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翼が生えた王子、辺境伯領へ
33.可愛くて憎らしい
瞼の奥で光が揺れている。真っ白な光は翼の形をとって、ふわりと大きく広がる。まるで両手を広げるようにはためき、ゆっくりと淡く輝く何かを包みこむ。
たった一つの宝物を見つけたように、翼は何かを大切に抱え込んだ。誰にも見せないように、誰にも取られないように。これは自分だけのものだと言うように。包まれてしまった輝きは何だったのか。
翼の光が強すぎて、もうよく見えない。
(あの中にあるものは、何だろう? どうしてこんなに切なくて苦しい気持ちになるんだろう……)
「……ミシュー」
小さな声に、はっとして目を開けた。自分の体が後ろから抱え込まれている。動こうと思ったら、ちゅっと首元を強く吸われた。
「ぅゎ!」
「……可愛い」
エドマンドの嬉しそうな声が聞こえ、今度は耳たぶを柔らかく噛まれた。ビクンと体が跳ねるとくすくすと笑い出す。
「……ェ……ド」
文句を言おうとしても、小さく掠れた声しか出なかった。散々声をあげたせいだと思うと頬が熱くなる。僕の声が出ないことに気が付いたエドマンドが、すみませんと謝った。
「抑えることができませんでした。あまりに貴方が可愛らしかったので」
そう言いながら僕の髪に何度も口づけてくる。謝っているくせに全然悪いと思ってなさそうで、何とも言えない気持ちになる。僕を抱きしめる力が段々強くなり、尻に硬いものが当たった。エドマンドが切なそうにため息を漏らす。
「ミシュー……。貴方を知れば知るほど欲しくなります。ゆっくり休ませてさしあげなくてはと思うのに」
その言葉に下半身が甘く疼いた。顔が見たくなって体を動かすと、エドマンドが腕の力を緩めてくれた。
くるりと向きを変えれば、眉を下げたエドマンドが愛おし気に僕を見る。長い指が僕の頬を撫でて優しく唇に触れた。
「貴方を乞う私を……どうか、嫌わないでください」
「……ゎ……なぃ」
(……嫌ったりするわけがない)
唇をなぞっていたエドマンドの指先を、かぷりとかじった。すると、エドマンドが驚いて目を見開く。そのままちゅっと指先を吸えば、エドマンドの顔が見る間に赤くなった。
「ミシュー、お許しを。……我慢できなくなりますので」
眉を寄せて何かを堪えているエドマンドは色っぽい。ちょっと意地悪な気持ちになって、指を喉の奥まで咥え込む。呻いたエドマンドが体を震わせた時だった。
「……お目覚めでいらっしゃいますか?」
恐る恐るというように声が掛かった。寝台の天蓋から垂れる布の向こうにいるのは侍従のギースだろう。僕が気を取られた隙に、エドマンドは素早く指を抜き取った。
「起きているッ!」
「はっ、はい!」
半身を起こしながら叫んだエドマンドに、ギースは恐縮しながら一日の予定を告げた。今日は隣国の使者たちが滞在する最終日。貿易協定が結ばれる大切な日だ。
エドマンドはギースに湯浴みの用意を言いつけた。了承したギースがすぐに浴室に向かう。振り返って僕を見たエドマンドは、まるで拗ねた子どもみたいな顔をしていた。
「悪戯な貴方も可愛いですが……憎らしい。私はこれから会議に出ます。ミシューはこのままゆっくりお休みになってください」
「……ゃだ」
「ミシュー?」
「エドと……湯浴み……する」
エドマンドはぎゅっと目をつぶり、口を引き結んだ。僕がそろそろと体を起こすと、自分の顔に手を当てて「もう……」と呟いている。その姿が何だかすごく可愛らしくて頬が緩んだ。僕はエドマンドの首にするりと手を回して抱きついた。
本当のことを言えば、ちょっと甘えるだけのつもりだった。ところがエドマンドは、僕を抱えてさっさと浴室に連れて行った。
たっぷりとお湯を張った浴槽に入れられ泡だらけにされて、丁寧に体中を洗われる。ふわふわの泡から見え隠れする自分の体には、どこも赤い花が咲いていた。それを見たエドマンドは、とても嬉しそうに笑う。
「……痕、付けすぎだよ」
「ミシューの白い肌によくお似合いです」
むぅ、と口を曲げれば、エドマンドの唇がちょんと軽く触れる。蕩けそうな笑みを浮かべるから、もうそれ以上は責められない。新しい湯でさっぱりと清められ立ち上がろうとしたら、腰に力が入らなかった。
「え? あれ?」
ふらりとよろけたところを、すかさずエドマンドが支えてくれる。
「……やっぱり今日はゆっくりお休みになった方がいい。寝台からお出になりませんように」
エドマンドが会議に出かけた後、こっそり動こうとしても無理だった。その後の僕は、一日中寝台で過ごすことになってしまった。
たった一つの宝物を見つけたように、翼は何かを大切に抱え込んだ。誰にも見せないように、誰にも取られないように。これは自分だけのものだと言うように。包まれてしまった輝きは何だったのか。
翼の光が強すぎて、もうよく見えない。
(あの中にあるものは、何だろう? どうしてこんなに切なくて苦しい気持ちになるんだろう……)
「……ミシュー」
小さな声に、はっとして目を開けた。自分の体が後ろから抱え込まれている。動こうと思ったら、ちゅっと首元を強く吸われた。
「ぅゎ!」
「……可愛い」
エドマンドの嬉しそうな声が聞こえ、今度は耳たぶを柔らかく噛まれた。ビクンと体が跳ねるとくすくすと笑い出す。
「……ェ……ド」
文句を言おうとしても、小さく掠れた声しか出なかった。散々声をあげたせいだと思うと頬が熱くなる。僕の声が出ないことに気が付いたエドマンドが、すみませんと謝った。
「抑えることができませんでした。あまりに貴方が可愛らしかったので」
そう言いながら僕の髪に何度も口づけてくる。謝っているくせに全然悪いと思ってなさそうで、何とも言えない気持ちになる。僕を抱きしめる力が段々強くなり、尻に硬いものが当たった。エドマンドが切なそうにため息を漏らす。
「ミシュー……。貴方を知れば知るほど欲しくなります。ゆっくり休ませてさしあげなくてはと思うのに」
その言葉に下半身が甘く疼いた。顔が見たくなって体を動かすと、エドマンドが腕の力を緩めてくれた。
くるりと向きを変えれば、眉を下げたエドマンドが愛おし気に僕を見る。長い指が僕の頬を撫でて優しく唇に触れた。
「貴方を乞う私を……どうか、嫌わないでください」
「……ゎ……なぃ」
(……嫌ったりするわけがない)
唇をなぞっていたエドマンドの指先を、かぷりとかじった。すると、エドマンドが驚いて目を見開く。そのままちゅっと指先を吸えば、エドマンドの顔が見る間に赤くなった。
「ミシュー、お許しを。……我慢できなくなりますので」
眉を寄せて何かを堪えているエドマンドは色っぽい。ちょっと意地悪な気持ちになって、指を喉の奥まで咥え込む。呻いたエドマンドが体を震わせた時だった。
「……お目覚めでいらっしゃいますか?」
恐る恐るというように声が掛かった。寝台の天蓋から垂れる布の向こうにいるのは侍従のギースだろう。僕が気を取られた隙に、エドマンドは素早く指を抜き取った。
「起きているッ!」
「はっ、はい!」
半身を起こしながら叫んだエドマンドに、ギースは恐縮しながら一日の予定を告げた。今日は隣国の使者たちが滞在する最終日。貿易協定が結ばれる大切な日だ。
エドマンドはギースに湯浴みの用意を言いつけた。了承したギースがすぐに浴室に向かう。振り返って僕を見たエドマンドは、まるで拗ねた子どもみたいな顔をしていた。
「悪戯な貴方も可愛いですが……憎らしい。私はこれから会議に出ます。ミシューはこのままゆっくりお休みになってください」
「……ゃだ」
「ミシュー?」
「エドと……湯浴み……する」
エドマンドはぎゅっと目をつぶり、口を引き結んだ。僕がそろそろと体を起こすと、自分の顔に手を当てて「もう……」と呟いている。その姿が何だかすごく可愛らしくて頬が緩んだ。僕はエドマンドの首にするりと手を回して抱きついた。
本当のことを言えば、ちょっと甘えるだけのつもりだった。ところがエドマンドは、僕を抱えてさっさと浴室に連れて行った。
たっぷりとお湯を張った浴槽に入れられ泡だらけにされて、丁寧に体中を洗われる。ふわふわの泡から見え隠れする自分の体には、どこも赤い花が咲いていた。それを見たエドマンドは、とても嬉しそうに笑う。
「……痕、付けすぎだよ」
「ミシューの白い肌によくお似合いです」
むぅ、と口を曲げれば、エドマンドの唇がちょんと軽く触れる。蕩けそうな笑みを浮かべるから、もうそれ以上は責められない。新しい湯でさっぱりと清められ立ち上がろうとしたら、腰に力が入らなかった。
「え? あれ?」
ふらりとよろけたところを、すかさずエドマンドが支えてくれる。
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