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第6話 回想/暴走(2)
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食堂から逃げ出し、嫌な気分のまま草原を歩いていた。
自分が悪魔にでもなったような気がした。
いや事実、そうなのだ。サギトは魔人なのだ。
魔術でザックをいたぶった時、最高の気分だった。あのまま殺してしまいそうな程。
吐き気がしてきた。サギトはその気になれば、簡単に魔術で人を殺せるのだろう。
不安に押しつぶされそうになり、草の上にうずくまった。胸を押さえた。
自分自身に、恐怖した。
「サギト!どうした!」
後ろから駆けてくる、グレアムの声。サギトは唇を噛み締める。
(どうしてお前はいつも、来てくれるんだろう)
心配させたくないサギトはすくと立ち上がった。
「なんでもない」
言いながら振り向いて、サギトは冷たい手で心臓をつかまれたような心地になる。
グレアムが、あの本を持っていた。あのボロボロの本。
文面が脳裏に蘇った。
『極めて危険な存在であり、人ではなく魔人として扱うべきである。人ではないので、出来れば幼少時に殺してしまうのが望ましい』
青ざめるサギトの視線に気づいた様子で、グレアムはその本を掲げて見せた。
「ああ、これな。この本さ、燃やそうぜ」
サギトは眉間にしわを寄せた。理解できずグレアムを見つめた。グレアムはちょっとばつが悪そうに、
「ごめん、読んじゃった。お前、慌てて本棚にしまってたから、あのページに折り目ついてたぜ」
そういうことか。サギトは震える手を握りしめた。自分の迂闊さを呪った。
あんな妙な態度で慌てて本棚にしまったら、グレアムも気になるに決まってる。そして読むに決まってる。
「そんな顔すんなって。大丈夫、誰にも言わねえよ。でもこの本は危険だ。だって、さっきのネズミのアレみたいなことやってると、そのうちお前に魔力あるって皆気づくぞ。でこの本読まれたら、面倒なことになりそうだろ?」
サギトは驚き、目を見開いた。そんな心配をしてくれていたのか?
考えなしに魔術を発動して嬉々としていた、愚かな俺なんかの為に。
「グレアムは俺が怖くないのか?俺は魔人……」
グレアムは微笑みながら首を振った。
「怖くねえよ。サギトはサギトだろ」
サギトはうつむいた。グレアムがサギトの頭を撫でた。
撫でられて気づいた、自分がその優しい手を待っていたことに。
目頭が熱くなった。涙がこぼれだした。
「……これからも友達でいてくれるか?」
「当たり前だろ。かっこいいじゃないか、魔人なんて」
グレアムはおどけたようにそう言うと、サギトの体をぎゅっと抱きしめた。サギトはびっくりするが、目からもっと涙が出てきた。
「うっ……、くっ……」
サギトはグレアムの胸にすがり、情けなく泣きじゃくった。
グレアムは小さな子をあやすようにサギトの頭を撫で付けながら、ずっと抱きしめてくれた。
グレアムの腕の中はとても暖かかった。
ようやく泣き止んだサギトを励ますように、グレアムは明るい声で言った。
「さあ、燃やそうぜ。俺マッチ持って来たから。場所は、あそこでいっか、読書のとこ」
「うん」
サギトは涙をぬぐいながら、こくんと首を縦に振った。
サギト達は草原を抜け、森の奥へと入っていった。サギトの秘密の読書場所。ちょっとひらけた森の中の草地。
いつものそこに着き、グレアムはふと思い立ったようにサギトに尋ねた。
「燃やす前に一応、他の部分も読んでおくか?」
サギトは迷ったが、うなずいた。燃やしたら二度と読めない。もしかしたら他にも重要なことが書いてあるかもしれなかった。
グレアムから本を受け取り、サギトは腰を下ろして本をめくった。隣にグレアムも腰掛け、本を覗いた。
改めて手にすると、実は立派な装丁の本であることに気づかされた。ボロボロでなければ実は高級な書物なのかもしれない。
ぱらぱらと捲り、紫眼という単語を探し、そのものずばりの章を見つけた。「紫眼の魔術」と名づけられた章。例の文面は、この章の始まりの一節だったようだ。
「あった、ここだ」
「よし、読もうぜ」
「ああ」
自分が悪魔にでもなったような気がした。
いや事実、そうなのだ。サギトは魔人なのだ。
魔術でザックをいたぶった時、最高の気分だった。あのまま殺してしまいそうな程。
吐き気がしてきた。サギトはその気になれば、簡単に魔術で人を殺せるのだろう。
不安に押しつぶされそうになり、草の上にうずくまった。胸を押さえた。
自分自身に、恐怖した。
「サギト!どうした!」
後ろから駆けてくる、グレアムの声。サギトは唇を噛み締める。
(どうしてお前はいつも、来てくれるんだろう)
心配させたくないサギトはすくと立ち上がった。
「なんでもない」
言いながら振り向いて、サギトは冷たい手で心臓をつかまれたような心地になる。
グレアムが、あの本を持っていた。あのボロボロの本。
文面が脳裏に蘇った。
『極めて危険な存在であり、人ではなく魔人として扱うべきである。人ではないので、出来れば幼少時に殺してしまうのが望ましい』
青ざめるサギトの視線に気づいた様子で、グレアムはその本を掲げて見せた。
「ああ、これな。この本さ、燃やそうぜ」
サギトは眉間にしわを寄せた。理解できずグレアムを見つめた。グレアムはちょっとばつが悪そうに、
「ごめん、読んじゃった。お前、慌てて本棚にしまってたから、あのページに折り目ついてたぜ」
そういうことか。サギトは震える手を握りしめた。自分の迂闊さを呪った。
あんな妙な態度で慌てて本棚にしまったら、グレアムも気になるに決まってる。そして読むに決まってる。
「そんな顔すんなって。大丈夫、誰にも言わねえよ。でもこの本は危険だ。だって、さっきのネズミのアレみたいなことやってると、そのうちお前に魔力あるって皆気づくぞ。でこの本読まれたら、面倒なことになりそうだろ?」
サギトは驚き、目を見開いた。そんな心配をしてくれていたのか?
考えなしに魔術を発動して嬉々としていた、愚かな俺なんかの為に。
「グレアムは俺が怖くないのか?俺は魔人……」
グレアムは微笑みながら首を振った。
「怖くねえよ。サギトはサギトだろ」
サギトはうつむいた。グレアムがサギトの頭を撫でた。
撫でられて気づいた、自分がその優しい手を待っていたことに。
目頭が熱くなった。涙がこぼれだした。
「……これからも友達でいてくれるか?」
「当たり前だろ。かっこいいじゃないか、魔人なんて」
グレアムはおどけたようにそう言うと、サギトの体をぎゅっと抱きしめた。サギトはびっくりするが、目からもっと涙が出てきた。
「うっ……、くっ……」
サギトはグレアムの胸にすがり、情けなく泣きじゃくった。
グレアムは小さな子をあやすようにサギトの頭を撫で付けながら、ずっと抱きしめてくれた。
グレアムの腕の中はとても暖かかった。
ようやく泣き止んだサギトを励ますように、グレアムは明るい声で言った。
「さあ、燃やそうぜ。俺マッチ持って来たから。場所は、あそこでいっか、読書のとこ」
「うん」
サギトは涙をぬぐいながら、こくんと首を縦に振った。
サギト達は草原を抜け、森の奥へと入っていった。サギトの秘密の読書場所。ちょっとひらけた森の中の草地。
いつものそこに着き、グレアムはふと思い立ったようにサギトに尋ねた。
「燃やす前に一応、他の部分も読んでおくか?」
サギトは迷ったが、うなずいた。燃やしたら二度と読めない。もしかしたら他にも重要なことが書いてあるかもしれなかった。
グレアムから本を受け取り、サギトは腰を下ろして本をめくった。隣にグレアムも腰掛け、本を覗いた。
改めて手にすると、実は立派な装丁の本であることに気づかされた。ボロボロでなければ実は高級な書物なのかもしれない。
ぱらぱらと捲り、紫眼という単語を探し、そのものずばりの章を見つけた。「紫眼の魔術」と名づけられた章。例の文面は、この章の始まりの一節だったようだ。
「あった、ここだ」
「よし、読もうぜ」
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