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第10話 ペモティス・ファミリー ②
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オライが悲鳴をあげた。
「やめてってば!」
(殺される!?)
有珠斗は本能的に逃げ出そうとして、無意識に全身に力をこめた。すると体中に紫の火花が散り、激痛が走った。
(っ、、、痛~~~~~~~~!!なんだこの最悪の魔法は!だめだ逃げられない、言葉で弁明せねば!)
「僕は神子じゃない!あの化け物とも戦ったじゃないですか!自分が放った化け物と戦うのっておかしいでしょう!」
サマエルは鼻で笑う。
「あの戯れが『戦った』だと?薔薇の樹術は敵に棘を打ち込んでから、棘を毒化させるなり爆発させるなりして内部から破壊するのが常套だ。敵に棘を打ち込みながら何もしないやつを初めて見たぞ」
「棘!?そんな便利なことができるんです!?教えてくれたらやったのに!『樹術』っていうんですかあの植物動かすやつは。僕いまのところあれしかできないんですが」
オライが必死に叫ぶ。
「ウストはなんも知らないんだよ!ウストは神子に家族を皆殺しにされたファウストの直系子孫だ!ウストの『心臓』は神子に奪われた魔女の心臓じゃなくて、正真正銘、生まれつきの心臓だよ!ウストは生まれつき魔女の心臓を持ってるんだ!」
再びしん、としずまった。
またまた長い沈黙が下りる。
バフォメットが唸り声めいた音を出す。
「オライ……。三百年前に死んだ最後にして最大の魔女、我が一族の祖ワルプルギスには二人の息子がいた。長男ファウストと、次男メフィストフェレス。魔女の心臓は長子にのみ受け継がれるから、ワルプルギスの心臓を受け継いだのはファウストだった。だがその血脈は失われた。百年ほど前、ワルプルギスの心臓ごと、ファウストの一族はこの世から忽然と消えた。その行方は誰も知らない」
「ファウストの一族はずっと異世界に隠れてたんだって!でも神子に見つかったからこっちの世界に戻ってきたんだって!」
「……………………………………………」
「分かるよ、信じられないよな、俺も異世界らへんは半分くらいしか信じてないよ!でもウストが神子じゃないってのは信じる!こんな感じのいいやつが、神子のわけないよ!神子は全員、禍々しい!ウストはちっとも禍々しくない!」
有珠斗の胸が熱くなる。出会ったばかりの有珠斗をこれほど信じてくれて、オライはなんて優しい少年だろう。
サマエルは根強い不信のまなざしで問う。
「ではなぜ、断罪の獣はこいつを殺さなかった?」
「神子の体液だよ!神子の体液の匂いをかいで、断罪の獣はウストを神子と勘違いしたんだ!ウストは神子の体液を全身に浴びてびしょぬれになって、その後風呂に入ってないんだ!」
「なんかすみません……」
言われてみれば不潔だな、と有珠斗は恐縮する。
「ではなぜこいつは、魔女の心臓を三つも持っている!こいつからは心臓三個分の波動を感じるぞ!」
「一個はウスト自身の心臓、一個はウストのお父さんの心臓、一個はウストのお父さんが殺した聖統神子の心臓だ!」
言ってオライは、有珠斗のズボンのポケットに手を突っ込んで、二つの巨大ルビーを取り出した。
オライは赤く輝く二つの貴石を、サマエルに掲げて見せる。
サマエルはぐっ、と言葉に詰まった。
座長以下、皆が息を飲む。
バフォメットが狼狽しながら言う。
「これは一体、どういう」
オライがにっと笑う。
「どう?やっと真面目に話を聞く気になった?ほら、サマエル兄ちゃん、拘束を解いてあげて。みんなでちゃんと、まずはウストの話を聞こう!」
サマエルは不機嫌そうな顔で逡巡していたが、根負けした様子で、有珠斗に突き付けていた杖を持ち上げた。
杖がようやくひっこみ、ずっと面前に銃口を向けられていた心地だった有珠斗はほっと安堵する。
「わかった。話だけは聞いてやる。だがまだ拘束は解かな……」
サマエルが言いかけた時。
二つに切断されて干物のように伸びていた化け物、「断罪の獣」が急に飛び跳ねた。
(生きてた!?)
どろどろモンスター改め、しわしわモンスターと化した半身の断罪の獣は、しかし驚異的な回復力と跳躍で、近くにいたオライに飛びついた。
醜い口をくわとあけ、オライの首に牙を立てる。
オライの首筋から血が噴き出す。
「うあああああああ!」
オライの悲痛な悲鳴が響いたその時、有珠斗は魔法を行使するべく脳で信号を送ろうとした。
瞬間、サマエルの拘束の術が発動し、紫の火花が有珠斗の身を締め上げた。
全身の骨がハンマーで砕かれるような激痛が、有珠斗の魔法行使を押しとどめようとする。
(くうっ!!い、痛くない痛くない痛くない、すごい痛いけど痛くない!)
有珠斗は無理矢理、魔法発動の信号を送る。
(はじけ、飛べええええええええええ!)
化け物の内部に刺さったままの、大量の「薔薇の棘」が、仕掛けられた超小型爆弾のように、爆発する。
化け物は粉々に砕け散った。
噛みつかれていたオライを傷つけることなく、棘の仕込まれた体だけを粉砕し芥子粒にする。
(優秀な魔法だ……)
だが拘束の術を強引に突破した反動で、有珠斗の意識が遠のいていく。
遠のく意識の中で、オライの泣き声が聞こえた。
「ウスト!?ねえウスト!」
サマエルの焦った声も。
「馬鹿な、拘束を突破して魔法を発動しただと!?」
全身の骨を砕かれる激痛の中、有珠斗は「よかった」と思う。
オライは無事だ、他の皆も。
化け物をやっつけた。今度こそ助けることができた。
両親と弟三人は殺されてしまったけど、今度こそ。
——よかった。
◇ ◇ ◇
「やめてってば!」
(殺される!?)
有珠斗は本能的に逃げ出そうとして、無意識に全身に力をこめた。すると体中に紫の火花が散り、激痛が走った。
(っ、、、痛~~~~~~~~!!なんだこの最悪の魔法は!だめだ逃げられない、言葉で弁明せねば!)
「僕は神子じゃない!あの化け物とも戦ったじゃないですか!自分が放った化け物と戦うのっておかしいでしょう!」
サマエルは鼻で笑う。
「あの戯れが『戦った』だと?薔薇の樹術は敵に棘を打ち込んでから、棘を毒化させるなり爆発させるなりして内部から破壊するのが常套だ。敵に棘を打ち込みながら何もしないやつを初めて見たぞ」
「棘!?そんな便利なことができるんです!?教えてくれたらやったのに!『樹術』っていうんですかあの植物動かすやつは。僕いまのところあれしかできないんですが」
オライが必死に叫ぶ。
「ウストはなんも知らないんだよ!ウストは神子に家族を皆殺しにされたファウストの直系子孫だ!ウストの『心臓』は神子に奪われた魔女の心臓じゃなくて、正真正銘、生まれつきの心臓だよ!ウストは生まれつき魔女の心臓を持ってるんだ!」
再びしん、としずまった。
またまた長い沈黙が下りる。
バフォメットが唸り声めいた音を出す。
「オライ……。三百年前に死んだ最後にして最大の魔女、我が一族の祖ワルプルギスには二人の息子がいた。長男ファウストと、次男メフィストフェレス。魔女の心臓は長子にのみ受け継がれるから、ワルプルギスの心臓を受け継いだのはファウストだった。だがその血脈は失われた。百年ほど前、ワルプルギスの心臓ごと、ファウストの一族はこの世から忽然と消えた。その行方は誰も知らない」
「ファウストの一族はずっと異世界に隠れてたんだって!でも神子に見つかったからこっちの世界に戻ってきたんだって!」
「……………………………………………」
「分かるよ、信じられないよな、俺も異世界らへんは半分くらいしか信じてないよ!でもウストが神子じゃないってのは信じる!こんな感じのいいやつが、神子のわけないよ!神子は全員、禍々しい!ウストはちっとも禍々しくない!」
有珠斗の胸が熱くなる。出会ったばかりの有珠斗をこれほど信じてくれて、オライはなんて優しい少年だろう。
サマエルは根強い不信のまなざしで問う。
「ではなぜ、断罪の獣はこいつを殺さなかった?」
「神子の体液だよ!神子の体液の匂いをかいで、断罪の獣はウストを神子と勘違いしたんだ!ウストは神子の体液を全身に浴びてびしょぬれになって、その後風呂に入ってないんだ!」
「なんかすみません……」
言われてみれば不潔だな、と有珠斗は恐縮する。
「ではなぜこいつは、魔女の心臓を三つも持っている!こいつからは心臓三個分の波動を感じるぞ!」
「一個はウスト自身の心臓、一個はウストのお父さんの心臓、一個はウストのお父さんが殺した聖統神子の心臓だ!」
言ってオライは、有珠斗のズボンのポケットに手を突っ込んで、二つの巨大ルビーを取り出した。
オライは赤く輝く二つの貴石を、サマエルに掲げて見せる。
サマエルはぐっ、と言葉に詰まった。
座長以下、皆が息を飲む。
バフォメットが狼狽しながら言う。
「これは一体、どういう」
オライがにっと笑う。
「どう?やっと真面目に話を聞く気になった?ほら、サマエル兄ちゃん、拘束を解いてあげて。みんなでちゃんと、まずはウストの話を聞こう!」
サマエルは不機嫌そうな顔で逡巡していたが、根負けした様子で、有珠斗に突き付けていた杖を持ち上げた。
杖がようやくひっこみ、ずっと面前に銃口を向けられていた心地だった有珠斗はほっと安堵する。
「わかった。話だけは聞いてやる。だがまだ拘束は解かな……」
サマエルが言いかけた時。
二つに切断されて干物のように伸びていた化け物、「断罪の獣」が急に飛び跳ねた。
(生きてた!?)
どろどろモンスター改め、しわしわモンスターと化した半身の断罪の獣は、しかし驚異的な回復力と跳躍で、近くにいたオライに飛びついた。
醜い口をくわとあけ、オライの首に牙を立てる。
オライの首筋から血が噴き出す。
「うあああああああ!」
オライの悲痛な悲鳴が響いたその時、有珠斗は魔法を行使するべく脳で信号を送ろうとした。
瞬間、サマエルの拘束の術が発動し、紫の火花が有珠斗の身を締め上げた。
全身の骨がハンマーで砕かれるような激痛が、有珠斗の魔法行使を押しとどめようとする。
(くうっ!!い、痛くない痛くない痛くない、すごい痛いけど痛くない!)
有珠斗は無理矢理、魔法発動の信号を送る。
(はじけ、飛べええええええええええ!)
化け物の内部に刺さったままの、大量の「薔薇の棘」が、仕掛けられた超小型爆弾のように、爆発する。
化け物は粉々に砕け散った。
噛みつかれていたオライを傷つけることなく、棘の仕込まれた体だけを粉砕し芥子粒にする。
(優秀な魔法だ……)
だが拘束の術を強引に突破した反動で、有珠斗の意識が遠のいていく。
遠のく意識の中で、オライの泣き声が聞こえた。
「ウスト!?ねえウスト!」
サマエルの焦った声も。
「馬鹿な、拘束を突破して魔法を発動しただと!?」
全身の骨を砕かれる激痛の中、有珠斗は「よかった」と思う。
オライは無事だ、他の皆も。
化け物をやっつけた。今度こそ助けることができた。
両親と弟三人は殺されてしまったけど、今度こそ。
——よかった。
◇ ◇ ◇
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