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26.ただ一つの幸せ③
しおりを挟む互いに体を抱きしめながら二人は何度も口づけを交わした。フロルが何か言葉を言おうとすると、レオンは素早く唇を塞ぐ。そんなレオンの口を何とか白い手で塞げば、今度はその手にも口づけられる。フロルの眉が寄り、頬は赤く染まった。レオンはそんなフロルが愛おしくて仕方がない。
「そ、そういえば……」
「ん?」
「レオンの賭けって……何だったの? 仮面舞踏会で、僕を見つけようと思っていたんでしょう?」
レオンはフロルをぎゅっと抱きしめた。
「……賭けには勝てたみたいだ」
「えっ?」
「フロルを見つけることができたら、はっきり言おうと思っていた。フロルが好きだ。どうか……、自分を恋人として見てくれないかと。フロルにとっては兄弟のような存在かもしれないけれど、俺はもう、それじゃ嫌だと言いたかった」
「そうだったんだ……。僕、レオンが他の人を見るのがあんなにつらいなんて知らなかった。ずっと一緒にいたから、側にいるのが当たり前みたいに思ってたんだ」
「俺はもう……フロルしか見ない。心を試すような真似は、二度としない」
フロルは微笑んでレオンの首に手を回した。レオンもフロルを抱きしめる。大きな手が項に触れた時、フロルの脳裏にふっと一つの光景が浮かんだ。
『フロル、おれのつがいになって。ここをかめばいいんだって!』
無邪気で期待に満ちた子どもの声が耳の奥に甦る。
「……レオン。昔、僕に番になって、って言った?」
「フロル? 思い出したのか」
「うん、小さなレオンの声が聞こえた……」
レオンはそっとフロルの額に口づけた。
「番になれば、ずっと一緒にいられると思った。……今度は、もっとはっきり、ここに痕をつけたい。甘噛みじゃすまない位に」
そっと指でなぞるように項に触れれば、フロルはこくんと頷いた。レオンの目に、可愛らしい耳が真っ赤になっているのが見える。
「……あのね、レオン。僕は、ようやく自分の幸せを見つけた」
レオンのことだよ、と囁くフロルに胸が詰まる。込み上げる涙を見られぬよう、何よりも大切な恋人をレオンは強く抱きしめた。
大鷲に姿を変えた竜は、自分の奥深くにある人の子の魔力が変わったのを感じた。
今にも消えそうなほど小さかった魔力が、ゆっくりと回復していく。レオンに力を与えたのは、番であるフロルだろう。
〈あーあ、どうやら上手くいったらしいな。何だか腹が立つが仕方ない〉
銀色のねずみを見てもフロルを思い出すなら、レオンを生かす価値はある。密かにそんなことを考えて魔法をかけた竜は、ため息をついた。
カイはフロルたちに初めて会った時のことを思い出す。死にかけていた竜を助けた子どもたちは、同じ色の『気』をまとっていた。竜ならば、一目で自分たちが大切な番同士だとわかる。だが、『気』を見ることができない人間たちは、性別や香りがないと己の番の判別もできないらしい。全く不自由なことだ。
〈可愛いフロルを泣かせる奴の命など、本気でどうでもいいと思っていたが……。この体は、根本であいつの魔力と繋がっている。まあ、しばらくは様子を見ながら一緒に暮らすとするか〉
カイは番となった二人に祝福を与えると決めている。どこにいても彼らが幸せに暮らしていけるように力を尽くすつもりだ。竜とは、太古の昔から愛情深い生き物なのだから。
眼下にざわざわと多くの人が集まってくる。魔術師たちが、竜の力を感じとって騒ぎ立てているのだろう。
〈──さて、急がないと〉
ようやく心を確かめ合った恋人たちの邪魔をすることに決めて、竜はまず、北の塔の屋根を吹き飛ばした。
【 完 】
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