い愛情を育てられたのかもしれません……。例え一年に一度でも、千晴様の近くにと思われたのでは」
千晴様は、こちらにじっと目を合わせる。
「いつも思ってたけど、友永は『運命の番だから』って一言で片付けないな」
「申し上げたい気持ちはありますが、こればかりは経験で語れませんので」
ベータである自分には、想像は出来ても体感することはできない。
一目で相手を見つけることも、何を置いても直ちに自分のものにしたいと思うことも。側にいることが出来ない相手をただひたすらに思い続けることも。
まるで炎のように激しい恋情に憧れを抱いても、手にすることはないのだ。
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