禍ツ天使の進化論

空月 瞭明

文字の大きさ
65 / 141

第65話 傀儡工房村、襲撃(5) 多勢

しおりを挟む
 カサドが叫ぶと同時に、ゴゴゴ、という振動が起きた。
 奥にある扉の一つが、中から緑色の光を放った。
 と思うや、その扉を蹴破って、中から大量の死霊傀儡がぞろぞろと出てきた。

「れりエル……あれス……コロス……」

「コロス……」

 闇色の体、赤い瞳、牙とかぎ爪。
 その不気味な存在が大量に出てくる。数十体、いやそれ以上の数だ。

「うっ……嘘だろ……」

 レリエルはその数におののき、じりりと後ずさりした。
 アレスは真剣な顔で剣を抜き、腰を屈めた。

 カサドが勝ち誇ったように哄笑した。

「かあーはっはっは!どうだ凶悪で醜くて最高に可愛いだろお?オレたちの息子たちはよお!やっちまいな!!」

 死霊傀儡が一斉に飛びかかってきた。
 黒い洪水のように。
 
 二人が一瞬でその洪水に飲み込まれる……かに見えた、その刹那。

「——風斬剣ザン・ウェントス

 アレスが技名と共に回転し、一閃。
 風の刃が生じる。
 たったその一閃で、最初に飛びかかってきた死霊傀儡たちの一群が、粉々に吹っ飛んだ。さらに、

「——風斬剣ザン・ウェントス、連撃!」

 アレスは死霊傀儡の群の中に踊り込んだ。
 とてつもない速さで、剣が振るわれる。
 その度に風の刃が生じて大量の死霊傀儡たちを粉砕していった。
 死霊傀儡の首が、腕が、胴が、凄まじい勢いで飛び散っていく。
 剣技と魔法の組みわせ、「魔剣技まけんぎ」だ。
 死霊傀儡の切り刻まれた肉片が、枯葉のように工房内で散乱する。竜巻の中心でアレスが見事な剣舞を舞っている。
 剣聖、と呼ぶにふさわしい圧巻の剣技だった。
 
 職人天使たちは圧倒された様子でそれを見ていた。

「おい、なんだこれ……なんだこいつ……」

「あんなたくさんの死霊傀儡が、あっという間にバラバラに!」

 カサドは頬をひくつかせながらも、口元を歪めて笑った。

「はん、器をバラしたからなんだってんだ?どうせすぐに復活するんだ。こんな大量の傀儡魂ギミック・セフィラをどうやって破壊する!?無理さ!死霊傀儡は百はいるぞ!」

 その時レリエルは、アレをやってみよう、と思っていた。
 通常のセフィロト攻撃をちまちま打っても駄目だ。
 毎日のようにトラエスト城で訓練し、かなりイメージは出来上がっていた。
 
 両腕をつきだし、精神を統一し、見る。
 くるくると回転する十の赤い球、傀儡魂ギミック・セフィラ。その姿をはっきりと目に焼き付けた。
 
「……見えたっ!――大破魂メガ・クリファ・セフィラ!」

 直径一メートルの透明な球体が、レリエルの手の中に生じた。
 レンズのように空間を歪ませる球体が、死霊傀儡の肉片に向かって放出される。
 球体に触れ、舞い散る肉片が爆ぜた。爆ぜたそばから黒い煙となって消えていく。
 死霊傀儡数体分の傀儡魂ギミック・セフィラを、レリエルは消滅させた。

「ぼ、僕にも出来たっ!」

 レリエルは嬉しそうに言った。職人天使達から唸り声が上がる。

「なんだあの咒法じゅほうは!?レリエルのやつ、たった一回の攻撃であんなに沢山消しちまった!」

 咒法じゅほうとは、天使達の使う魔法の呼び名である。カサドはふふん、と笑った。

「まあ、確かにすげえ。でも、足りねえだろ。全然だ、焼け石に水だ!」

 その言葉に、レリエルは顔をしかめる。焼け石に水、カサドの言う通りだった。

「ま、まだまだだ!何度でも打ってやる!」

 そして今成功したばかりの大破魂メガ・クリファ・セフィラを連続で繰り出した。

 アレスはまだ人型を保っていた、最後の一体を切り刻み、剣舞を止めた。
 とりあえず全てを肉片にはした。
 無論、ピクピクうごめいてはいるのだが。
 アレスは大破魂メガ・クリファ・セフィラを連打するレリエルをちらりと見て微笑んだ。

「すげえなレリエル。もう習得したのか。俺も負けてらんねえな」

 アレスは剣を収めると、深呼吸をした。
 レリエルだけに任せているわけにはいかない、アレスもセフィロト攻撃に参加せねば。
 アレスは深く、深く呼吸し、心を安定させた。
 集中する。
 極限の精神力で、集中する。

 波紋一つない透明な湖のように、アレスの心が研ぎ澄まされた。

 アレスの瞳には、セフィロトの樹の図形がはっきりと浮かんでいた。
 その目に、捉える。全ての傀儡魂ギミック・セフィラを。

 アレスの霊眼には今、完璧な座標が描かれていた。

 今この部屋にある、およそ百体の死霊傀儡の、およそ千の傀儡魂ギミック・セフィラの、位置を、形状を、座標目盛りミリ単位の正確さで、「見た」。

 そして、両手をまっすぐ上に掲げ、術名を叫ぶ。

「――極大破魂テラ・クリファ・セフィラ!」

 部屋の中の全空間がその一瞬、突然さざめいた。
 多量の小石を投げ込まれた水面のように、空間がざっと泡立つ。

 そして大量爆発が起きた。
 大爆発ではなく、大量の小規模爆発だ。
 部屋中に散乱した黒い肉片が、それぞれボンっと黒い消し炭となって弾けとんだ。
 それはまるで、小さな千の花火、黒い千の花火が、床で一斉に爆発したような有様だった。

 工房の作業部屋中に黒い灰が豪雪のように舞い降りる。

 見回せば死霊傀儡は一体も、残ってなかった。

 あとはただ、凪のような静寂。

 職人天使たちが呆然としている。 

「な、何だ……。今何が起きたんだ……」

「嘘だろ?全部、消えただと……?」

 レリエルも信じられない面持ちで、死霊傀儡の消え去った部屋を見渡していた。

 アレスは、がくりと体を曲げ、両手を膝につくと、ハアハアと息をついた。心臓は高鳴り、ガンガン割れるような頭痛がした。
 極大魔法はただでさえ体に大きな負担がかかる。ましてセフィロト攻撃は、大変な集中力、精神力を必要とした。

 だが呼吸を整え、なんとか身を起こすと、笑顔でレリエルに振り向いた。

「すっげーな、レリエル!驚いたよ、お前の大破魂メガ・クリファ・セフィラ!やるじゃないか!」

 レリエルは吹き出すと、呆れたように首を振った。

「このタイミングでそれか?嫌味にしか聞こえないぞ。お前ってほんと、とんでもないな」

「えー、嫌味か?全然そんなつもりないんだけどな」

 アレスが頭をかきながら霊体化防御をしているカサドたちに近づいた。

 すっ、と片手を突き出す。
 職人天使が恐怖に身を捩った。

「くっ、やろうってのか!」

「大丈夫、殺しはしない。魂構成子セフィラがラスト一つになれば、行動不能になるな?眠っててくれ。すげー痛いと思うが、我慢しろよ?レリエルも手伝ってくれ」

「え?あ、ああ!」

 カサドが悔しげに歯を食いしばった。

「なっ、命を助けるだと!?ふざけるな、情けなんぞいらんわ!こんな老いぼれ、殺したきゃ殺っ……。う、く……うがああああ……っ!」

 言い終わらないうちに、カサドは苦悶に顔を恐ろしく歪めた後、気絶した。他の職人天使たちも。アレスとレリエルが調整しながら連打した、セフィロト攻撃によって。
 アレスはふうと息をつく。

「これで邪魔はいなくなったな」

------------------------------------------------------

アレス、本日の俺TUEEEタイムでした
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

処理中です...